第10話「炎鉄牛ラセールノックスー2」
とりあえず現物を見てみないとわからないと思ったので、クラーラたちに【炎鉄牛】とやらがいる場所へ案内してもらう。
「【炎鉄牛】は町の近くの川にねぐらを作ったの」
平原を歩きながら、クリスタがいやそうな表情で話す。
「怪物だって生き物だから、水場は確保したいのだろうな」
道理だと俺がうなずくと、
「そのとおりなのですが、おかげさまで流通に影響が出てしまってるんです」
フーゴーが悔しそうな顔で言う。
「【炎鉄牛】がねぐらを作った位置が問題なんです。旅人や商人が近くを通って、【炎鉄牛】を刺激してしまうのですよ」
とクラーラが話す。
「【炎鉄牛】は草食の怪物で本来は攻撃的じゃないんですが、攻撃を仕掛けられたときと、ねぐらを狙われた場合だけ獰猛になるんです」
フーゴーが続きをしゃべる。
「まるで蜂みたいだな」
俺は正直な感想をつぶやく。
蜂だって直接攻撃するか、不用意に巣へ接近して刺激しないかぎりは、人間を襲ったりしない。
「まさに近い性質を持っていると思います」
クラーラがうなり、
「さすが先生! わかりやすいたとえ!」
クリスタが褒めてくれて、フーゴーは拍手してくれる。
「いくら何でも褒めすぎだろう」
と苦笑してしまう。
俺だって人間だから褒められたらうれしいが、若者にヨイショされる構図はどうなのだろうか?
褒められて終わりなのは何だか恥ずかしいので、こっちも気づいたところを言ってみよう。
「クリスタは遠くへ気を配り、わずかな変化を見逃さないようにしている。クラーラは視野の広さを保ち、みんなに指示を出せるようにしている」
クリスタは斥候、クラーラは指揮官役というところか。
「そしてフーゴーは何かあれば二人のカバーに入れる位置をキープしている」
フットワークの軽い拳闘士だからこその位置取りというべきか。
どこにでも顔を出せる遊撃兵みたいな役割だ。
「打ち合わせしてないのに、それぞれベストの動きと位置をキープしているのだから、三人とも見事なものだ」
と評価する。
特にクリスタとクラーラの成長を感じられてうれしく思う。
「いやあ、たしかにおっしゃるとおりなんですけど、パッと見て言い当てられるものなんですね。すごいですね。さすが師匠です」
フーゴーはしきりに褒めてくれる。
「先生ですから、その程度は軽くこなせて当然ですね。何なら私たちがミスしたときのカバーにも備えていらっしゃるでしょう」
クラーラはきりっとした表情で言った。
「私たちは先生からたくさん教わったんだよ!」
とクリスタはフーゴーに自慢する。
「いいなぁ。俺も師匠みたいな人にたくさんのことを学びてええ」
フーゴーは本気でうらやましがっているようだ。
何だ、この状況は?
首をかしげるが、答えてくれそうな人が近くにいない。
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辺境農家のおじさんが英雄に~一流になった弟子たちに推薦され、世界に発見される~ 相野仁 @AINO-JIN
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