第3話 緊急依頼

Side:ロバート


 俺はロバート。

 Aランクパーティ極天のリーダーだ。

 ギルドから緊急依頼があると言うので、装備を整え急ぎ集結した。


「緊急依頼とは穏やかじゃないな」

「魔境の森で弱いモンスターが逃げ出す現象が見られました。原因を調査して下さい」


 受付嬢からそう言われた。

 魔境の森はこの街の北に広がっている森で、モンスターの宝庫だ。

 入るにはCランク以上の実力がいる。


「リーダー、ドラゴンじゃない」

「調べてみないと何とも言えないな。ドラゴンの場合も想定して動こう」


 俺達はギルドを後にすると魔境の森の奥深くにやってきた。

 まず分かったのは森が驚くほど静かだという事。

 モンスターがみんな巣穴に隠れて出て来ないかのようだ。


 報告にあったモンスターの方向から推測して問題の場所に急ぐ。

 順調に探索は進んだ。

 モンスターが出て来ないのだからな。


 そして、遭遇しちまった。

 太陽より輝く人型の物体と。


 輝きは魔力光なので目が潰れたりすることが無いのが救いだ。

 こいつが百分の一でも魔力を解き放ったら、魔境の森、全部が吹き飛ぶような気がする。


 神様がいたらこんな感じだろう。


 話したところ、気の良い奴だと分かった。

 魔導金属も譲ってくれたしな。


 家に帰るというのでついて行くとなんと魔穴があった。

 この奥に住んでいるとは恐れ入る。

 だが、この場所は助かるな。

 魔穴の近くは魔力の充填率が良い。

 俺達が報告したら、いくらも経たないうちに施設が出来るだろう。

 ここと街の輸送依頼は冒険者の絶好の飯のタネになるはずだ。

 あいつはさしずめ福の神だな。


 モンスターが出ないのでギルドへ簡単に帰還できた。


「早かったですね」


 受付で報告を始める。


「異変の原因は魔穴だ。それと魔穴にクラモトという存在が住んでる」

「嘘ですよね! 魔穴の中に住んでいるなんて……」

「嘘じゃない。近々街に連れて来る事になった」

「危険じゃないですか!」

「大人しそうだったよ。それにあの魔力量で本気になられたら、国が亡ぶ。刺激はできないな」

「では歓待して懐柔する手ですね」

「ああ、そうしようと思う。これはその存在がくれた」


「高純度の魔導金属じゃないですか」

「これ一個で城や陣地の一つや二つは吹き飛ばせるな。それとこれだ」

「高純度の魔水ですか。この魔水を薄めたら、ハイポーションが幾つできるか想像もつきません」

「こんな物をくれる気前のいい奴だ」


「まるでおとぎ話の幸運の神様ですね」

「せいぜい逃げられないようにしないとな」


 さあ忙しくなるぞ。

 魔水をまずはポーションに加工してもらう。

 俺達が使う分は確保して、あとは売り払った。

 問題は魔水の入っていた容器。

 光り輝いている。

 この容器を使うとすれば水筒だな。


 お湯が無限に近く作れる水筒も良いだろうが、俺が使うのならポーション作成機だな。

 ポーションは通常、薬草を煮た物に魔力を注いで作るものだ。

 ただ、水に魔力を注いだだけでも低級なポーションなら作れる。

 魔力をあほほど使うので効率が悪くて誰もやらない。

 そんなの作るぐらいなら、回復魔法を唱えるほうが何百倍もまし。


 だが、この容器なら。

 容器自体が魔力の塊だ。

 容器に水生成とスタミナ疲労回復ポーション化の魔法陣を描く。

 飲むと疲労が抜けていく。

 ただ欠点は容器からポーションを出すと、魔力が急速に抜けて行って普通の水に戻ってしまうことだ。


 だが、それを差し引いても素晴らしい物だ。

 実に良い物ができた。

 頬ずりしたいぐらいだ。


 そして、俺達は建設部隊を率いて、魔穴に再び行った。

 大工達が魔穴の周りに建物を建てる。

 魔力を吸い取る施設が着々と出来上がった。


 施設の棚の上には魔道具が所狭しと並べられた。


「どうだい、この魔穴は?」


 俺は施設の職員に話し掛けた。


「凄いですね。Aランクの魔道具の充填が一日で済みます。普通の土地では一年以上かかるのに」

「魔穴ももっと街に近い所にできれば便利なのにな。もっとも遠いと冒険者には輸送依頼が舞い込むが」

「他国の侵略を食い止めるという観点から見るとここは良い場所ですね」

「違いない」


「ひっ!!」


 魔穴からあの存在が出て来た。

 周りにいた冒険者が戦闘態勢をとる。

 一般職員は硬直して声を出せないでいる。


 今日は約束の一週間だ。


「お前ら、武器を降ろせ!」


 警備の冒険者が緊張を解く。

 だが、油断はしてないようだ。

 良い反応だ。

 良く訓練されている。


「クラモト、早かったな」


 なるべく気軽な調子で声を掛ける。

 敵対は駄目だ。

 何が起こるか分からない。


「異世界の街に行けると思うとワクワクしちゃって、早朝に押し掛けたよ」


 ドラゴンと友達になった気分だ。

 さっきの冒険者の反応で気を悪くしなければ良いが。


「待ってたよ。街への案内だが、護衛任務だと一日金貨5枚だ」

「魔導金属で払いたいけど、良い?」

「もちろんだ!」


「それにしても建物が出来たんだな」

「ここは魔力が濃いんだ。魔道具の魔力を充填するのに立地が良い」

「へぇ、そうなんだ」


 気さくな奴で良かった。

 さっきの事も気にしてないないようだ。

 ドラゴンみたいな奴は何をしたら喜ぶんだろうか。

 酒か女か。

 酒はともかく女は怖がって駄目だろうな。

 とりあえず街に連れてって様子を見るさ。

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