第4話 初めての収入

 初めての異世界から帰ってすぐのこと。

 倉の中に帰って来てほっとした。

 だが、冒険は面白い。


 夢じゃないかとも思ったが。

 目の前には亀裂があり。

 懐の財布にはずっしりとした異世界の硬貨がある。


 よし、金を稼ぐぞ。

 家を出て電車に乗って、ぼんやりと窓から街を眺める。

 ひょっとしてあの魔穴は世界の危機に繋がっているんじゃないかと考える。

 いいや、俺が世界平和を守るんだ。

 権利にはそれに相当する義務が生じる。

 だから、異世界貿易で稼ぐだけだけの、平和を守るという義務を背負おう。


「これを買い取ってもらいたいのですが」


 金の買取所で金貨をトレーに載せる。


「拝見します。これはどちらで?」


「倉で眠っていた物なので由来は分かりません」

「そうなると地金での買い取りになります。金の含有量を調べますので、しばらくお待ち下さい」


 しばらくして。


「18金ですので、35万6823円になります」

「ではそれで」


 うひょ、一円玉が35万かよ。

 儲かったぜ。


 お次は、自宅アパートで英語の映画をDVDで見る。

 翻訳の指輪をしているのに日本語にならない。

 地球では動作しないのか。


 もしかして。

 俺は駅前の英会話教室に行った。


「あの、無料体験とかありますか」

「ええ、ございます」

「じゃ、お願いします」


 しばらく待たされ、講師と対面した。


「講師のジェシーです」


 発音は英語だが、日本語に聞こえる。


「クラモトです。よろしくお願いします」

「綺麗な発音ですね。英会話を習った事がありますか」

「ええ、大学などで」


 思った通り対面なら翻訳の道具は動作するらしい。

 これさえ分かればこっちのもの。

 講師と世間話をして、切り上げた。

 指輪の仕組みはテレパシーに近いようだ。

 でも、地球でも動くのが分かって、俺は異世界交易で生きていく決心がついた。


 異世界貿易は儲かりそうだ。


「もしもし、父さん。俺が相続した家の倉なんだけど、なんか由来があるの」


 俺は父親に電話した。


「あれな。江戸時代の末期に、坊さんが一晩泊めてもらったお礼に、この場所に倉を建てると金持ちになれると言ったらしい」

「そんな逸話がね」

「今で言うなんだっけな。ああ、パワースポット。そういうのらしい。龍脈が通っているって事だ。幸運の倉らしいが眉唾だな」

「へぇ、そうなの。また電話するよ。あ、そうそう。会社、辞めたから」

「何か始めるつもりなのか?」

「うん、個人輸入をね。じゃまた電話する」


 株式会社を作るのはまだ良いだろう。

 問題は金貨の買取を度々、持っていけない。

 怪しまれるからな。


 翻訳の指輪みたいなのも、おいそれとは売れない。

 大国のスパイなんかに目を付けられたら、とんでもない事になりそうだ。

 異世界で売る商品は金属と水で良いだろう。

 問題は輸入だな。

 仕組みが分からない道具なんてのは駄目だ。


 食い物も駄目だ。

 植物の種や動物なんてのも論外だ。

 とりあえずは武器と防具と衣類だな。

 コスプレ用なら売れる。


 よし、それでいこう。

 俺は銀行に行って小銭に両替をした。

 各硬貨が100枚もあれば十分だろう。


 そしてスーパーでペットボトルのミネラルウォーターを買った。

 異世界の便利道具はどんなのがあるだろうか。

 護身用にスタンガンみたいなのは欲しいな。

 アイテムボックスみたいなのも欲しい。

 それとポーションだ。

 地球で怪我を負ったら回復したい。

 解毒ポーションなんてのもあれば欲しい。

 地球で毒物にやられたら回復したい。

 異世界での護身用は唐辛子スプレーとスタンガンで良いだろう。


 こんな所か。


「もしもし、倉本だけど、噂になっていると思うけど首になった。使い込みしたらしいが、冤罪だからな」


 会社の元同僚の有賀ありがに電話する。


「分かるよ。うちの会社ブラックで胡散臭いからな。それに、給料は少し高めだけれど、残業代出ないから、時間に換算したら安いよな。酷い会社だよ」

「まあな」

「で、次の会社は?」

「個人輸入をやりたいと思う。商材はファンタジーのコスプレ用の道具と衣類だな」

「というとヨーロッパ辺りの本物を輸入するのか?」

「ああ、そうだな」


「採算とれるのか、それ?」

「安く買えるルートがあるんだよ」

「ほう、アクセサリーなんかはやらないのか」

「その手もあったな」

「安く手に入ったら、格安で売ってくれ。飲み屋のねーちゃんにプレゼントしたい」

「いいぜ。安く回してやるよ」

「おう、頼む」

「じゃまたな。今度飲みにでも行こう」

「待ってるよ」


 異世界からの輸入の商材にアクセサリーが加わった。

 ばあちゃんの家の神棚に稲荷寿司を供える。

 パンパンと手を打ち合わせる。


 笑い声が聞こえた気がした。

 稲荷寿司が載っていた皿を見ると空になっている。

 えっ、ホラーは勘弁なんだが。


 まあ、悪寒みたいな物はしない。

 それどころかポカポカと温かい気がする。


 生臭い匂いもしない。

 微かな花の香りがするような気がする。


 きっと、守護霊か神様みたいな物が守ってくれているんだろう。

 そう考えると、不幸の連続から希望の光が見える展開は、その存在のおかげかな。


 お替わりと言われている気がしたので、山盛りの稲荷寿司を供える。

 やはり、皿が空になった。

 異世界に行けた時点で、もうどんな不思議も受け入れられる気がする。


 そう考えたら、不幸の連続は悪縁を断ち切るということでは、良い面もあるのか。

 佐奈子さなこと結婚してから別の男の子供なんかできたら、ちょっと立ち直れなかったかも。

 会社を首になったことも、あの会社であのまま働いていたら過労死してたかもな。

 義士ぎしの正体も分かって良かった。

 保証人になっている借金は300万だ。

 異世界交易が上手く行けば、簡単に返せる。


 それに、異世界の不思議道具を使えば、彼らに復讐できるかも知れない。

 いや、できるはずだ。

 そういう道具を探してみるのも良いかもな。

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2024年12月12日 18:03 毎日 18:03

奇跡の倉~濡れ衣を着せられ会社を首になり、恋人に捨てら、友達にも裏切られた。そんな時、倉が異世界と繋がった。異世界交易で見返してざまぁしてやる~ 喰寝丸太 @455834

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