27.崩壊

  〜二週前〜


 薄暗い部屋にファントームを置いた机だけが明るく光っている。例のように小さなスパナを使い楽器のように打ち鳴らす男が座っていた。

頭を叩かれていたファントームが口を開いた。


『欲求不満か。そんな事をしても俺にはなんの痛覚もない。みっともないからやめておくんだな』


ここではマリウスと呼ばれていた科学者は口角を上げて喋り始めた。


「そうか?試してみるかい?」


一定の律動でファントームを叩き始めたマリウスはその間隔を変え、ついには叩く強さも変えて声の主に打撃を与えた。


『痛い痛い!何をする!やめろサミュエル!』


それを聴いたマリウスはさらに口角を上げ繰り返し頭を叩き続けた。


「やめろだって?誰に口を利いているんだ。あんたは今の立場を分かってるのか」


『分かった!分かったからスパナを離せ』


「やはりあんたには今の立場を嫌と言うほど理解させる必要があるな。あんたが入ったこのちっぽけなチップの仕組みを考えたのは僕だ。だから僕にかかればこんな事も何でも出来るんだ。当然、ファントームの表面にはセンサーなんて無いから本当は叩かれても何にもならない。でもさ、あんたの脳の情報を書き換えたとしたらどうなる?」


『お前、俺に何をしたんだ!』


マリウスは暗い微笑みを消す事なくファントームを凝視して語る。


「ああ、あんたの想像通りさ。マニガンに向かう直前にあんたに話したあれだよ。ふふふ、当時は報告という形で上官のあんたに話したあれさ」


『貴様、俺の脳を弄ったのか』


「ああそうさ。疑似体験であってもそれを体感できる脳にしてやったのさ。しかも僕の都合通りになるようにね」


『都合通りだと?では俺の生き死には全てお前が握っていると言うことか』


「ああ、そうだ。全ての四肢の痛みを伝達出来る様にしてやった。ただ、人間の時とは違うのは"生き死に"なんてものはあんたにはもう与えられない。ずっと痛みを感じながら死ぬことは許されない。その痛みのトリガーは僕が任意に引けるんだ。ああそうそう、もうひとつあんたの脳にプレゼントをしてやったんだ。それは面白いものだよ。喜んでくれるかな?」


ファントームの光学センサーは自分の部下だった男を見上げたまま動きを無くしていた。


  〜別の部屋〜


「サジタル君、少し解ってきたぞ。ここに届いた匿名の小包の事だ。廃棄された小包のタグを廃棄物保管所で探し出した。ああそうだ。君も知っての通りここから出る廃棄物は秘匿事項に触れないものから一定期間を置いて分別されて外に出される。俺はそこの紙の山からこれを探し出した」


「マシュー博士、そんな大変な事をされてたんですか。言ってくだされば僕も手伝いましたのに」


「いや、実は紙の山と言ってもそんなに大した量じゃなかったしな。大丈夫だ。それよりもこのタグの中身をトレースしたらとんでも無い事が分かったんだ」


「とんでもない?匿名の人物が特定されたんですか」


「そうだ。差し出したのは星の反対側のロックハンプと言う街からだったが、実はこの郵便のタグは本来ならばその郵便物を出すときに新たに権利を買わなければならない。まあ、それが距離に従って高くなる従量制だから何とかして誤魔化そうとする輩が一定数いるんだな。古いタグを初期化して再使用するブローカーみたいな者が各地に存在している。まあこのブローカーの質が悪かったんだろう。初期化したのは表面の郵便屋がスキャンするアドレス部分だけで中身は残ったままだったんだ」


「え?何を仰ってるんですか。理解できません」


「俺はこう推測した。このロックハンプと云うのは単なる経由地だ。誰かがここにいったん中身を送って、依頼された人物がそれをここに送りつけた。ただ、その依頼された人物が郵送料を浮かそうとしてブローカーにタグの初期化を依頼したんだろう」


