第2話 ゲームは楽しめ!


 今俺は人生で初めてマウスとキーボードでゲームをする。

 ゲームは今全世界で大人気の【サイコシュータースクランブル】通称PSSピス

 超能力持ちのシューターと呼ばれるキャラクターを操作し、五対五で戦うFPSゲームだ。詳しいルールは分からないが簡単に言えば特殊能力も使える銃撃ゲーム。


「最初は見た目で好きなキャラ選んでいいよ、一応今出てる全員は解放してるから」


 アカウントを持ってない人にお試しで遊んでもらう用のゲーム部アカウントを貸してもらい、カスタムマッチと言うものに招待される。


「ここには中谷くんと実鶴しかいないから気にせず動いてみて」


 先程チュートリアルを済ませたから基本操作はある程度頭に入った。WASDってなんだよって思ってたけど移動するためのキーだったのか。


「最初はキーマウ操作難しいと思うけどとりあえずやってみようか、マップを歩いて、自分以外のキャラが見えたら撃つ、武器は何選んでもいいよ、スキルも使っていいし」


 何使っても良いって言われてもよくわからないし、スキルの効果もわからない。

 とりあえず適当に連射性が高いって書いてる武器を選び歩き始める。


 心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。この感覚が苦手だ。まるでホラーゲームを遊んでいるかのような感覚、頭の中が真っ白になる。

 とりあえず歩く、それだけを必死に思い浮かべながら建物の中を進んでいると、曲がり角で鬼の様なキャラクターと鉢合わせになる。


「うわっ! あ、撃つ! へぁ!!」


 照準が定まらず銃は天井に向かって撃たれる。撃ち切ってリロードをしているタイミングで倒された。


「あ、やられた」

「あははは! テンパリ過ぎだよー面白いね」

「あ、いや……すみません」


 恥ずかしい、やっぱり人にゲームの実力とか見せるの苦手だ、対人ゲームが苦手なのは相手が何を考えているのか想像してしまうからだ。チームプレイが苦手なのは味方に邪魔だと思われてないか不安になるからだ。


「よし、倒せた!」


 画面を見ると自分のキャラが倒れてリスポーン地点に戻されている。


「いや倒せたじゃないよ、相手ワンマガ打ち切ってる間に倒さないと、てか至近距離でよくあんなに外せるね」

「うぐっ……咄嗟の判断が苦手なんだよ」

「あの、ごめんなさい! やっぱりやめときます」


 俺はカバンを手に取り部室を逃げるように出て行く。


「おい! どうしたんだよ急に!」

「僕笑いすぎた? やっちゃた!? 中谷くんごめん!」


 後ろで何か言っているけど何も聞こえない。ただその場から逃げ出したいだけだった。


 気付けば駐輪場から自転車を取り出し帰路にいる。


「はぁ……逃げてしまった」


 失礼なことをしてしまった、今となって別の後悔が込み上げてくる。

 俺は明るい人間ではない、小学校の頃から大人しいタイプで友達とゲームとかしたことなかった。

 大人しい奴は似た者同士でグループを作ると思っていた、でもそんな似た者同士にも、俺は見られ方を気にして関わることを避けてしまった。


 そして部活なら克服できるかもしれない、そんな淡い期待を持って、また後悔した。


「人と関わるの向いてないんだろうなぁ」


 自転車を漕いでいるとふとゲームセンターが目に留まる。昔よく遊んだ記憶が蘇る。

 確かあの時は中学生くらいの人に下手だと笑われて、それから人前でゲームしたり何か一緒にするのが苦手になったんだっけ。


 入学初日に色んな嫌な事を自覚させられる。これから三年間が憂鬱になってきた。


「おーい! 中谷!!」

「え? 東出さん!?」


 後ろから爆速で走ってくる東出さん、鬼の形相で追いかけてきてる。もしかして勝手に逃げ出したのめちゃくちゃ怒ってるんじゃないだろうか。


「はぁ……はぁ……ちょっと息整えさせろ」

「はい」


 数十秒東出さんが肩で息をしているのを見届けていると、急に顔を上げまた頭を下げた。


「すまねぇ!」

「え、なんですか急に?」

「鷹史が笑ってたの腹立ったよな? 安心しろ俺がしっかり言っていたから、てかシバいた」

「シバいたんですね」


 東出さんはわざわざそれを言うために追いかけてきたのか。かなり長い距離自転車を漕いだはずなのに、こんなに体力あるなら運動部に入れば活躍するだろうに。


「このゲーセン懐かしいなぁ、ガキの頃よく来てたよ」

「東出さんもここに?」

「まぁな、中学上がってからは引っ越してこなくなったけど、ちょっと寄ってこうぜ」

「え、でも」


 東出さんに再び首根っこを掴まれゲーセンの中へ入っていく。

 これ端から見たらカツアゲされる為に裏に連れて行かれてる構図だよな。


「お、このゾンビ撃つやつやろーぜ、これ一回も最後まで行ったことなかったんだよなぁ、ムカつかね?」

「はぁ……でも僕今日お金持ってきてないんです」

「これくれぇ俺が出すわ! まぁ俺について来いや」


 二人プレイができるシューティングゲームにお金が入り、ゲームがスタートする。

 自動で進んで画面に映る敵に照準を合わせて撃つと言うよくあるアーケードゲームだ。

 FPSから逃げできたのになんでゲームセンターのアーケードゲームなんかやってるんだろう。

 足引っ張ってお金の無駄になったとか思われたら嫌だな。


 そんな心配が頭にあったが、そんな考えもすぐに消える。


「くそっ! 全然当たんねぇ!!」

「東出さんもう5回目ですよ! まだ一面もクリアしてませんって」

「うるせぇ! ちょっと両外してくるから耐えてくれ!」


 まだ大量ウェーブが来る前に東出さんは小銭を全部コンティニューで使い切っていた。

 この人めちゃくちゃゲームが下手だ。


「あ、やられた」

「よし、戻った! ってやられてんじゃん! あと5秒!? 早くコンティニューすんぞ!!」

「え、まだやるんですか!?」


 その後も千円分を使い切り何とか二面に入ったところで二人とも力尽きた。


「くそぉやっぱクリアさせる気ねぇよなこのゲーム」

「そうですね」

「まぁでも面白かったな」

「……はい、そうですね」


 楽しかった。

 嘘じゃない。途中から東出さんになんて思われてるんだろうなんて考える暇もないくらい目の前の敵に集中していた。むしろ助ける事しか考えてなかった。


「バーガー食おうぜ、奢るからよ」

「え、でもそんなお金使い過ぎですよ?」

「後輩が先輩に遠慮してんじゃねーよ、行くぞ」


 三度目の首根っこ、そのままゲームセンターの横にあるファーストフード店へ向かい、席に座らされると東出さんが注文をしに行った。


 怖い人かと思ったけどそんな事なかった、ちょっと乱暴で口が悪いだけの優しい人だ。


 少し待っていると二人分のトレイを持って東出さんが戻ってくる。


「ほらよ」

「ありがとうございます」

「オメェ絶対なんで俺がゲーム部に居るんだって思ったろ?」

「まぁ、はい」

「ゲームが好きだから、上手いとか下手とかかんけーねぇんだよ、好きだからやる、それだけだ」


 それはわかってる。でも俺にとって楽しいゲームっていうのは人のことを気にせず一人で集中できるものなんだ。


「さっき楽しかっただろ? 特に中ボス倒した時」

「そうですね、達成感すごかったです」

「俺はそれをあのゲームで感じてるんだよ、デスマッチモードでさ、何十デスを重ねて最後の最後で初キルした時、めちゃくちゃ気持ちよかった、叫んだんだぜ?……まぁ結局それは穴埋めのBOTだったんだけどな」

「それアーケードゲームと変わらないじゃないですか」

「思ったんだよ、相手が誰か分からねぇなら人もBOTも変わらねぇって、そんで味方も誰か分からねぇならほぼBOTだろ?」

「確かに、そういう考えは出来ますね」


 なんか人前で発表をするときは目の前の人を野菜と思い込むに似たような考えだけど。


「それに例え味方が知ってるやつでもさ、ツレだったとしてもさ……その、気にしすぎる必要ねぇよ、オメェが下手でも俺も下手なんだからよ、お互い笑いながらゆっくり上手くなってきゃ良いじゃねーか、それにさっき俺が下手でイラついたか?」

「下手だとは思いましたけど、ムカつくとかは全然思わなかったです」

「そういう事」


 自分が放った言葉に、ハッとさせられる。

 なぜだかわからないけどふと思った、RPGと同じだ。

 主人公は万能で一番扱いやすい、それに対して味方のキャラクターはそれぞれ個性があって、強いキャラもいれば弱くて使えないって言われるようなキャラもいる。俺はそんな弱いと言われるようなキャラを使って敵を倒した時、めちゃくちゃ気持ちいいんだ。

 何回負けて試行錯誤を重ねてもそのキャラに対してムカつくとか考えた事はない。

 きっと友達とゲームをするのってそういうことなんだ。オンラインもオフラインも違いはないんだ。

 弱ければ強く育てればいい、今は負けても最後に勝てばいい。勝てるように作戦を考えればいい。ゲームってそういうものなんだ。


「それにさ、人それぞれゲームの楽しみ方があんだよ、俺は勝ち負けよりも敵を倒せたら気持ちいい、まぁこんな考えは大会出るチームじゃよくないんだろうけどな。そんで鷹史はめちゃくちゃ変態でな、上手いやつにボコられると楽しいらしい」

「え、もしかしてドMなんですか?」

「いや、それがわからなくてよ、その上手いやつをボコり返すのが何よりも気持ちいいって言ってたんだわ」

「ドSなんですか?」

「いや、変態だな」


 東出さんはハンバーガーとサイドのナゲットを食べ終わったのか立ち上がる。


「俺帰って自主練するから、明日最後の一回でいいから部室来いよ、二人で西森ボコそーぜ」


 まだ残っているジュースを持ち照れくさそうに去って行く。と思ったら足早に戻ってきた。


「てかさっきさり気なく下手とか言ってんじゃねぇよ! ピスなら俺の方がつえーぞ!」


 置きっぱなしにしていたトレイを持ち再び歩き去る東出さんを見送る。


「最後の一回……か」


 一回だけ無理矢理でもいいから何も余計な事を考えずにやってみても良いかもしれない。

 自分の楽しみ方でみんなとゲームができるかもしれない。

 その答えを確かめたい。

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