幼馴染の寝取られ動画を見て絶望し、部屋を飛び出そうとしたら母親の寝取られ動画まで送られてきたことに混乱し宇宙猫になっていたら、寝取り相手である親友の謝罪動画配信を見ることになり、心の底から地獄です
くろねこどらごん
第1話
『あんっ♡ あんっ♡ 気持ちいいよぉ♡』
なんなんだ、これは。
とある土曜日。画面の向こうで行われてる行為に目を奪われながら、俺こと
「これ、路夏だよな……間違いなく……」
朝に母親から俺宛ての荷物が届いていたと手渡されたUSBメモリの中にあった、一本の動画。
なんだろうと思いつつパソコンに差して再生してみると、そこには俺の幼馴染にして彼女である、
『へへっ、どうだ路夏? 俺のほうが、実のやつよりずっと気持ちいいだろ?』
いや、それだけじゃない。路夏を抱きながら熱烈な口付けを交わす男にも見覚えがある。
『うん♡ 津太郎くんのほうが、実よりずっとすごいよ♡ ねぇ、だからもっとぉ♡』
本来なら拒絶しなければいけないはずなのに、路夏の瞳にはハートマークが浮かんでおり、そこには俺など映っていない。
俺の恋人はもはや、親友だと思っていた男に陥落しきっている。
それが分かってしまった。同時に理解する。
俺は恋人を寝取られたのだ。それも、長年の親友に。
俺は恋人に裏切られたのだ。長年の幼馴染で、初恋の相手に。
『へへへっ、おい見てるか実? 路夏はお前より、俺のことを選んだみたいだぜ? 俺はお前のことが、ずっと嫌いだったんだ。俺の路夏を取りやがってよぉっ! お前から路夏を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ!』
「あ、ああああ……」
全身が震える。絶望が襲いかかる。
これが、これが寝取られ。これが、恋人を奪われるということなのか。
脳が破壊される感覚で、心が壊れそうになる。もうこれ以上、あの動画を見ていることなんて出来ない。
「うわああああああああああああ!!!!!」
俺の心はこの瞬間、粉々に砕けてしまった。きっともう、二度と立ち直ることは出来ないだろう。
激しい絶望感に襲われながら、絶叫とともに俺は家を飛び出そうと――――
「うわ「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」…………って、え?」
したのだが。
それより先に部屋のドアが開いたかと思ったら、次の瞬間俺の絶叫は更に上のクソデカボイスによってかき消された。
「え、ちょ、親父?」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「あの、なんでそんなに叫んで」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「おい、ちょっと落ち着けって。おい」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「いい加減落ち着けぇぇぇぇぇ! 話が出来ねぇだろうがああああああああああ!!!」
「ぶらいとさんっ!!!」
いつまでも叫び続けている親父に、俺はキレた。
寝取られ動画を見て脳破壊されていたこともあり、思わず親父のことを手加減抜きでぶん殴ってしまう。
結構な勢いで吹っ飛び壁にぶつかったことでようやく正気を取り戻したのか、親父が驚愕の表情で俺を見てくる。
「な、殴った。殴ったね……親父にもぶたれたことないのに!」
「いや、アンタが俺の親父だろーが。つーか息子である俺にそんなこと言われても反応に困るわ!」
ネタに走れるあたり、意外と余裕あるなこの親父……。
ちょっと心配してたんだが、もしかしたら損したかもしれない。
「そもそもどうして叫びながら部屋に入ってきたんだよ。こっちは路夏の寝取られ動画を見て大変なん……」
「そうなんだよマイサン! 寝取られなんだよおおおおおおおおおおおお!!!」
「ちょっ、やめろぉっ! 顔を擦り付けてくるな! キモいんだよぉっ!」
またも叫びながら俺に抱き着いてくる親父。そして勢いそのままに頬ずりしてきやがったが、無駄にダンディな容姿をしているため、伸ばした髭が顔にジョリジョリ当たって地味に痛い。
「親父、早く離れ……」
「母さんが、母さんがぁっ」
だからとにかく早く引き剥がしたかったのだが。
「母さんが寝取られたんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「………………はぇ?」
親父が突然、とんでもないことを言い放った。
♢♢♢
『おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡』
『へへっ、どうだおばさん? 俺のほうが、おじさんよりずっと気持ちいいだろ?』
なんなんだ、これは。
いや本当になんなんだ、これは。
親父のパソコンに映し出された映像を前に、俺は完全にフリーズしていた。
『うん♡ 津太郎くんのほうが、パパよりずっとすごいわ♡ ねぇ、だからもっとぉ♡』
『へへへっ、おい見てるか実? おばさんはお前より、俺のことを選んだみたいだぜぇ?』
いや、選んだみたいとか言われても。
俺息子だし、エロ漫画でもあるまいし。実の母親に邪な気持ちを抱いたことなんざ一度もないし、別にマザコンってわけでもないし。
そんなこと言われても困るというのが正直な感想というか。とにかく理解が追い付かない。
『俺はお前のことが、ずっと嫌いだったんだ。俺の路夏を取りやがってよぉっ! お前から母親を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ!』
『おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡』
いやいやいや。
いやいやいやいやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
おかしいだろそれは。
なんで俺が路夏と付き合ったからって、俺のお袋に手を出すことに繋がるのさ。
元親友が恋人を寝取っただけでは飽き足らず、俺の母親にまで手を出す理由も分からない。お前に熟女趣味があったとか、全く聞いたことなかったよ俺。
流石にツッコミどころが多すぎる。もう訳が分からない。頭宇宙猫状態とはこのことか。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! ママァァァァァァァァァ!!!!! うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
つーか親父、声がでけぇよ。俺よりよほどショック受けてるじゃん。
人は自分以上にうろたえている人が近くにいると冷静になる生き物だと聞いたことがあるが、実際にそういった状況に置かれてみるとすげー嫌だな。親のこんな姿見たくねぇ。
『おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡ おほほほほほほふぉおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡ ほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡』
あとお袋も声でけぇ。そしてうるせぇ。
ぶっちゃけ津太郎の声ほとんど聞こえなかったし。つーか恋人寝取られたことより、オホ声あげてる母親を見せられていることのほうがよほどトラウマになりそうなのが嫌すぎるんだが???
親父とは違う意味で見たくない姿見せられてるし、いったいなんなのこの両親。
「あ、ああああ……全身が震える。絶望が襲いかかる。これが、これが寝取られ。これが、妻を奪われるということなのか。脳が破壊される感覚で、心が壊れそうになるぅぅぅぅ!!!!!」
いや、それ俺がちょっと前に考えていたことだから。
息子のモノローグパクんなや。いくら親子だからってこんなとこが似てるとか嫌すぎるんだががががが。
『実ぅっ! よく見ておけ実ぅっ! 俺がお前から母親の寝取りを完了する瞬間をなぁっ! ああああっ! 実ぅぅぅぅっっっ!!!!!』
『おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡』
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! ママを、ママを寝取らないでくれえええええええええええええええええええ!!!!! ママァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
なにやら盛り上がってる津太郎だが、馬鹿デカいオホ声をあげるお袋と俺以上にうろたえまくっている親父がすぐそばにいるせいで、まるで心に響かないのがほんとひどい。
俺をほっぽいて周りが勝手に騒ぎまくってるせいだろうか。一応俺も当事者のひとりであるはずなのに、蚊帳の外感が半端ないぞ。
「マジでなんなのこの状況」
思わず天を仰いで現実逃避をしかけた、その時だった。
「騒ぎ過ぎよパパ。ご近所の迷惑になるじゃないの」
「「!!??」」
ガチャリと音がしたかと思えば、現在進行形で画面の中で醜態……いや、痴態を晒しまくっていた母親が、平然と部屋に入ってきたではないか。
「お、お袋。これはいったい「ママァァァァァァァァァァァァァ!!!!! パパを、パパを捨てないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
動揺しながら質問しようとした俺の声に親父の絶叫が更に被さり、強引にかき消される。
「あらあら、どうしたのパパ。そんなに必死になっちゃって」
「ママァァァァァァァァァァァァァ!!!!! 捨てないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! なんでもするからあああああああああああああああ!!!!! ママに捨てられたらもう生きていけないよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
死ぬほど情けないことを叫びながらお袋にすがりつく親父。
わが父ながら、本当に情けないことこのうえない。
こんな大人にだけは死んでもなりたくないなと思いながら、俺はお袋に向き直ると、気になっていたことを聞いてみることにした。
「なぁお袋。あの映像見たんだがあれなんなの? ホントに津太郎に寝取られたん?」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! ママァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「あ、なるほど。あれを見たのね。だからこんなに騒いで……もう、パパに愛されてて、ママ嬉しいわぁ」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! ママァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「いや、嬉しいわぁじゃなくてさ。実際に津太郎と寝たなら、なんでそんな呑気な顔して俺たちの前に……」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! 寝取られ嫌だあああああああああああああああ!!!!! ママァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「ああ、その話ね。実はね、ちょっと長くなるんだけど、この前津太郎くんがね」
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! 寝取った相手の名前なんて言わないでよママァァァァァァァァァァァァァ!!!!! うわああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「……………………」
イチイチ割り込んで叫び続けている親父に、俺は再度キレた。
「うるっせぇぇぇぇぇ! ちったぁ落ち着けや! 話が出来ねぇだろうがああああああああああ!!!」
「てむれいっ!!!」
俺の拳をうけ、吹っ飛ぶ親父。
おかげで黙らせることに成功したが、またも親父が驚愕の表情で俺を見てくる。
「ぶったね、二度もぶった……! 親父にもぶたれたことなぶげぇっ!」
「もういいんだよそのネタは! ほら、さっさと話を進めるぞ! 親の泣き言なんざ聞きたくねぇんだよこっちはよぉっ!」
「そうよね。パパはママを鳴かせることのほうが上手だもの♡ 鳴くのはベッドの上だけで十分よ♡」
「お袋もうるっせぇよ! そういう生々しい話はしなくていいんだよこらぁっ!」
親父に三度目の拳を叩きこみ黙らせたのはいいものの、今度はお袋のほうが余計なことを言ってくる。
いい加減疲れてきたし、さっさと話を進めてもらいたいんだが!?
「ホラ、親父がまた発狂したらめんどいしさっさと話してくれ! 津太郎となんでああなったのかとか、手短にな!」
半ばキレながらお袋に催促した俺を、いったい誰が責められるというのだろうか。
自分は間違っていないと確信しつつ、俺はお袋が口を開くのをただ待った。
「うーんとね。まずきっかけは津太郎くんが、うちのポストにUSBメモリをこっそり置いていったことなのよ。明らかに挙動不審だったから、なにか気まずくなるようなことをしているんだなってすぐに分かったわ」
「はぁ。それで?」
「それで実には悪いと思ったんだけど、こっそり中身を見させてもらったの。そしたら案の定、路夏ちゃんの寝取られ動画が収録されていたじゃない。お母さん、ショックだったわぁ。まさかあの路夏ちゃんが浮気するなんて……そして、同時にちょっと怒っちゃったの。実を裏切るなんてひどいじゃない。私の大事な大事な息子を裏切って馬鹿にするなんて、お母さん絶対許せないって思ったのよ!」
頬を膨らませ、憤りを見せるお袋。
ここの発言だけを切り取れば、俺のことを想ってくれてる母親に素直に感動できただろう。あのオホ声動画さえなければな。なければなぁ!!!
「はぁ。それで?」
「うん、それでね。お母さんは考えたの。どうすれば路夏ちゃんや津太郎くんを、めっ!って出来るかって。そして思い付いたのよ! 目には目を、歯には歯を。そして寝取られ動画には寝取られ動画をって!」
なんちゅうこと思いついているんだこの人は。
我が親ながら、とても正気とは思えん。
「思いついたら吉日と言うし、早速寝取られ動画を作ってふたりに送っておいたわ! あとでなにがあったのか分からないと困るだろうと思って、実にはもとの動画が入ったUSBを渡したし、ついでにパパは隠していたけど、どうも寝取られ好きの性癖を持っているみたいだったから私の動画を渡しておいたの! この様子だと満足出来たようでなによりね♡」
いや、なによりね♡じゃねーんだわ。
なんでそんな軽いノリで寝取られ動画撮ってんの? もう一度言うが、正気かこの人???
