消息乃花

侑雲空

0 . 消息乃花

「何故、女と女、性別として診断されたものがコメディでなければならないのですか」

 彼女はそう書き残して、海へと消えた。今年の八月のことである。 

 私にその理由は分からなかった。愛情はコメディなどではなく、恋愛、恋、愛の行く末であると思っていたから。

 だから、彼女は消えた。

 死体は見つからなかった。残った遺品も、パスワードすら分からないスマートフォン一つで、その時持っていたであろう財布も何も、海と一緒に流れてしまった。

 私はそのスマートフォンのパスワードを、未だに解けずにいる。

 彼女の死体すら残らなかった葬式、空っぽの棺を見て、彼女の家族は泣きもしなければ、怒りもしなかった。

 葬式のお金は全て私が出した。彼女を弔う人間が少しでも、ほんの一人でも良いから、集まればよいなと思って。

 彼女の両親と、キョウダイから出された言葉は、「金が欲しいからか」であった。

 彼女には、私以外に何も看取る人間はいなかった。

 私は、これから彼女が死んだ海へ飛び込む。喪服のままなので、ゆったりと沈んで、そのまま息絶えることが出来るだろう。

 彼女の家族は、私の死を笑うだろうか。立派な喪服を着て、悪態をついてきた彼ら、彼女らは、私と彼女の愛を、『ラブコメ』として嗤うだろうか。

「ふざけるな」

 一つ、言葉が漏れる。

「だけど」

 二つ、言葉が漏れ出す。

「キミにまた逢えたら、幸せで」

 三つ、涙と共に、唇が震える。

「だから」

 四つ、身体を前に倒し。

「愛してる」

 五つ、私は飲み込まれた。

 すべての渦と、何もかも全て、平等に、飲み込む塩水の中へ。

 彼女に逢えれば。

 重ねて朽ちれば。

 幸せだろうに。

 ぽちょん。

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消息乃花 侑雲空 @no_fly_life

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