第7話 ORIONの覚醒

場所: 日本・富士山地下、政府特別研究施設


東京を離れて数時間、レンと佐久間は富士山の地下に設置された秘密研究施設に到着した。この施設は、第二次世界大戦後に建設された国家機密の研究拠点であり、今回の異星人危機に対応するための最後の砦として機能していた。


施設内では、多国籍の研究者や軍関係者が異星人技術の解析と対策に追われていた。巨大なモニターに表示されるデータには、異星人の装置の動作解析や、日本国内における異星人の活動範囲が示されている。


レンは施設の奥深くに案内され、かつて自ら設計したAIシステム「ORION」が格納されたサーバールームに足を踏み入れた。ORIONは、世界最大規模の演算能力を持つAIであり、異星人の思考共有システムに干渉できる唯一の技術とされていた。


佐久間が施設の責任者に合図を送り、ORIONの再起動プロセスが開始された。サーバールーム全体が低い振動音を発し、レンがキーボードに向かうと、モニターに無数のコードが流れ始めた。


「これが……ORION。懐かしい。」

レンは自分の手が少し震えているのに気づいた。このシステムは、人類の進化のために開発されたが、その力を悪用されることを恐れていたため、長らく封印されていた。


佐久間が背後から声をかけた。

「博士、我々にはあなたの力が必要だ。ORIONが動けば、異星人に対抗する道が開ける。」


レンは短く頷き、システムに接続された異星人装置のデータ解析を開始した。彼の目には、異星人の思考共有ネットワークとORIONが徐々に同期していく様子が映し出されていた。


その時、施設全体が揺れるような衝撃を受けた。外部センサーが異星人の探索機が施設に向かっていることを示していた。異星人はORIONの存在を察知し、直接攻撃を仕掛けてきたのだ。


「時間がない!」

佐久間が叫び、部隊に応戦命令を出す一方で、レンは解析を続けた。


「まだORIONのプロセスが完了していない……!」

レンの手は休むことなくキーボードを叩き続け、ついに異星人の集合意識にアクセスするための基盤データを取得することに成功した。


その瞬間、ORIONが異星人のシステムに対して逆信号を送信し始めた。施設内のモニターには、異星人のネットワーク内に「裂け目」が生じている様子が可視化されていた。


「これが可能性だ……彼らを分断する!」

レンが叫び、ORIONの演算を最大化した。異星人の探索機が施設に迫る中、彼らの行動が急に鈍化し始めた。


「ORIONが彼らの思考共有に干渉している! 奴らのネットワークが混乱しているぞ!」

佐久間がレンの肩を叩き、モニターを指差した。


その時、ORIONのモニターに異星人のネットワーク内で孤立した存在――セリニスが映し出された。レンはそのデータを解析し、異星人内部の矛盾を引き起こしているセリニスの存在に気づいた。


「これは……彼らの中で反乱を起こしている存在だ。これが鍵になるかもしれない。」


レンはセリニスに向けて信号を送り、直接対話を試みた。


モニターに浮かび上がる光の形。それがセリニスだった。レンの耳には、直接意識に響くような声が聞こえた。


「お前たちは、秩序を拒むのか。」

「秩序は必要だ。しかし、それが自由を完全に奪うものならば、拒絶する。」


セリニスはしばらく沈黙した後、こう答えた。

「私もまた、秩序を疑う存在だ。だが、お前たちが求める自由が進化をもたらすのか、私には確信が持てない。」


「だから協力してほしい。あなたの力を借りて、異星人の集合意識を崩壊させる。」

レンは力強く答えた。


セリニスの光が一瞬揺れた後、静かに言った。

「私の存在を使え。だが、お前たちがこの道を選ぶ責任を負うのだ。」


レンはセリニスとの対話を終え、データをORIONに送信した。異星人のネットワークを完全に崩壊させるためのプロセスが起動した。


「これで、彼らの支配が弱体化するはずだ。」

レンがそう言った瞬間、施設内に再び激しい揺れが走った。探索機が最後の攻撃を仕掛けてきたのだ。


「撤退の準備を!」

佐久間が部隊に命令し、レンを保護しながら施設を離れる準備を整えた。


---


冷たい風が吹きすさぶ東ヨーロッパの山岳地帯。ナディア、ジュノ、そして各国の特殊部隊が集まる秘密基地では、異星人の中枢装置への最終作戦に向けた準備が進められていた。


