勇者VS魔王VS村人A

JETSOUNDSTREET

第1話

「勇者よ、ここまで辿り着いたことを褒めてやろう」

「覚悟しろ魔王! 世界の平和のため、悪はここで倒す!」


 魔王城。勇者と魔王の戦いは最終局面を迎えていた。玉座の間で相対する二人。勇者は聖剣を、魔王は魔杖を構える。


「見づげだぞ、勇者ぁ!」


 突如として玉座の間の扉が開け放たれた。

 この戦いに水を差すのは誰だ、と、二人は扉の方を見る。

 勇者は思った。これまでに多くの魔族を倒してきた。自分を追う者がいるとすれば、仲間の敵討ちに来た魔族だろうと。

 魔王は思った。勇者を倒せるのはもはや己のみ、ゆえに同胞達には下がらせた。ならば新手は勇者の仲間だろうと。


 そこに立っていたのは――ただの村人だった。


「「誰?!」」


 勇者と魔王が声を上げたのも構わず、村人はずんずんと歩み寄っていく。


「おらはソコノ村のもんだ。勇者ぁ、村のもんの家さ押し入って金盗ってったのはおめだな」

「盗っただと? とんでもない言いがかりだな。証拠はあるのか?」

「はぐらかすでね。村のもんの目の前でタンスば漁ってツボまで割ってったでねが」

「魔族との戦いには金が要るんだ。献上したと思え」

「おめに戦い頼んだ覚えはね。勝手にやって何でそれに金払わねどいげねのが」

「誰のために魔族と戦っていると思っているんだ?」

「それが頼んでねど言ってらんだ」

「あーあ、そんな事言うならこのまま魔王は放置して帰っちゃおうかなー」


 勇者がチラリと魔王を見やる。魔王はその視線に対してにやりと笑った。


「勇者よ、逃げる口実が欲しかったと見えるな。我に恐れをなしたか」

「んなわけねえ! だったら今すぐぶっ倒してやる!」

「おい、話ぁ終わってねぞ。金返せ」


 勇者は魔王に食って掛かろうとするが、村人は勇者の肩を掴み割って入った。


「しつこいなあ! 入り用だって言っただろ。もう使ったからねえよ」

「だったら体で払ってもらうべが」

「だからこうして魔族と戦って⋯⋯もしかして、あっち? いやん、エッチ」

「バカ言うんでね。畑や狩りさせるすけな。引ぎずってでも連れでえぐぞ」


 先ほどまで手ぶらだった村人だが、いつの間にか鍬を構えていた。


「鍬ごときで俺の聖剣に勝てると思うなよ!」


 対抗するように勇者も聖剣を構え直す。


「そもそもどこから鍬を出したとか疑問に思わぬか?!」

「魔王は空間魔法を知らないんか?」

「人間共は一介の村人でも空間魔法を使えるというのか?!」

「こんな便利なもん使わん理由はねど」

「使う理由ではなく使える理由を聞きたいのだが……」


 魔王は釈然としないながらも、使えるならそういうものかと、これ以上口をはさむのを止めた。


「さて、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという。出し惜しみは無しだ!」


 勇者が聖剣を掲げると、聖剣は光をまとい天を衝くほどの長さの光の刃となった。


「必殺奥義、セイントセイバーァァァ!!」

「勇者よ、村人なんぞにやり過ぎではないか?!」


 横薙ぎに振り抜いた光の刃は壁を切り裂き、玉座を両断する。直前まで玉座の前に立っていた魔王は転がるようにその場を飛び退いた。


「おめずいぶんといい技持ってるでねが」

「お前こそいい反応してるじゃないか」

「貴様等! 巻き込み事故で我を倒そうとするでない!」

「「よそ者は黙っとれ!」」

「ここは我が王城であるぞ! よそ者は貴様等の方だ!」


 城主を無視して暴れられ、腹に据えかねた魔王は魔杖を構えた。魔杖に魔力が集まり、闇のオーラが迸る。


