第3話:前世知識、トリアージタグ

「ちょっと良いですかぁ?」


私、フロエルはドグマ軍曹を呼び止めた。


凛々しいナイスミドルに整えられた髪型、スマートに鍛え上げられた体つきをしている。私が元男でなければ嬌声を上げていただろう。


前世の俺もこうでありたかった……………


許すまじイケメン、じゃなくて本題の資料と試作品をテーブルに広げる。


「まずこれ、今この現場に必要そうな物の一覧表です」

「ほう………確かにな。ところでいくつか見慣れないものがあるが何に使うんだ? 特に度数の高い酒、火の魔道具、雷の魔道具だが」


数少ない前世知識の使い所だ。


「高濃度のアルコールは人に毒なのはご存知の通りですが、それは細菌や病原菌にも同じなんですぅ。手術前に切開する患部にかけることで、手術後の細菌感染のリスクを下げますぅ。

火の魔道具も同じような使い方ですねぇ、高温の熱湯で菌を殺したり、患者さんの体を拭いて清潔に保つことでより早い回復が望めますぅ。そして雷の魔道具は……………保険です」

「保険?」

「心肺蘇生法、という処置を覚えてますか?」

「あぁ、あの死者蘇生の儀式か」


この世界では、人は死んだ瞬間に魂が天に召されるという死生観を持っている。それを覆すような行動を何回も、何回も行ったらどう思われるだろうか。


「あれは人の魂が昇天する前に体を生き返らせることで、再び現世に定着させる荒技ですぅ。使いすぎてどうなるかという話ではありませんが、それでも蘇生の確率は10%程」

「かなり低いな………」

「そこで、心臓に向かって電流を流すことで、乱れた脈を正常に戻すという寸法です。この方法を併用すれば50%にも跳ね上がります」


50:50の確率で人命が助かる、ならばシャーマンの謗りも受ける覚悟だ。


「なるほど………」


幸いにも、ドグマさんは医学的根拠のある行動だと認めてくれた。これが他の頭の硬い人だったらどうなっていたか………


「そしてこれはトリアージタグ、と名づけました」

「随分とカラフルだな?」


救命ドラマでお馴染みのトリアージだ。しかし私のオリジナル要素も足して、下から順に緑、黄色、赤、黒、紫の順になっている。


「緑は軽傷、すぐに動いても平気。黄色は中傷、すぐに処置しなくても大丈夫ですが、なるべく早くの治療が望まれますぅ。赤は重傷、今すぐに手術しないと危険な状態です。そして黒は……………お亡くなりです」

「なるほど、衛生兵が判断してちぎっていく訳だな?」

「即座の判断と診察力が問われます、今の私には無理ですねぇ」


悔しい話だが、こればかりは場数の問題だろう。




「紫の説明がなかったが?」

「それは—————ですぅ」

「…………なるほど、それは最悪の事態だな」

「はいぃ、万が一のこともあるので、紫の人は事実上の見殺しに…………」


胃から熱いものが込み上げてきて、それを鎮めるのに必死で目尻が濡れる。


「……………分かった、組織に量産してもらえるように頼もう」

「はいぃ………」




さて、仕事をしよう、今日中に寝れるかな。




「ドグマ医療軍曹! 急患です!!」

「「!!」」


「マーチャントは俺の助手だ」

「はいな!」

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