「とすると発送元は別の土地って事ですか。それは何処なんです?そこに行けばカスターで804が壊滅した原因が分かるんでは」


「ああ、分かるかもしれんな。何処か知りたいか」


「もちろんです。804壊滅理由とアルフレッドの消息は謎のままなんですから」


「サジタル君、心して聞くんだぞ。いいか。発送元はこの研究棟だ。荷物はここから遥か星の反対側に行って戻ってきただけだ。差出人もタグデータの中にあった」


「え?ここから?誰がそんな事をするって言うんです」


「おい、その人物のところへ行こう。今ならその真意が聞けるかも知れん」


  〜アンティークドアの部屋〜


 ドアをノックした二人は中からの反応を静かに待っていた。

数十秒後スピーカー越しに声が聞こえ入っても構わないと言っている。


「なんだ?君たち二人が揃って来るのは何度目だ?今日は何の用事だ。わしはこの陸士のデータ取りで忙しいのだよ。簡潔に言い給え」


アントニウスは自分の目的を邪魔されたことによる苛立ちを二人に向けて言った。


「いえ、今日は先生に用事ではなく助手のミランダに少々確認したい事がありまして」


マシューはそう言うとサジタル見て頷いた。サジタルもまた頷いている。癇癪を起こしそうになっている老博士はこう言って怒りの礫を二人に浴びせた。


「分かった!あとの作業はわし一人でも出来るから早く彼女を連れて出て行きなさい。研究の邪魔だぞ。アポイントメント無しで訪問するのはもうやめてくれ。一時間ほどなら彼女を貸し出ししてやる。さあ出ていってくれ」


老博士は二人のうちの一人には陸士に入っているオリジンの事を秘密にしている手前、苛立ちを表に出してとにかくこの部屋から遠ざけたかった。


助手のミランダが言う。「博士、では一時間したら戻ってまいります」


  〜


 三人はマシューの部屋に入った。マシューはドアの鍵を掛けサジタルとミランダを奥の部屋に案内した。そして彼はミランダをそこにある木製の椅子に腰掛けさせて言う。


「ミランダ忙しいところすまないな」


「いえ、アントニウス博士は"あれ"をお一人でやりたいんです。私は居てもいなくても同じですし大丈夫です」


「今日君に訊きたいのはその"あれ"の事だよ。あれはどうやってアントニウスの部屋に」


それに対して彼女は用意していた冷静さを使い答えることにした。


「そうか。それはロックハンプと云う街からアントニウス宛に匿名で送られてきたんだな。その匿名者が何故アントニウスの名前を知っていたんだろうね」


「それは私には分かりません。私はただ彼宛に送られてきた荷物をそのままお渡ししただけです」


「エックハルトの所にも"ひとつ"送られてきたそうだが、君はそれを知っているかね」


「いえ、存じ上げません」


「そうか。では何故当該人物はそのオリジン達を今まで大事に隠して持っていたのに、今になってそれを無償で我々に渡そうとしたんだろうね。君はそれをどう推測する」


ミランダは使い慣れた冷静さを続けていたが、こんな前に進まぬ問答に自分の時間を取られている事に不快感を覚え始めていた。


「マシュー博士、私は何も知り得ませんし、推測も何も出来るはずはありませんよ」


「そうだな。では俺が一方的に推測した事を話していく」


  〜数十分前〜


「ここは外界から隔絶されている場所だ。全てはこの棟内で完結出来るし何不自由ない生活も送る事ができる。しかし全てのアウトプットがない限り俺たちは解放されることはない。それは分かるな?サジタル君」


「ええ、情報がひとつたりとも漏れないよう国連に監視もされています」


「だがどうだ。こんな事が起こってしまっている。ここから出た郵便の中にオリジンが入っていたとはな」


「どうやって掻い潜ったんでしょうね」


「それもそうなんだが、俺の関心事はそこじゃない。何故"彼女"がそれを持っていたのかだ」


「彼女があの国の関係者だったって事ですか」


「いや、経歴のデータを見てみたがそれはあり得ないと思う。彼女はミレニム公国の人間だ。唯一戦争とは無縁だったあの国だな。あの国特有の訛りもあるし、それは間違いないだろう。ただひとつ経歴の中に不可思議な点があるにはあったんだがな。まあ、これはこの一件とは関係無いだろう」