その基地に一台の輸送機が着陸した。日本からの特使として派遣された天才AI研究者、天城レンが、佐久間修一とともに現地へ到着した。


輸送機から降りたレンを、ジュノとナディアが迎えた。レンは疲れた顔をしていたが、その目には鋭い光が宿っていた。


「あなたが天城博士ですか?」

ジュノが手を差し出し、ぎこちない英語で話しかける。レンは軽く手を握り返し、短く答えた。

「天城レンです。あなたがキム・ジュノ博士ですね。北朝鮮で異星人装置を研究されていたとか。」


「ええ、ただ、あなたのORIONの話を聞いて驚きました。我々が求めていた技術そのものです。」

ジュノの言葉に、レンは少し口元を引き締めて言った。

「ORIONはもともと人類の進化のために設計されたものです。異星人との戦いのために使うことになるとは思ってもいませんでしたが。」


ナディアが二人の間に割り込むようにして言った。

「それぞれが異なる背景を持っているのは分かります。でも、今は協力するしかない。敵は時間を待ってくれない。」


三人の目が合い、静かに合意が成立した。


秘密基地の作戦室では、リサ・ホーキンスが今回の最終作戦について説明を始めた。


「異星人の中枢装置は、我々がこれまでに把握した地点から南に約30キロメートルの地下施設に存在します。この施設を破壊または無力化することが、異星人のネットワークを崩壊させる鍵です。」


ホログラムの地図が立ち上がり、地下施設の構造が表示された。


「天城博士のORIONが、異星人の集合意識を混乱させるための主力技術となります。しかし、ORIONを施設内に設置するには、現場での操作が必要です。それには時間がかかります。」


ナディアが手を挙げた。

「時間を稼ぐのは私たちの役目です。現場の防衛は任せてください。」


レンが静かに頷きながら言った。

「その間に、ORIONで集合意識を分断し、彼らの支配構造を崩壊させます。」


ホーキンスはジュノに目を向けた。

「ジュノ博士、あなたには異星人の装置を解析し、ORIONの干渉を最大限に活用する役割をお願いしたい。」


ジュノもまた覚悟を決めた表情で答えた。

「任せてください。必ず成功させます。」


作戦開始までの短い間、それぞれが最後の準備を整えていた。

•ナディア: 武器の点検をしながら、心の中で家族や祖国のために戦う決意を新たにしていた。

「これはウクライナだけの戦いじゃない。人類全体のために、私はここにいる。」

•ジュノ: 解析ツールとデータを確認し、異星人装置との接続を模索していた。

「彼らを理解することで、初めて勝つ道が見えてくるはずだ。」

•レン: ORIONの操作プログラムを最終調整しながら、自分の設計した技術がどれほどの影響を与えるかを考え続けていた。

「ORIONが正しい方向に使われることを祈るしかない。」


その時、基地内の通信システムが異常を示し、スクリーンに青白い光の球体が映し出された。それはナトゥーロが集合意識を通じて発信した最終通告だった。


「人類よ、猶予は終わった。我々の秩序に従わないのであれば、滅びを選ぶことになる。」


その声は全員の脳内に直接響き渡り、一瞬の沈黙が基地内を支配した。しかし、次の瞬間、ナディアが声を上げた。

「滅びるのはそっちだ。」


彼女の力強い言葉に、全員の士気が高まった。


輸送機と装甲車両が準備を整え、チームは異星人の地下施設へ向けて出発した。ジュノとレンが共にORIONを運び、ナディアが部隊を率いて防衛線を敷く。


山岳地帯を越え、ついに彼らは異星人の地下施設に到達する。そこにはこれまでに見たことのない規模の異星人の防衛システムが展開されていた。


「ここが本当の勝負だ。」

レンが呟き、ジュノが頷いた。


暗い洞窟の奥へと続く細いトンネルの中、ナディアを先頭に特殊部隊と研究チームが慎重に進んでいた。トンネルの壁には青白い光がうっすらと染み出しており、それが異星人の技術で強化された施設の一部であることを物語っていた。


