とある宮廷道化師の話

やみお

宮廷道化師が語るのは真なのか

ご機嫌麗しゅうございます。紳士淑女の皆様方。わたくしはこの統率が取れた美しきエルフの国を統治する女帝ニヴァリア様にお仕えする宮廷道化師。名前?そんな高尚なものなどありません。道化ですので。エルフが人間の方々より常に尊き存在だという認識は実にお古い考えですよ。さてさて、皆様方はニヴァリア様のご活躍の数々を傾聴しにいらっしゃったのでしょう?えぇ、いくらでも語りましょう。役目ですので。では、ニヴァリア様が女帝になられた際の話を致しましょう。

あれは三百年程前の話です。国民の自主性を重んじた政策を展開していた王が居ました。前王のルードゥス。非常に愛されていた温厚でお優しい王でしたが裏を返せば放任主義の甘過ぎた無責任な王とも言えます。何故そう言い切れるのか。自由と身勝手を理解していない民草があまりにも多く、諸外国の同族や人間の方に多大な迷惑をお掛けしたのですよ。あぁ、嘆かわしい。我が国のエルフが略奪行為や人斬りなどという無法行為を嬉々として行っていたのですよ。お陰でその頃のエルフは品位のない下衆な種族だと嫌悪され、同族からは面汚しと罵られました。妥当な評価ですね。そのおぞましい事態を解決する為に立ち上がったのがニヴァリア様です。何と!短刀一本で王を討ち取ったのです!麗しく高貴であらゆる者が自然と平伏する笑みを湛えたお姿からは想像出来ない偉業!ん?話し合い?ご冗談を。国を腐敗させた王が才女たるニヴァリア様の雄弁に耳を傾ける訳がありません。知能指数が二十違えば会話が成立しないのですよ。通説ですが。見事、女帝として君臨なされたニヴァリア様はまず最初に腐った部分を徹底的に排除しました。何もかもを一新したのですよ。革命と言ってもいい。具体的にですか。王に助言をしない。そう、無関心という大罪を犯した元老院を所属していた者ごと排斥。厳格な法を制定し、身勝手な者を裁き、無辜なる民には本当の自由というものを教示したのです。勿論、順風満帆には行きません。反発する者が多く、頼れる優秀な者も存在しておらず孤独であったニヴァリア様ですが聡明で堅固なお方。ありとあらゆる憎しみを一身に受けようとも、前王の悪評のせいでまともに国交をなそうとしたがらない諸外国のトップ達に心無き言葉をぶつけられようとも挫ける事などなくこの国の為に邁進されました。おや、その怪訝な目はなんですか?嘘は吐いておりませんよ。ほほう、常備軍を発足し、軍備を強化した件ですか。あれはニヴァリア様が二百五十年頃に成された覇業ですね。ふふふっ、魔女の悪行の数々を美化して語る邪な道化め?ニヴァリア様を魔女呼ばわりとは心外でございます。それに美化などしておりませんよ。その軍による侵略?人口超過による自国民への虐殺行為?何とも物騒な単語をお並べになりますね。全ては民草の幸福の為の行いですよ。おやおやおや、黙って聞いていればですか。武器をお納めくださいませ。その様な怖いお顔をなされては…。言わんこっちゃないという奴です。お疲れ様です、ヴァシュビエ様。我らが女帝をお守護まもりする白仮面の騎士ナイト!見事な手腕でした。この無礼者達の清掃はわたくしめにお任せを。あぁっ!なんとご無体な!払ったレイピアの血が!蛇蝎だかつの如く嫌わなくてもよいではありませんか。わたくしを貶めてよいのはニヴァリア様だけであって…。え?片付けは必要ない?それはどういった意図でし―。

あぁご無体な。ご無体な。首を刎ねられる程の失言はしていないというのに。次のわたくし。つまり、今のわたくしは上手くやるでしょう。ニヴァリア様への奉仕は最高の幸福であり、幸福はこの国の民の義務なのです。

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