「これ以上我を蔑ろににするなら失せろ! ダークブラスト!」


 魔杖から放たれた魔力の塊が二人にめがけて飛ぶ。二人は飛び退いてかわし、床には大穴が穿たれた。


「小癪な、次こそは消し飛ばしてやろう」

「危うく本来の目的を忘れるところだったぜ。ここは一時休戦して、まずは魔王を倒そうじゃないか」


 勇者が握手をしようと右手を差し出す。村人はその手を取り、そして捻り上げた。


「おらの用事ぁ始めがらおめにあるんだ。はえぐ金返せ」

「痛ぇっ、そこは共闘する流れだっただろ!」


 さらに腕を捻り上げる。


「痛い痛い! 腕が折れる! 無理! マジ無理! あがががが! おほっおほっ!」

「気色わりぃ声出すんでね」

「誰のせいだ! ギブギブ、本当に手持ちがないから返しようがないんだって」

「だったら何さ使ったがしゃべってみな」

「酒と女とギャンブルだけど」


 村人が勇者の脳天に鍬を振り下ろす。その一撃で勇者は床に突っ伏した。


「あの勇者を倒すとはやるではないか」

「ろぐでもね者にしか見えんかったが」

「あれでも我が配下の四天王を倒したのだ。その勇者を倒した功績を認め、我が配下にしてやろう」

「節操なしか。んだども、おらはおめにも言いでえごどがあるんだ。畑荒したのはおめのどごろの動物だな」

「我が配下を動物呼ばわりとは。だとしたら何だ?」

「躾のなっとらん責任ば飼い主に取らせに来ただ」

「面白い。ならば勇者を打ち破りここまで辿り着いたその力、我にとくと見せてみよ」

「その言い方、勇者がおめの手下みたいだで」

「なんと、勇者は我が配下であったか!」

「そうとは言ってねえで」

「我もあのような者を配下にするのは御免被る。ではいくぞ! ダークブラスト!」


 再び魔杖に闇の魔力が集まる。


「そうはさせねぞ」


 村人が駆け出し、距離を詰めながら鍬を投げつける。しかし、鍬は魔王に当たりこそすれ、傷付ける様子もなく弾かれた。


「残念だったな。聖剣でなければ傷一つ付けられぬのだ」


 村人の正面で魔力の塊が放たれる。勢いがついた村人はそのまま魔力の塊に突っ込んでいく形となった。


「聖剣なら勇者からドロップしたったど」


 村人の手には空間魔法で取り出した聖剣が握られていた。刃が光を帯びる。眼前に迫った魔力の塊を聖剣で切り払うと、魔力の塊はもやとなってかき消えた。

 魔王は目を見開いた。とっさに防御魔法を唱えようと魔杖を構えるが、すでに肉薄した距離。


「セイントセイバーァ!」


 村人は聖剣を振り下ろし、魔王を両断した。


「ぬおおおお! 村人如きにこの我がああああ!!」


 切創からどす黒い魔力の煙が噴水のように吹き出す。その勢いもやがて衰え、途切れ途切れになる頃に、魔杖を取り落とし膝から崩れ落ちた。


「いや待て、村人如きが勇者の奥義を使えるのはおかしいではないか」


 一度は倒れた魔王が立ち上がった。


「何で倒れたもんがまた立ち上がってるだ。奥義でなかろうと、聖剣で斬ったことには変わりねど」

「それはそうだか……」

「斬られたもんがいつまでも立ってねで、さっさと倒れてまれ」

「致し方ない。ぬおおおお! 村人如きにこの我がああああ!!」


 魔王は断末魔と共に再び倒れた。

 村人は魔杖を拾い、握っている聖剣と共に見やる。


「これば売れば盗られた金の足しになるが」


 一仕事終えた心持ちで城を後にする。振り返った村人の目には、城主を失った城が少し寂れたように映った。


「にしても、いつの間に村の裏山にこんなもん建ったべか」

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