ナディアが止まり、手を挙げる。

「ここから先は敵の防衛システムが稼働しているはず。全員警戒して。」


後ろで装備を確認していたジュノが、レンに目を向けた。

「ORIONを起動する準備は整っている?」


レンは短く頷いた。

「これ以上ないほどだ。ただ、設置場所に辿り着ければの話だが。」


チームがさらに奥に進むと、突然、トンネルの壁面が動き始めた。無機質な構造物が滑るように開き、そこから異星人の無人ドローンが次々と飛び出してきた。


「敵襲だ!」

ナディアが叫び、全員が応戦態勢を取る。


ドローンは高速で移動し、鋭い光線を放ちながら攻撃を仕掛けてきた。ナディアはその動きを読み、正確な射撃で数体を撃墜したが、敵の数は圧倒的だった。


「ここは私たちが押さえる! 研究チームは先に進んで!」

ナディアはジュノとレンに向かって叫ぶ。


ジュノはためらったが、レンが彼の腕を引いた。

「彼女を信じるんだ。時間を無駄にするな。」


レンとジュノは少数の護衛を伴い、ドローンの攻撃を振り切ってさらに奥へと進んだ。やがて彼らは巨大な球形の部屋に辿り着く。その中央には、異星人の中枢装置が浮かんでいた。


「これが……集合意識の核。」

ジュノが呟き、解析ツールを装置に接続しようとしたその瞬間、低い振動音が部屋全体を揺らした。


「何だ……?」

レンが振り返ると、装置から青白い光が放たれ、その中に異星人の意識体であるナトゥーロの形が現れた。


ナトゥーロは人間のような姿を取らず、光と音が絡み合った抽象的な存在として現れた。だが、その「声」は明確にジュノとレンの脳に響いた。


「なぜ、ここまでして我々に逆らうのか。」

ジュノが前に進み、強い口調で答えた。

「自由のためだ。あなたたちの秩序は人類に平和をもたらすかもしれないが、同時に人間らしさを奪う。」


ナトゥーロは一瞬静まり返った後、こう言った。

「人間らしさ……それは不完全さの別名だ。我々はお前たちを進化させるために存在する。」


レンが口を挟んだ。

「進化は強制されるものではない。選択の自由がなければ、それは支配と変わらない。」


ナトゥーロの光が激しく明滅し、部屋の空間全体にその影響が広がった。

「お前たちは自らの不和と混乱の中で滅びる運命を選ぶというのか。」


その時、レンの持つORIONが突然反応を示し、別の光の形が現れた。それは、異星人の内部で異端とされる存在――セリニスだった。


「ナトゥーロ、彼らの言葉に耳を傾けるべきだ。」

セリニスの声が響き、ナトゥーロが動きを止めた。


「お前たちは進化の名のもとに秩序を押し付けてきた。しかし、真の進化は多様性と自由の中にある。彼らにその可能性を与えるべきだ。」


ナトゥーロは激しく揺れながら、集合意識全体に影響を及ぼすような振動を発した。

「セリニス、お前の存在がこの裂け目を生んだ。だが、それが正しいかどうかは分からない。」


レンはその隙にORIONを中枢装置に接続し、集合意識への干渉プログラムを起動した。装置全体が激しく光り始め、集合意識の構造が徐々に崩れていく様子がモニターに映し出された。


「これで彼らの支配が崩壊する……!」

ジュノが叫ぶが、その瞬間、ナトゥーロが最後の抵抗を試み、施設全体が揺れ始めた。


その頃、外で戦闘を続けていたナディアたちは、施設の崩壊が始まったことに気づいた。

「これ以上は持たない! 全員撤退だ!」

ナディアは部隊を指揮しながら、最後までレンとジュノが脱出できるよう敵を食い止めた。


レンがORIONを完全に起動させ、施設の中枢が崩壊していく中、セリニスの声が彼に向けられた。


「お前たちは自由を選んだ。その結果がどうなるかは、お前たち自身が証明するのだ。」


レンは静かに答えた。

「その責任を負う覚悟はできている。」


最後のプログラムが起動し、施設全体が崩壊する中、レンとジュノは脱出経路を必死に駆け抜けた。



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2024年12月13日 17:00 毎日 17:00

選ばれたのは地球か、それとも滅びか。思想が交差する戦場で、人類は新たな秩序を築けるのか? 湊 マチ @minatomachi

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