第9話「【炎鉄牛ラセールノックス】」

「その異名から推測できるかもしれないが、ラセールノックスは鉄のように硬い皮膚を持ち、口から炎を吐くんだ」


 苦々しい表情でシャルフは説明をしてくれた。


「鉄の鎧をへこませる俺の打撃も全然効かなかったので、鉄よりも硬いですね、あれは」


 フーゴーが表情をゆがませながら補足する。

 

「私たちの攻撃も通用しなくて……吐いて来る炎を避けることはできるのですが」


「有効打を誰も与えられなくて、困っているんだよ、先生!」


 クラーラ、クリスタも表情をこわばらせながら言う。


 この三人も挑んでたみたものの、傷を負わせることができなくて逃げ帰って来たらしい。


「恥ずかしい話だが、三級ハンターが傷つけられない怪物を倒せるハンターを、呼ぶための金をウチの町じゃあ用意できないんだ」


「ない袖は振れないのはどこも同じか」


 シャルフは無念をにじませながら言ったが、田舎の農家としてはかえって親近感を抱いてしまう。


「あんたの活躍は宣伝させてもらうし、素材は自由に売りさばいてもらってかまわない。どうか頼む」

 

 シャルフがカウンターに両手をついて頭を下げて来る。


「わかった。できるかぎりのことをさせてもらおう」


 断っていいことじゃないと考えて、承知した。


「本当か!? ありがたい!」


 シャルフは顔をあげて叫ぶ。

 

「やったぁ! これで勝ったも同然!」


「町が救われますね!!」


 クリスタとクラーラが手を叩いてはしゃいでいる。


「おいおい、いくら何でも気が速すぎだろ」


 苦笑してしまう。

 俺はまだその「炎鉄牛」とやらを見てすらいない。


「そもそも武器を持ってきてないんだぞ。話を聞いた感じ、素手で勝てる相手じゃないと思うな」


 と言うとクラーラとクリスタは顔を見合わせる。


「でも、先生、【炎鉄牛】は鋼鉄の剣だってはじいてしまうのですよ?」


 クラーラの指摘にむうとうなった。


「それよりいい武器を買う予算、先生にあるの?」


 そしてクリスタの指摘に「ぐはっ」とうめく。


「鋼鉄製の剣を買う予算ってどれくらいなんだ?」


 俺は生まれてこの方、この規模の町で買い物をしたことがない。

 当然相場というものを知らなかった。


 クラーラとクリスタが両手を使って、十という数字を提示してくる。


「十万ゼニー?」


 一応聞いてみた。

 二人は同時に首を横に振って、


「一千万ゼニーです、先生」


 とクラーラが言う。


「た、たか……」


 一千万ゼニーなんて、家が買える値段じゃないか。

 町の武器ってそんなに高いのか。


 田舎者にはとても手が出せないな。

 

「失礼ですが、清貧を体現してらっしゃる先生の手には届かないかと」


 クラーラの言い分はもっともだ。

 あと、良いように言ってくれたけど、俺は単に貧乏な田舎者だぞ。

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