自分のことは好きですか?
Side1
ある日、先生に言われた一言。
『期待しているぞ』
嬉しいはずのその言葉が、自分を覆っていく。
頑張らないと。
みんなが求める『私』を作るために。
頑張らないと。
元の独りの私に、戻ってしまわないために。
頑張らないと。
私の理想を、壊さないために。
頑張らないと。頑張らないと。頑張らないと。期待に、応えなければ。
頭が、自分を囲う人たちの笑顔で埋まってゆく。
私に向けられる期待の笑顔。
毎日見る、机の景色。
ノートを開く音。
シャーペンを動かす指。
できることが楽しかった勉強が、嬉しかった周りの笑顔が、だんだんと重く、重く、私を暗闇に突き落とす。今ではただ、笑顔が怖くて仕方がない。
毎日毎日、周りの笑顔に囲まれる。
毎日毎日、愛想の良い作り笑顔を作り続ける。
もう誰も、私を見ないで。もう誰も、近寄らないで。もういっそ、私を独りにして。
Side??
「今日も静かな広い部屋で目を覚ます。」
『おはよう
今日も家族へ笑顔を向ける。』
「行ってきます
今日も誰もいない部屋へ独りつぶやく。」
『ただ幸せなふりをして学校へ向かう。』
「ただ独りで学校へ向かう。」
『ただ周りにやらされるように勉強を続ける。』
「ただ独りで毎日のようにギターに触れる。
何の為かもわからずに。」
――そんな日々の繰り返しだった――
『ある日私は夢を見た。独りぼっちの世界で生きる昔の私。』
「ある日私は夢を見た。みんなの笑顔に囲まれる昔の私。あぁ、どうして。」
――あんなにも嫌いだった昔の私が羨ましい――
私の眼の前に、一つの画面が浮かび上がる。
――自分のことは好きですか?――
私の手は、NOを押していた。
眼を開くと、温かい太陽がカーテンの隙間から輝いている。
私はまた、独りに戻った。
独りではなくなった。
暗かったはずのこの世界が、少し、光って見えた。
Side1
学校へ行き、久しぶりに見る古い教室の前に
立つ。
それから静かに深呼吸し、鼓動が早い心臓を落ち着かせる。
――ガララ――
扉を開ける。
その教室は、クラスメイトは、誰も私を見ていなかった。
そんな事実に安堵し、ホッと息を吐く。
風が静かにふく窓側の席。
クラスメイトの笑う声。
窓に映る自分の顔。
その目は、しっかりと自分を見ていた。
たとえ独りでも自分が自分を好きになる。そんな世界も、ありなのかもしれない。
今なら初めて、私が私で、私のままで、YESを押せそうだ。
自分のことは好きですか? WaKana @wakana0805
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