「えっと、ツッコミどころは色々あるけど……とりあえずその流れでなんで津太郎と関係を持つことになったのかさっぱり分からないんだけど。そこ説明してもらっていい?」
「関係は持ってなんていないわよ。あれはAIを使ったの」
「は? AI?」
いきなり予想外の単語が出てきて、思わず聞き返してしまう。
「ええ。ほら、最近AIにイラストを学習させるとか話題になってるじゃない? あれって実は動画にも使えるのよ。AIにママとパパのプレイ動画を学習させて、津太郎くんが実に送ろうとしていた動画に合成したの。ふたりとも気付かなかったみたいだし、我ながらいい出来だったみたいね♡」
ぽっと頬を赤らめる母親を見て、俺は思わず呆れてしまう。
あんなオホ声動画を学習させられるとか、AIがあまりにも気の毒すぎる。
「はぁ。まぁ出来云々は置いとくとして。とりあえずお袋は、浮気したわけでも津太郎に寝取られたわけではないんだよな?」
「勿論よ! ママはパパ一筋だもの! 浮気なんてするわけないわ! そもそも津太郎くんは早すぎて、全く気持ちよくなれなそうだもの! あんなに早い子と浮気するなんて、路夏ちゃんも見る目がないわねぇ」
ふぅとため息をつくお袋だったが、俺を安心させるか津太郎をディスるかのどっちかに集中して欲しいと思うのは果たして俺のワガママなんだろうか。
「うわああああああああああああああああああああああああ!!!!! 信じてたよママァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「あ、復活したのか親父。つーかほんとテンションたけーなおい」
まぁとりあえず実際に浮気したわけじゃないのならなによりだ。
「とりあえず後はふたりでごゆっくり。俺は疲れたからもう寝るわ。それじゃ……」
家庭崩壊にならなかったことに安堵しつつ、俺は自分の部屋に戻ろうとしたのだが、
ピロリン♪
「ん?」
なにやらスマホから着信音が聞こえてくる。
スマホを持ったまま部屋に戻り、なんとなしに取り出して見てみると、なにやらリンクが送られてきたようだ。
送り主は路夏。なんだろうと思いつつ、リンク先をタップしてみる。
すると、
『ホラ津太郎くん。私に言うことあるよね?』
『ず、ずびばぜんでじだ……』
「!!??」
開かれた画面の向こう。
そこには俺の幼馴染にして元彼女である、
『すみません、じゃないよね? 俺はあっちも凄く早いのに手を出すのも早い、性欲に頭を支配されたクソ野郎です。生まれてきてごめんなさい。だよね?』
いや、それだけじゃない。路夏に髪の毛を鷲掴みにされながら、ブリザードの如き冷ややかな目で見つめられてる男にも見覚えが……えと、あれ津太郎だよな?
画面の向こうで路夏に蔑まれつつ、顔面がボコボコになって裸でこっちに土下座してるけど、多分あれは津太郎だ。もはや別人レベルの顔の変わりっぷりだけど、おそらくきっと津太郎で間違いない。
『だ、だがら路夏。何度もいっでるげど、俺、浮気なんでじでないって……』
『あ゛?』
そんな津太郎(推定)は、路夏に向かってなにやら言葉を発していたが、それは路夏の物凄く低い一声によって阻まれた。
『津太郎さぁ。あんな動画撮っておいてなに言ってんの? さっきから言い訳ばっかしてさぁ。男らしくないんだけど。そもそも、私に手を出しておいてなんでおばさんにも手を出してるわけ? 正気? 二股だけでもドン引きなのに、なんでよりによっておばさんなのよ』
『な、なんでって。だがらおれ、ぞんなごど……』
『だからさぁ! 言い訳すんなって言ってんじゃん!』
バンッ! という激しい音とともに床を叩く路夏。
響いた音の大きさに、俺と津太郎の身体がびくりと跳ねる。
『動かぬ証拠があるんだよ!? なんで言い訳なんてするの!? だいたいさぁ! おばさんが趣味だっていうなら、最初っからそっちに手を出しときゃよかったじゃん! 私を当てつけみたいにしてさぁっ! 女としてのプライドズタズタなんだけど! 私の今の気持ち、アンタに分かるって言うのっ! ねぇっ!?』
『わ。分からないでず。ばい……』
『だよねぇっ! 当然だよねぇっ! 分かっていたなら、あんなこと出来るはずないもんねぇっ!』
凄まじい剣幕だった。
女の子というのは、こんな凄い顔が出来るものなのか。
画面越しだというのに、あまりの迫力に思わずちびりそうになる。
『ぞ、ぞうでず。俺が全部悪いでず。ごべんなざい……』
その迫力を間近に受けて、流石に心が折れたのだろう。
全裸で泣き出す津太郎。知り合いの情けなさすぎる姿とは、どうしてこうも心が痛むのだろうか。
『あ、やっと認めたんだ』
『みどめまず。俺が全部悪がっだでず。だがらもう、うぅぅぅ……』
念のために言っておくが、お袋の件に関してはAIを用いた合成映像。いわば捏造のでっち上げである。
だから実際に津太郎はお袋に手を出してなんていないのだが、それを口に出す勇気は俺にはなかった。
むしろこの状況で口を挟めるやつがいるなら逆に知りたいくらいだ。
そいつはきっと心臓に毛が生えているに違いない。そんな知り合いはお袋だけで十分である。
『じゃあ謝ってよ』
『え』
「え」
いたたまれない気持ちで成り行きを眺めていたが、路夏の口から出てきた予想外の言葉に、俺と津太郎の声が思わずハモる。