「ミレニムですか。ラシナウルとは遠く離れていますね。ではどんな接点があるのでしょう」


「それは俺も考えている。だからこんな推測を立ててみたんだ」


  〜マシューの部屋〜


「ではミランダ。ミレニム出身の君がここに来たのは国連の推薦だったな。俺たち十三人をサポートする為に各国から選ばれた」


「そうです。わたしともう一人ミレニムからこの研究棟に配置されました」


「君たちサポートメンバーは俺たち十三人がここに赴任する数ヶ月前から準備を始めていたんだったな」


「それが何か」


「だから君たちはある意味団結心があり我々のサポートに欠かせない人材となっている」


「そうです。我々は日々助け合っています。ただ、研究室間の情報のやり取りはマナー違反としてコアの部分は秘匿されています」


「それは感心だな。ただ、君は本来ならアントニウス博士のところの専任では無かったはずだが、いつから専任みたいな待遇になったんだね」


ミランダは予測していなかった質問をされ動揺した。マシューは推測を一方的に喋ると言ったはずだ。だが彼はそれをせず自分の隠しておきたかった部分を穿り出されるような不安感にも囚われていた。


「マシュー博士、それはアントニウス先生の一存です。私には計りかねます。それよりも貴方の推測を聞かせてくださいな」


「ああ、そうだった。推測を一方的に喋ると言ったんだったな。それはすまなかった。では始めようか」


その後マシューは彼が持っていた疑問点を解消するための推理を喋り始めた。


「どうだね?ミランダ。この二件の謎の郵便物がここに届いた経緯を推測してみた」


ミランダは明らかに平静を装えなくなっていた。顔から血の気が引き、唇が震えているようにも見えた。


「どうした?ミランダ?まあこんなものは推測の域を出ないミステリー小説まがいのものだ。ただ俺はミステリーが好きでな、謎解きが有るのなら一つ残らず解き明かしたい性格なんだよ。それはサジタルも知らなかったろ?俺は科学者でもあり知的探求者なんだよ」


サジタルはそれに返すように話した。


「いかつい体躯のマシュー博士が本好きだったとは知りませんでした」と言いながら笑った。その横で唇の色さえ本来のものを保てなくなっていた助手はとうとう泣き出してしまった。


「マシュー博士、サジタル博士、私を助けてください」そう言いながら涙を流し膝から崩れ落ちている。


「どうしたミランダ。君はそれを認めるんだね」


涙ながらに声も出せず頷く事しか出来なくなったミランダはとうとうマシューにすがりつくしか無かった。


「助けてマシュー博士。もう私は後には退けない道に入ってしまった。この研究棟で近々殺人が起こります。そ、それは全て私のせいです」


震えながら泣くミランダを抱きかかえながらマシューはその真意を訊くことにした。


「おいおいなんだ?尋常じゃないな。殺人だと?君が誰を殺すんだね。一体誰が殺されると言うんだ」


  〜深夜、エックハルトの部屋〜


 薄暗い部屋でオリジンが挿されている自動陸士が静止していた。

彼は静止してはいたが眼球センサーの視線があちらこちらに散らばって、時折手首から先の部分が小刻みに振動している。この部屋の主人は自動陸士がこのようになっている事は知らなかったが、自らの研究成果こそがこの研究棟の全てだと自負もしているような増上慢とも言える性格だったため、精錬な助手の助言もまともに聞こうとしないばかりか、やもすれば正解から程遠いくらいの曲がったアウトプットを出しかねない、冷静という言葉の真反対を引き寄せてしまう危うさを持っていた。


 助手のミハエルはそんな大先生の元でここ数ヶ月を過ごしていたが、今まではあまりそれを表に出さず大先生の言うことに素直に従っていた。

しかし、ひょんな事から新しい研究素材が突然出現したため、今まで抑えていた"興味"が表に出てきてしまっている事を自覚していた。そしてここ数日、その研究素材が何らかの変異を起こしている事を現認していた。彼はこの部屋の主人が自分の寝室に戻った後にもこの部屋に留まりじっとその素材を観察していた。

先日、二回目の変異を確認した後にある主任科学者をこの部屋に呼び出してその人物を巻き込み、仮に事が大きくなった場合に備える用意周到さも保ったままこの素材の監視を続けていた。


痩せた赤毛の男はマスクを外しそこいらに投げ捨てた。


「これは何か。何らかの通信で会話をしているように見えるとは思っていたが、本当に会話なのか」


ミハエルはそのオリジンを陸士から抜いて精密に調べてやろうとも考えたが、今の自分にはそれの仕組みさえ理解出来ていない事を思い出して踏みとどまった。


「誰と会話をしているんだ。いや何処の誰となんだ。まさかオリジン同士で」


彼はモニターに流れているログを見つめながら独り言を言ったが、高速に打ち出されるログの一部を止めてそれを見て何かを思いついた。


  〜

  〜


 ミハエルは陸士に繋がれていたインターフェイスの一部を迂回させある装置を接続した。そしてその終端には今まで見ていたモニターが存在していて彼はその装置をモニターの近くに置くことにした。

