第8話「標的の名は」

「やっと先生の偉大さを理解したみたいですね」


 とクラーラが言うと、


「五千年は遅いよね」


 クリスタは呆れた。

 

「おいおい、クリスタ、五千年前だと俺生まれてないぞ……」


 無駄かもしれないと思いつつ、一応言っておく。


「先生はそれくらいすごいってこと!」


「先生を正しく評価できないなんて、人類の損失です!」


 クリスタとクラーラの二人に力説されてしまう。

 

「そんな大げさな」


 いくら何でも言いすぎだと思うんだが、


「そ、そんなことはないかと思います!」


 と言って話に入ってきたのはフーゴーだった。

 

「師匠のかまえは見たことがないほど綺麗で隙がなかったですし、動きが追えないほど速かったです! あんなすごい動き、一度も見たことがありません!」


 彼は早口で、なおかつ熱くまくし立てる。


「そうでしょう? ようやくわかったみたいですね」


 とクラーラが得意そうに言う。


「一度対峙して先生のすごさを理解できたなら、ちょっとは見どころがあるじゃん?」


 クリスタが謎の上から目線で評価する。

 

「そろそろ本題に戻ってもいいか?」


 このままじゃあ埒が明きそうにない。

 強引な方法でいいから話を変えよう。


「あ、はい。先生にお越しいただいた理由ですね」


 と言ってクラーラがうなずく。


「推薦も通ったし、組合から説明があると思うけど、とても手強い『怪物』がいるんだよ」


 クリスタが表情をけわしくて話してくれる。


「手強い怪物か……」


 まあそんなことだろうとうすうす思ってはいたんだが。


「まあ俺になんとかできるのかまだわからないが」


 俺より強い怪物なんて、探せばいくらでもいるだろう。


「大丈夫だよ、先生なら」


 クリスタがはげましてくれるが、俺は現実を知っているつもりだ。


 階段を下りて一階のカウンターに行くと、若い女性と四十代の男性がこっちを見ている。


「あんたが【双華】のいう先生か?」


 と話しかけられた。


「ああ。スヴェンだ、よろしくな」


 俺が応じると、男性は右手を差し出してくる。


「俺はこの町のハンター組合のトップを任せられている、シャルフだ」


 名乗られて握手をかわす。


「ところで俺はまだ事情をわかっていないんだが」


 大事なことなので最初にはっきりと伝えておく。


「なるほどな」


 シャルフは苦笑いして、


「ではまず、実績あるハンターの推薦と腕試しをおこなったので、ハンターとして登録させてもらったことを言っておこう」


 と説明する。


「登録しないと怪物とは戦えないのか?」


 だとしたら俺がいままでやっていたのは不正行為になってしまうのか?


「戦えないわけじゃないが、オススメはしない。組合は怪物の情報を集め、脅威度を推し測り、ハンターたちの得意不得意を考慮して、依頼を出す。安全性が比較にならんぞ」


 シャルフは苦笑しながら説明してくれる。


「それはたしかに」

 

 相手の情報を持っていて、弱点をつけるなら、アドバンテージは非常に大きい。

 

「では今回の標的について話しておこう」


 シャルフは笑みを引っ込めて、真剣な顔で告げる。


「標的は【炎鉄牛ラセールノックス】だ」


 

 

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