第2話
何故かとても気分が良い目覚めだった。
ただ静まり返ったミルクのような心の水面に私は驚きを隠せない。
昨日までの憂鬱は何処に行ったのか。
ドーナツの様に軽くなった心で僕は起き上がった。
そういえば久しぶりに昨日は「夢の世界」に行ったのだ。正確には夢ではないが、夢という概念に一番近しい。ロマンのある言い方をすれば裏世界だが、それほど実体を伴った世界ではなく、なにか扉をくぐっていくことができるわけでもない。夢の世界という呼称も正確ではないが、あれを形容する適切な言葉を見付けることができない。
きっかけは大学1年生の時に買ったバイノーラルビートの音源である。「とある」シリーズなどの異能力ものが大好きな僕は「これがあれば異能力が開花するかもしれない……!」とテンションをあげあげにして寝る前に聞いていたものだ。中二の病というのはこじらせると長いのである。
もちろんテレポートができるようにも電磁砲が撃てるようにもならなかったが、それらのCDはある種「実用的」だった。
そこで見えるそれを漸次的に「夢の世界」と呼称することにする。
10→12→15といったようにその高度が上がるにつれて見えるものも変化するのが面白い。個人的なお気に入りは21で、良く訪れてはそこにいる何かと会話している。その光景は一面に広がる真っ白な大地と青空であり、一番近いのがウユニ塩湖である。なぜだか分からないが、大学1年の時に初めて訪れた時からずっとウユニ塩湖だった。そんなに僕は塩湖が好きなのだろうか。
おそらくここの(あと他のあらゆるものの)光景は人によって違うだろうから、友人にCDを突きつけて「お前の21を教えろ」とやってみたいのだが、どう考えても怪しさ満点であり、何か変な宗教にでもはまってしまったのかと心配されてしまうだろうからこれまでついぞ叶わないでいる。
というわけで度々CDを聞いて変な夢を見に行くわけだが、昨日は思い立って42に行こうと決めた。なんかそこに行けば面白い奴らと話せると聞いたからだ。いつものように身体の力を抜いて10に移動し、意識を広げるイメージで12へ。21のウユニ塩湖で軽く会話してから27へ。
僕にとって27は空港のイメージである。正確には空港になったり庭園になったりする。昨日は空港だった。おしゃれなラウンジと待合があって、人や人じゃないものが沢山行きかっている。
そういえば昔ここのラウンジで謎の緑色のドリンクを飲んだことがあった……。
出て来たスタッフらしき人に
「スイートなラウンジに行きたい」と伝えると
その人はバーに連れて行ってくれる。
「これはバーであってラウンジではなくないか」と伝えると
「ここがラウンジであってる」とそのスタッフは告げてどこかにいってしまった。
仕方がないのでスツールに腰掛けて、雰囲気おじさんのマスターにおすすめを頼むことにする。
出て来た一杯目を私は飲み干してグラスをテーブルに叩きつける。
「美味い! もう一杯!」
バーに居るにしては居酒屋みたいなノリだがまあ許されるだろう。
出された2杯目は透き通った水色をしていた。
それもすっきりとした味で美味しかった。
満足したのでラウンジを出ることにした。
今日の目的は27でなくて42である。
数字を上げていくことで領域を移動していく。
エレベーターのようなもので上がっていき、42に到着する。
なんか全てが曖昧でぼやけた印象だった。それから白い。
とりあえず人がいたので話しかけてみる。
何を話したのかはよく覚えていない。
というのも高度が高いので、意識を保っているのが大変なのである。
例えるなら2徹した後に受ける大学の講義のようなもので、気を抜くと一瞬にして気絶してしまう。一瞬でも気を逸らせば眠ってしまうってことだ。前は27でもこんな状態だったので、慣れの問題だとも思うが。
そして寝落ちした。
ちょっとして目覚めて、まだ42に居たので帰ることにする。
あんまり収穫がなかったのでまたこよう。
帰りは早い。
ぐぐぐっと数字を落としていって、1で目を覚ませばいいだけの話である。
そんな訳で戻ってきて、眠かったので寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます