我らイー(良い)スポーツ部

@kinki4594

第1話 eスポーツ部へようこそ!

 eスポーツとは、「エレクトロニック・スポーツ」の略である。

 電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。


 数年前までは一部の人たちのみが知る文化だったが、ネット社会が主流となった今、多くの人たちがその名を耳にし、多くの若者が魅了されていた。

 今では高校、大学と学生向けの全国大会が開かれるほどの人気があり、たかがゲームと言われる時代は過ぎ去った。


 さぁ目の前の君、ゲームはスポーツである。

 共に全国を目指そう!


 興味がある生徒は西校舎裏プレハブ内第二コンピューター室へ。二、三年も歓迎。



 ──そう力強く描かれた勧誘チラシを掲示板で見た。


 私立天虹信てくの高校、都内でもそこそこの進学校であり、スポーツもそこそこ強い。

 今日は天虹信高校の始業式である。そして同時に仮入部体験開始日でもある。

 様々な部活の勧誘チラシの中で、ゲーム部と書かれたその勧誘チラシは一際地味で味気なかった。


「文字だけって、どれだけやる気ないんだよ」


 他の部は手書きのカッコいいイラストやパソコンで作ったのか派手なフォントを使っていたりする気合いの入ったものなのだが、なぜかこの白紙に手書きで殴り書きされたかのようなチラシに目が奪われた。むしろ、これが味なのかもしれない。


 ゲームなんてずっと一人でやってきた。それだけで十分だった。オンラインだとしても知らない人と一緒にゲームをするのは変なプレッシャーがかかるから苦手と思っていた。


 なのに何故かチラシに書かれた場所まで足を運んでいた。


 仮入部期間の今、新入生たちは自分の興味ある部活へ参加している。ゲーム部と書かれてるくらいなのだから所謂ゲーマーと呼ばれる生徒が多くいると思っていたが、プレハブ小屋周辺は異様に静かだった。

 扉を開けようとする手が止まる。

 本当に進むべきか、もしかしたらとんでもない部なのでは。


 そう考えていると背後に人の気配がする。


「オメェ新入生か?」

「え、あ……はい」


 恐る恐る振り返るとそこには大男が居た。身長は二メートルないとは思うけど確実に190は超えてる。

 その上高校生とは思えない鋭い眼光の濃い顔、髪で隠してるつもりなのか耳には何個もピアスが光を反射している。おまけに口元には変な傷跡がある。

 不良だ、どんな学校にもガラが悪い人はいると聞いたが、入学早々絡まれるとは思いもしなかった。


 グッバイ平穏な高校生活、俺は今日からこの人のパシリになります。


「お前ゲーム好きか?」

「はい」

「よし来い」


 不良に首根っこを掴まれプレハブ小屋の中まで引きずり込まれる。

 通りでゲーム部に入部したがる生徒がいない訳だ、こんな不良がいるなら誰も入りたがらない。と言うかもしかしてこの部活のゲームって怖いやつなのでは。根性試しという名目で痛めつけられるんじゃ、俺がゲームになるって事か。


「殴るなら顔以外でお願いします」

「はぁ? 何言ってんだお前」


 怖くて不良の顔は見れないが、多分とんでもなく恐ろしい顔をしてるに違いない。

 第二コンピューター室の扉が開かれ、中へ投げ入れられる。


「おい鷹史、新入生部員だぞ」


 怖い怖い怖い。どうせよくある不良のたまり場なんだ、だからプレハブ小屋に部室なんかあるんだ。なんでプレハブ小屋なんだよ、もうたまり場にしてくださいって言ってるようなものだろ。

 とりあえず土下座しておこう、下手に目を合わせると殴られるかもしれない、俺は面白くない奴と思われないと。何も見ない、何も感じない、俺は石です。道路脇の小石です。軍手です、ゴミです。


「え、まじ!? ……ってなんで土下座してるの?」

「すんません! なんか分かんないけどすみません! プレハブ小屋に近づいてすみません! 視界に入ってすみません! だから殴らないでください!!」

「あははは!! もぉー実鶴みつるに完全にビビってんじゃん、大丈夫だよ、とりあえず顔上げて」

「え?」


 恐る恐る顔を上げる。

 そこにはまるで小学生くらいの小柄な男子がしゃがんでいた。まるで国民的アニメのロボットに介護してもらってる小学生が掛けるような丸メガネをした優しそうな人だ。

 周りをよく見ると変な落書きはない、壁もヒビが入ってない。照明もきれいだし埃っぽくない。と言うかむしろなんか色んな色に光っていて目に悪そう。

 扉がない三つの壁にはそれぞれ三台PCが置いてある。


「俺は新入生かどうか聞いただけだ、ゲーム好きって言うから部室まで案内しただけだぜ?」

「その見た目で聞かれたら初対面はビビるよ、しかも無愛想じゃん」

「悪かったなヤンキー顔で」


 なんか悪い雰囲気ではない……気がする。


「ごめんごめん、置いてけぼりにしちゃったね、僕は二年の西森鷹史にしもりたかし、ゲーム部の部長だよ、そこのヤンキーは同じ二年の東出実鶴ひがしでみつる、副部長だよ」

「ヤンキーじゃねーぞ」

「は、初めまして……一年の中谷竜輝なかたにりゅうきです」


 西森さんは俺の両脇を持ち立ち上がらせてくれる。すごい、中腰で同じくらいの高さだ。


「今バカにした?」

「いえ、まったく」


 よく考えたら東出さんにも特に何かされたわけではない……のか、首根っこ掴まれて引っ張られたら誰でも怖いよね。俺間違ってないよね。


「いやーさっきまで仮入部希望の新入生何人か来てたんだけど、部室の扉開いた瞬間すぐに帰っちゃってね、それを実鶴が追いかけに行ってたんだよ」

「それで見失って帰ってきたらお前が立ってたんだ」


 帰って行った新入生の気持ちわかる気がする。

 ゲーム部って言われて想像するのは西森さんみたいな人だけど、部室開いて東出さんが見てきたら誰でも帰る。俺も帰る。


「今バカにしたろ?」

「いえ、まったく」

「まぁそんな事は置いといて、ようこそゲーム部へ! 早速だけど雑談をしよう!」


 先輩たちは扉の横に寄せていた折り畳みの机を部室の真ん中へ運び、そのへんのデスクから適当に椅子を引っ張り並べる。


「さぁさぁ座って! お菓子とお茶出すからね」

「お前は真ん中座れ、気使うんじゃねーぞ」

「はい、わかりました……ちなみになんですけど、なんで横一列?」


 普通二、一で分かれない、それか端のほうで三人バラバラに座らないものなのかな。


「なんかカウンター席っぽくない?」

「は、はぁ……」


 西森さんって何処かズレてるのかもしれない。


 机にチョコやスナック菓子が並べられ、目の前には冷たい緑茶が紙コップで置かれる、そこで雑談タイムが始まった。


「自己紹介はさっきしたね、中谷くんは普段どんなゲームするの? FPS? 格ゲー? もしかしてMOBA系?」

「いや、僕はドラスラ(ドラゴンスレイヤーの略)とかポケクリ(ポケットクリーチャーの略)とかしかやった事なくて」

「へぇ~コンシューマーゲームが好きなんだね、ポケクリはランクマッチとかするの?」

「ネットで知らない人とゲームするのが苦手で一回しかやった事無いですね」

「そうなんだ、オンラインゲームやった事無い感じなんだね」

「……オメェそっちのゲーム好きか」


 なんとなく想像してた反応だ。勧誘チラシにeスポーツって書いてたし、オンラインゲーム初心者は歓迎されないよな。なんか恥ずかしくなってきた、今日は謝ってもう帰ろう。


「はぁ……」

「あの、すみま──」

「安心したぁ〜」

「え?」


 今安心って言ったのか、聞き間違えじゃないよな。

 苦笑いされるかと思っていたけど、二人ともなんか安堵の表情に見える。


「実はね、この部まともにゲームできるの僕だけなんだよ、部員も僕たちは二人だけなんだけどね」

「下手でわりぃな! こっから全員ぶち抜いてくんだよ!」


 東出さんが不機嫌そうに菓子を頬張る。それを見て西森さんはお茶を入れながら話を続けた。


「まぁそもそもウチは人数足りてないからさ、ガチガチのプロ志向の部員来たらどうしようって思ってたんだ」

「でも、勧誘のチラシには目指せ全国って」

「あぁもちろん目指してるよ、でもそれは来年、今年は部員集めて強化に専念する年って思ってたから、そこで部の方針と新入生のやる気の間でギャップ生まれてたら申し訳ないでしょ? てかこのチラシってホントにセンスないよね、なんで手書きって思ったでしょ」

「は、はい」

「鷹史が昨日いきなりチラシ作れとか言ったからだろ! 提出三十分前でクソみてぇな仕事押し付けんじゃねぇ!!」


 東出さんが西森さんの襟を掴んで凄んでるがそれを意に介さず西森さんは笑ってる。

 なんかどんどん想像していたゲーム部とかけ離れていて頭が痛くなってきた。


「どうしたの?」

「いえ、想像とのギャップで少し頭が」

「もしかして実はプロ志向!?」

「いえ、違うんです……なんか初心者が来てウザがられないかなって想像してて、しかも対人ゲーム苦手で、チーム競技とか体育の時間でも変にプレッシャー感じて、自分の動きで他の人に迷惑かけるとか考えると頭が真っ白になったりしますし」


 思っている事を全て話した。もし断るにしてもちゃんと自分の考えを伝えないといけないと思ったからだ。


「中谷くんはゲーム好きなんだよね」

「はい」

「なら大丈夫だよ、ゲーム好きなら一緒にやらない? とりあえず勝ち負けなんて気にせずさ、楽しくやるだけで良いんだよ」

「とりあえずタイマンするか?」

「え?」

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