彼はその装置をコンソールから操作をして先程ログの中で見つける事ができた重なっていたある文字列に関わる部分だけ抽出する事にした。

陸士のプロセスプログラムはファントームと呼ばれた擬似的な目と耳と口を備えた装置と基本的には同じであった為、その係数を理解するにはさほど労力が要らないとみえ、ミハエルにとっても簡便な作業だった。


「よし、これで"口"の部分の復元が出来るはずだ」


先ずは先程まで吐き出されていたログを遡って取り出せばそれを音声として変換出来るのではと考えたからだ。彼はコンソールから微調整の信号を送り続けていた。

その時、ファントームの口と同等の装置から人の声らしきものが再生され始めた。


『ーーともないかーやーーおくんだな』


「やはり言語を使って通信しているぞ。ただ聞き取れない」


そう言ったミハエルは手動でパラメータを微調整してもう一度先程の部分を再生してみることにした。


『みっともないからやめておくんだな』


そしてしばらくの沈黙の後にスピーカーはこう言った。『痛い痛い!何をする!やめろサミュエル!』


ミハエルはそれを聞いて驚いてしまった。サミュエルなどという名前はこの棟には存在しない名前だ。であればこの陸士は外部と通信をしているという事なのか。いやしかし痛いと痛覚を認識したように喋っていた。外部からこの陸士に痛覚を与える?第一、痛みなど陸士が感じるはずもないはずだ。ロボットの筐体にはそんなセンサーは搭載されてはいない。

ミハエルはその疑問を解消するためにログの中から続きの元音声だったはずのデータを変換していった。


『分かった!分かったからスパナを離せ』


『お前、俺に何をしたんだ!』


『貴様、俺の脳を弄ったのか』


ミハエルは頭を抱えて考えていた。「何をした?陸士に改変を与えたのか?どういう事だ」


改変、脳を弄る。その文言からはひとつの予測が立てられた。


「オリジンか!オリジンを何らかの形で改変した。いや誰が一体どうやって。そんな事が可能なのか」


 とにかくこの"リード"と呼ばれるオリジンは危険だ。ミハエルもその事は理解したようで、前回エックハルトが"彼"と問答した際のログモニタリングの中の違和感がはっきりと顕在化した。あの時にマシューに正直に言えば良かったのか。それともサジタルをこの部屋に呼びつけた時にここまで見せた方が良かったのか。

ミハエルにはこの現実をエックハルトに明かす前にどうしてもあの二人に打ち明ける必要があった。

それは師に言えばおそらく握りつぶされる可能性があるからで、緊急事態である事、だから明朝までに確実なエビデンスを取得しておきたかった。


  〜

  〜


 マシューに問われたミランダは涙を拭うこともできずに下を向くしかなかった。ただ彼女は助けてと言ってしまった手前、隠していた事実を目の前の二人に吐露するしかなかった。


「私はある男に脅されていました。そしてしてはならない事に手を染めたんです」


サジタルはその時マシューを見た彼はため息を吐いて彼女のそれを予測していたかのような態度をしていた。サジタルはこの展開を全く理解も予測も出来ていなかった為何も言えずにただ目の前の二人を見ているしかなかった。

マシューは息を大きく吸い込んで静かに吐いた。


「ミランダ、君を脅していたのは誰なんだ」


彼女はこれまでの経緯を話し出したが、自分が脅されてた理由については話そうとはしなかった。


「君はその理由を言いたくはないのだな。そうか。まあ今はいい。マリウス、いやサミュエルを止めねばならん。君はあいつの言うことを聞いているふりをし続けるんだ」


サジタルは自分の友だと思っていた男が実は得体の知れぬ人物だったことに驚いたが口を挟まずにはいられなくなった。


「マシュー博士!でもマリウスは誰かに命を狙われているんでしょう?先ずはそれをどうにかしなくてはならないんじゃ?」


「当然だ。それも探す。ミランダ、そのアイスと云う人物ともう一度アクセスしてほしい」


  〜数日後〜


 国際連盟に管掌されていたロボット技術を平和利用するための研究施設は、ガラス張りの14階建で、幾何学的な要素を多く持つ造形であり、そのためだけに建造され外界からは隔絶された岬の上に建てられていた。内部で行われている事は秘匿され外部の人間は一切入ることは出来ないし、また内部の研究者や職員たちは家に帰ることも許されず、この研究棟が発足してから既に8ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。