『二股するゴミでごめんなさいって。高校生のくせに倍以上歳の離れた友達の母親に手を出す異常性癖のカス野郎でごめんなさいって。あと早いくせに私のプライドを傷つける、生まれてきたことが間違いのゴミクズ人間でごめんなさいって。土下座して、そう謝ってよ。出来るよね?』
『え、あの……』
『で・き・る・よ・ね!』
またしても路夏から繰り出される凄まじい圧。
既にこの場の上限関係は決しており、これに逆らうことはまず出来ない。
路夏の前に移動し、土下座の体勢を取る津太郎は完全に人として終わってるとしか言いようがない惨めさだったが、それで許すような路夏ではない。
『ほら、早くして。早く言って。こっちは待ってるんだから』
『ふ、二股して、ごめんなさい。おばさんに手を出す異常性癖のカス野郎でごめんなさい。早くて路夏のことを傷つけて、生まれてきたことが間違いのゴミクズ人間で、本当にごめんなさい……う、ううう……』
土下座をしながら路夏に謝る津太郎に、もはや人としての尊厳など微塵もなかった。
哀れという言葉がここまで似合う光景もそうはない。
そんな津太郎を見下ろして無言で路夏は写真を撮り「今度なにかしたらこれ拡散するから」という怖すぎる宣告をしていたが、もはやそれさえ津太郎は気に掛けることは出来ないようだ。
もはや津太郎のプライドは木っ端微塵に砕け散り、再起不能に近い状態なのかもしれない。
「……寝取られって、誰も幸せにならないんだな……」
そんな津太郎を同情のこもった目で見ていたが、不意に路夏がこちらへと目を向けてくる。
『ねぇみのるぅ♡ 見ててくれたぁ♡ 私、津太郎くんのことを懲らしめたよぉ♡』
「!!??」
そして発せられた先ほどまでとは打って変わった猫なで声を耳にして、俺は言葉を失ってしまう。
『わたしぃ、津太郎くんに騙されてたのぉ♡ 本当に好きなのは実だけだよぉ♡ 実も色々大変だったよね♡ これから私、実の家に行くから♡ 頑張って実のことを慰めてあげるから、許してくれるよね♡ ね♡』
さっきまでの流れで、なんでこんなことが言えるのだろうか。
下手なホラー映画より今の路夏のほうが、よっぽど恐ろしいんだが。
背筋が凍る思いを味わいつつ、なんとか断りの言葉を探るのだが、
「えっと路夏。今はその「おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡」立て込んでるん……で……え……?」
突如下の方から、地獄のようなオホ声が響き渡ってきたではないか。
「おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡ パパすっご♡ 寝取られパワーすっご♡ 寝取られたと思ってこんなに燃えるとか予想外♡ でも大正解♡ おおっ♡ やっべ♡ マジやっべ♡ つよすぎ♡ 寝取られすごっ♡ これならもう毎日寝取られ映像作りまく「うごえええええええええええええええええええええええ!!!!!!」」
プレイ真っ最中の母親の声というマジモンの呪詛を耳にして、リバースした俺のことをいったい誰が責められるというのだろう。
津太郎とのプレイ動画は現実味がなかったこともあってどこか他人事感覚で見られたが、直に生声を聞いて限界突破してしまったのは、人として当然のことなのではないかと俺は思う。
「…………あの。ごめん実。日を改めるね。その、お大事に……」
吐いた俺を目のあたりにし、いろんな意味で路夏が引いてくれたのは良かったが、それがなんの救いになるというのか。
脳が完全に破壊され動けない今の状況はまさに地獄。マジモンの拷問としか言いようがない。
「おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡ やっべ♡ パパのこれマジヤッベ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ やべっ♡ つっよ♡ 強すぎてムリ♡ かてね♡ エッグ♡ つよつよ♡ ホントスッゲ♡ パパスッキ♡ もうこれマジでイ「うごべえええええええええええええええええええええええ!!!!!!」」
結果、俺は母親のオホ声を耳にするたびにリバースを繰り返すという無間地獄を、その日は一晩中繰り返したのであった。
……寝取られって、つくづく誰も幸せにならないんだなあ……
ちなみに後日。
「な、なぁ実。物は相談なんだが、お前と路夏ちゃんのプレイしている動画をパパにくれないか。それを合成して疑似親子寝取られプレイを再現したいんだよね……ダメ、かな? かな?」
「殺すぞ」
気の狂った提案をしてきた親父をバチボコにしばき倒してるところを路夏とお袋に止められ、親子の縁を切る寸前までいったのは、また別の話である。
◇◇◇
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幼馴染の寝取られ動画を見て絶望し、部屋を飛び出そうとしたら母親の寝取られ動画まで送られてきたことに混乱し宇宙猫になっていたら、寝取り相手である親友の謝罪動画配信を見ることになり、心の底から地獄です くろねこどらごん @dragon1250
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