300字小説集
鞍馬アリス
1
祖父の家に龍の掛軸がある。狩野派の絵師が描いたものらしく、赤い鱗の美しい龍が、大きな山に巻き付いている姿が描かれている。
祖父の家では年に一度、秋に掛軸を屋外にかける。曝涼と言って、カビや虫がわくのを防いでくれるのだと祖父は言っていた。
掛軸を外に吊るしておくと、描かれていた龍が飛び出して、高々と空に舞う。一年分の埃が空に舞い散り、風がどこかへ連れ去っていく。龍は二時間もすると戻ってきて、掛軸の中に行儀良く収まる。それで曝涼は終わり、祖父が丁寧に掛軸を元の場所に戻すのだ。
私はこの曝涼が好きで、大人になった今でも、祖父の家に出かけて、手伝いをしている。
300字小説集 鞍馬アリス @alice_kurama
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