 自動陸士と呼ばれた二体のロボットと、それらに挿入される中心と名付けられたメモリチップの調査が十三人の科学者のもとに進められ、全てのプロトコルが解析された。戦争時の枢軸国が開発したこのロボット技術を、この星中の国々に平和利用させるために量産化を進めるための憲章などの決め事を策定していった。13人の科学者は互いの国の威信の壁を乗り越えひとつの成果を出すに至った。

そのアウトプットに対して各国、そしてそれら国民から称賛され瞬く間に彼ら13人は時の英雄となった。


その彼らを祝福するためのセレブレーションが国連の施設にて開催される事になり、科学者や助手たち他のサポートメンバー等は会場に集まり盛大なる祝宴の始まりを待っていたのだった。


大きな体躯を持つ大男が呼んだ。「サジタル君、いやすまないサジタル博士、彼は来ていない様だな」


「その様です。祝福されるはずのひとりが来ないなんて何ともはやです。彼の属していたとされる国の政府幹部も来られていると言うのに」


「うむ、ここで素性が明かされるのは彼としても困ると言う事なのかも知れんな」


  〜三日前〜


 研究棟大会議室でアントニウスが宣言した。


「諸君、これで我々の役目も終わりを告げるだろう。やっと家族の元に帰る事ができる。数日後には家族との連絡も解禁されるはずだ。よく頑張ってくれた諸君。特にエックハルト教授のチームには称賛を贈りたい。オリジンの焼成ルーチンの包括化をしてくれた。そしてマシュー博士、ロボット憲章についてよく照査してくれた。無事にこれからのロボット運用についての取り組みが進められるだろう。では諸君!ゆっくりと休んでくれたまえ。近く国際連盟から成果発表の場が設けられる。我々だけでなく助手の諸君、そして我々の生活を支えてくれた職員の諸君にも是非出席してもらいたい。以上だ」


拍手の元アントニウス博士が退室したその反対側のドアにサジタルは立っていた。

そこにマシューが近寄ってきて苦笑をしている。


「おいおい、お前さんへの称賛の言葉は全く無いのか?爺さん、何考えてやがる」


サジタルは笑いながらそれに答えた。


「いいんですよ、マシュー博士。三番目のことは表に出す必要はありません。あれは僕たちだけの内々の成果にしておくべきなのでしょう」


「お前さんは全くの変人だな」とマシューは掌を上に上げる仕草をした。


「いいんですよ、僕は昔っからの変人で通ってますしそれも自画自賛していますよ。ところでマシュー博士。本来の目的である僕たちの作業は収束に向かいつつありますが、例の一件はまだ片付いていない。アイスとやらは本当にマリウスを殺害するのでしょうか」


「ああ、ミランダによると依頼は失敗する事は無いそうだ。しかし、こんな研究棟に潜り込むなんて常人には出来んぞ。あの後ミランダが何度も接触しようとしたが無しの礫だから我々も疑心暗鬼で他者を見る事しか出来ない始末だしな」


「何か尻尾を出せば良いんですが」


「いやそれなんだがな。彼女の話から判断するとそのアイスとやらは期限の最終日かその前日にしか行動を起こさないらしい。そんな短期的な機会だけで大仕事をやってのけるなんて想像もできないがな」


  ~

  ~


それから正確に四日後。

国連が開催したロボット技術開示セレブレーションの最中のことだった。


研究室のある一つで祝賀会に参加しなかった男性の研究者が急死した。

当然、戦後処理を管轄していた警察の捜査が入ることとなったが、国連がそれを良しとしなかったためその彼らは二の足を踏んでいた。

そうこうしている間、数日が過ぎたときのことだった。


突然研究棟の最上部フロアから火災が発生しガラスで覆われた躯体は熱に非常に脆くフロアごとに崩壊を繰り返していった。

最後にはガラス物質が溶融して固まったような大型の物体として山の如くそこにくすぶった。


幸いここに集められていたオリジンやその他のインターフェイス機器は祝賀会のために搬出されていたため難を逃れた。

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