第7話 美少女との出会いは突然に!
今日の昼休みには、酷い目にあったと思う。
学園の美少女と呼ばれる三年生の先輩――
容姿は良いのに、性格に難がありといった感じの女性である。
大勢の人がいる前では、普通を装っているのに、自身よりも立場が低い者に対してはかなり当たりが強いのだ。
嫌な一面を見てしまったと感じた。
でも、早い段階で、美空先輩の性格が知れてよかったとも思う。
「真玄。一緒に帰ろ」
「ちょっと待って」
右隣席の優芽から急かされる。
真玄はまだ準備を終えていないのだ。
急いで今日の課題を通学用のリュックにしまう。
そんな時だった。
制服のズボンに入れていたスマホのバイブが鳴る。
スマホを取り出し、画面を見てみると
杏奈のアドレスはまだ消していなかったのだ。
杏奈からか……。
確認してみると、今から会ってほしいという内容であった。
今さら何を話す事があるのかと、ため息がちに真玄は呆れていたのだ。
本当に心の底から考えを改めているのなら話くらいは聞いてもいいと思った。
再び付き合う事はしないと思うが、お情けで一回くらいはチャンスを与えてもいいような気がしたのだ。
「真玄、どうかした?」
「な、なんでもないよ」
真玄は片手で画面を隠す。
「そう?」
「本当にね」
「まあ、いいんだけど。準備が終わったのなら一緒に帰ろ」
「……今日さ、ちょっと用事があって」
「用事? さっきまではなかったじゃん」
「そうなんだけど。急用ができてさ。優芽は先に帰っていてよ」
「んー、わかったよ。でも、すぐ終わる用事なら、私教室で待ってるけど?」
「いや、もしかしたら少し長引くかも」
「そうなの?」
「そうなんだ」
「じゃあ……まあ、わかったわ。でも、遅くならないように帰って来てね」
「ああ、わかったよ」
真玄は優芽を先に帰宅させる事にした。
教室を後にした妹は、教室前の廊下で
咲間留美は廊下側から、教室内にいる真玄の様子を眺めていた。
それからすぐに、優芽と一緒に教室前の廊下を歩いて立ち去って行ったのである。
約束の場所はここか。
真玄はリュックを背負ったまま、校舎の裏庭へと向かって歩いていたのだ。
裏庭は、殆ど人が来ない場所である。
今日の昼休みは、この場所で過ごしていたが、昼の時間帯よりも薄暗くなっていた。
杏奈はすでにいると思ったが、裏庭には彼女の姿はなかったのだ。
いないのかよ。
どこにいるんだよ……。
真玄は首を傾げる。
まさかとは思うが、騙されたとか?
いや、そんなはずはない。
けれども、そうも言いきれないのだ。
急に真玄の事を振った杏奈ならあり得なくもないと思う。
やはり、俺の事を騙したのか。
アホらしくなった。
こんな事ならメールなんて無視して、優芽と一緒に帰宅すればよかったと、内心後悔していたのだ。
真玄は頭を抱え、校舎の裏庭から立ち去ろうとした時、小さく声が聞こえた。
ん?
別の場所から、誰かの話し声が真玄の耳元まで届く。
ある程度耳をすまさないと聞こえない声であり、立ち止まっていたからこそ、今まさに真玄は、その小声を耳にする事が出来ていたのだ。
真玄は裏庭を移動し、声がする方へ向かって歩く。
少し進んだ先に、とある女の子の後ろ姿が見えた。
パッと見た感じ、それは杏奈だったのだ。
あんな場所にいたのかよ。
真玄が彼女の方へ向かって歩き出した時、杏奈の近くに誰かがいる事に気づいたのだ。
え?
もしかして、誰かと関わっている最中だったのか。
真玄は、その現状を察して、身を隠すように校舎の壁に背をつける。
「ん? さっき、草むらが動くような音が聞こえなかったか?」
とある男子生徒の声が響く。
「そうかしら? 私は聞こえなかったわ」
今度は杏奈の声が、真玄の耳元には届いていたのだ。
「そうか。まあいいや。それで、君に伝えたいことがあるんだ。一緒に付き合ってくれないか?」
杏奈の近くには、男子生徒がいるらしい。
今まさに、告白されている最中だった。
まさか、俺にこの現実を知らしめるために呼び出したのか?
本当に嫌な奴だな。
真玄は壁に背を付けたまま頭を抱えていた。
大きなため息をはいて、今感じている心臓の鼓動を宥めていたのだ。
やっぱ、こんなところに来るんじゃなかったよ。
杏奈は水泳部としても活動しており、水着を着用した姿は物凄く可愛く見えるのだ。
その姿に魅了された男子生徒が、今告白しているのだろう。
悪い事は言わない。
付き合わない方がいいよと、真玄は心の中で思いながら、その場から立ち去ろうとする。
これからは杏奈に話しかけられても、まともに相手をしたくないと思うのだった。
「とんだ災難にあったな」
真玄は表情に悔しさを滲ませながら裏庭を後にしていた。
「今日は一人で帰るしかないよな。あの二人には帰ってもらったし」
真玄は、校舎と裏庭の狭間にある中庭を通過しながら独り言を呟いていたのだ。
「一人で帰宅するなら、今日は寄り道してから帰るか」
気分が優れない。
むしろ、気分が悪いからこそ、どこかのお店に立ち寄って、自分が好きなモノでも購入してから帰宅しようと思ったのだ。
真玄が道を歩いていると、大声が聞こえた。
辺りを見渡すが、それらしき声を出す人はいなかったのだ。
どこから聞こえているのか、首を傾げながら中庭を移動していると、上空が急に暗くなった。
不審に思い、上を見上げてみると誰かがいたのだ。
嘘ではなく、本当に真玄の斜め上らへんに女の子がいたのである。
隕石のように落ちてきているのだ。
え?
「あ、危ない! ちょっとどいて!」
気づいた時にはもう遅く。
その女の子が、真玄の方を目掛けて落ちてきているのだ。
次の瞬間、ボフッという音が響いた。
「イテテ……」
痛がっている女の子の声が聞こえたのだ。
真玄は絶妙なタイミングで避けていた事で、特に何の影響もなかった。
いきなり、誰かが空から落ちてきたとしても助ける事は出来ない。
空から落ちてきた子とぶつかったら、とんでもない衝撃を受けるからだ。
「ご、ごめんね。イテテ……」
安全装置が起動していたらしく、落下してきた子は、展開されたクッションの上にしゃがみ込んでいたのだ。
彼女はまさに美少女だ。
美少女は空から落ちてくる。
真玄は昔、そんな漫画を読んだことがあった。
「君、怪我はなかったかな?」
その子は照れ笑いをして、真玄の事を見つめていたのだった。
本当は嫌いだったと振った彼女。俺が学園の美少女と付き合い始めてから、本当は好きだったと言ってきたが、もう遅い 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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