難しいこと

 電車関連で有名なオカルトの代表と言えば、きさらぎ駅だろうか。

 気がついたらきさらぎって名前の駅にいて、さっきまでいたはずの乗客も駅員も誰もいなくなってるとかなんとか。降りたら二度と元の場所には戻れないとかどうとか。



 これに遭遇したことは幸いと言っていいのかはわからないけど、二十三年生きてきた中で今のところ無い。

 でももしかしたら、これから先遭遇するかもしれない。でもやっぱりしないまま終わるかもしれない。

 ああいうのに遭遇するのって、よっぽど運が悪い人間か変に持っている人間だし。



 どうしてこんな話をしているのか。

 それは、きさらぎ駅のような電車関連のオカルトものにぶち当たったからである。正しくはそれと似たようなものだけど。



『次は活けづくり〜活けづくりです。』



 そんな物騒が極まってるアナウンスの後、ちょっと離れた席に座ってた人が近寄ってきた小人たちに文字通り足元から活けづくりにされてった。

「やめあぁぁぁぁぁぁいたいたいたいいたいぃぃぃぃぃぃ」と、こちらの鼓膜をぶち破らんばかりの絶叫を上げながら。

 いや、うるさっ。



 床血塗れのミンチ塗れじゃんよー。死んだのに延々絶叫し続けてるのうるさいんよー。なんで中途半端に頭だけ残す?

 いやまあ残ってるから残されてんだろうけども。だからってさぁ、いちいち叫ばずのやめえや。



 ほら、男の人の真正面にいた女の人顔面真っ青じゃん。伝えたいことミリも伝わってないじゃん。

 すんげえ引き攣った顔で逃げ出そうとしてんだけど。ひぃひぃ言いながら這いつくばって、全身血塗れミンチ塗れになりながら匍匐前進してんだけど。

 メッセンジャーの仕事請け負ったんならちゃんとやりなさいよ。仕事請け負った側の義務でしょ。



『えー、お客様でないお客様にお願い申し上げます。勝手に紛れ込んで、我々のお仕事のお邪魔はされぬようお願いいたします。』

「は??」



 邪魔してねえが??

 確かに若干の影響与えたかもだけど、栗原と都市伝説特集のホラー番組見てたせいでなんかちょっと混じったかもだけど、結局のところこの形を選んだのはそっちだろ。めちゃくちゃバリバリ九分九厘冤罪だが??



 なのにそんな放送してくるとか舐めてる? 舐めてんな。舐めてんだな。

 よろしいならば抗議(物理)してやる。



 ここは夢の中。わたしの夢の中。誰かの夢であろうとも、わたしがわたしの夢と認識したならばここはわたしの夢なのである。正義は我にあり。

 明晰夢と言えば分かりやすかろうか。つまりはまあ、ある程度こちらの好き勝手にできちゃうのだ。ここは。



 しゃきん。

 いつか見た、ホラー映画に出てくるお化けちゃんが持ってた鯖だらけなのに無駄によく切れる巨大なハサミを両手で持つ。



「運転席にちゃんといなさいよ君」



 しゃきんしゃきん。

 音を立てながら、現実では絶対に出せない速度で走り最後尾の車両から、一番前の運転席まで色んなものをバッサバッサ切り捨てながら走った。



 *



「というわけで、お帰りください出禁ですされたわ」

「ごめん。どういうことなの??」



 場所は都内のコーヒーが美味しい喫茶店。

 昨夜のことを愚痴りたくて栗原に電話して、コーヒーとフルーツたっぷりパンケーキを食べながら出禁になったことを伝えたら、「??」みたいな反応された。

 さもありなん。わたし悪くないのに悪者扱いされたんだもの。出禁にされたんだもの。



「出禁にされた理由もわけわからないけど、そもそも不動の話してることのほとんどが意味不明なんだよこっちは」

「そうなの?」

「そうなの」



 わからないのか。だいぶわかりやすく説明してるつもりだったんだけど、それでもわからないのか。

 見える人と見えない人の違いかね。それなら説明したところで何一つ理解できないことはしゃーない。



「そもそもメッセンジャーって、何を伝えようとしてたの?」

「んとね、これのこと」



 聞かれたのでスマホをぽちぽちして、目当ての記事を見つけ出してスマホごと栗原に渡す。



 内容は埼玉の方に住んでる会社員の男性の頭部がマンションのゴミ捨て場で見つかったこと。

 頭以外の体のパーツは、全て綺麗に捌かれて彼の部屋の冷蔵庫にしまわれていたこと。

 犯人はまだ見つかっておらず捜索中で、金目のものが盗まれていなかったため怨恨による殺害だと書かれている。



 あの夢のものは、この人に頼まれたのだ。自分の恋人に危険を知らせてくれと。

 で、彼の恋人に危機を知らせるためにこいびとの夢へとあれは介入したわけだが、そこにうっかりテレビの影響受けてたわたしが夢渡してしまったのだ。



 その結果があれ。

 誰も悪くないけれど、大変スプラッターなことになってしまったとても不幸なできごとでした。



「……栗原はこの人を殺した犯人知ってるの?」

「知ってるといえば知ってるねぇ。渡った影響でその人が見た光景見たし、殺された時の追体験みたいなのもしたし。とはいえ、それ言ったところで信じないでしょうよ」



 むかーしむかし、幽霊も呪いも神様も信じられていた時代ならばまあ話くらいは聞いてもらえただろう。

 もしくは、元実家の影響力が強く残るあの場所なら誰もがわたしの言葉に頷いて、その男をありとあらゆる手段で捕まえただろう。

 それができる程度の権力持ちがあそこにはいたし。今はどうしてるか知らんけど。



 不可思議が信じられている頃ならば、場所ならば可能なこと。

 けらど、わたしが今いるのは不可思議が信じられなかなってしまった、超常のものが信じられなくなって久しい所。



 無駄だとわかっていて、徒労にしかならぬと知っていて、見知らぬ誰かのために行動してやる理由は無い。



「まあ、たぶんその恋人は死にやしないだろうからほっといていいよ」

「そう。ところで、どうしてこの人は殺されたのかな? 殺され方的にだいぶ恨まれてそうだけど」

「逆恨みって怖いよねぇ」

「ああ、そういう……。これだから人間社会ってやつは……私も気をつけないと」

「気をつけてもダメな時はダメだけどねぇ」



 誰かと関わりながら生きるのは、どうしたってなんらかの感情を育てるものだ。

 良いものであれ、悪いものであれ。育ってしまう。



 誰にも怒りを向けられず、疎まれず、恨まれないで生きられる方法は人間社会から完全に切り離れた、孤独を極めに極めたような生き方以外に無い。

 だって、肉親同士ですら殺し合う程に憎み合う時だってあるんだから。



 そんな話をした数日後。

 とある女性の惨殺死体が河川敷で発見されたらしい。

 その人の体は頭だけは綺麗に無事で、他の体のパーツは捌かれて大きなお皿の上に乗っけられていたとか。



 まあ、そうなりますわな。

 人を呪えば穴二つ。バカみたいな自信もってやらかすから見事な墓穴掘ったねえ。死んだ後も地獄だねえ。

 どうでもいいけど。

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ちょっぴりホラーな彼女の日常 いももち @pokemonn1

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