聖夜の奇跡に乾杯を。

たっきゅん

聖夜の奇跡に乾杯を。

 若者が大都会へと移住し、人口流出によりシャッター街となりつつある小さな町の商店街。そんな商店街に笑顔で働く店員さんが素敵だと評判のケーキ屋さんがあった。


「創業30年記念! クリスマスケーキには苺をいっぱい、いーっぱい乗ってるから是非とも『開星堂』で予約お願いしまーすっ!」

「すみませーん! 会計いいですかー?」

「はーい、今行くので少しだけお待ちくださーい!」 

 

 その評判の所謂、看板娘と呼ばれる23歳の江藤えとう雅美まさみは長いポニーテールを元気よく揺らしながら11月の最期の日である今日も働いていた。


「和樹さん、奈緒さん、お疲れ様です!」

「お疲れ様、雅美ちゃん。いつも最後までシフトに入ってもらって悪いね」

「いえ、好きでやらせてもらってますし、むしろ感謝です! 今日もありがとうございました。お先に失礼します!」


 日も短くなり外が暗くなってきたころ、全ての業務を終えた雅美は自費で購入した苺のショートケーキを片手に店主夫妻へと頭を下げてから店を出た。閉店時間は16時30分と、個人営業特有の少し早い時間にお店は閉まる。けれど店の片付けなどを終えた頃には既に時刻は18時近くになっていた。


「あ、いた!」


 店を出てすぐに雅美は幻想的な世界へと誘われた。商店街の電飾が一斉に灯り、店先を繋ぐように伸びたイルミネーションが雅美の視界をずっと先まで彩る。それはまるで一瞬の、さながらイリュージョンのような光景だった。

 

「そりゃ点くだろ。もう12月だぞ?」

「まだ11月は終わってないよー! それに私が一番最初に見たんだって思うと特別感あるよね!」


 後ろからやってきた長身の平凡な見た目の男性は雅美の発言に呆れながらも並んで歩きだした。


「それにしても今日は早いねー。もうお仕事終わったの?」

「ああ。今日は飲み会だったからな。残業はなしだ」

「まーたサボったんだー! 彰は何を考えてるかわかり辛いって昔から言われてんだから、あんまり付き合い悪いと嫌われちゃうぞ?」

 

 1つ下の幼馴染の佐田さだあきらはばつが悪そうに頭を掻いた。それを見た雅美は彰の手を引いて道の隅へと寄り、しょうがないなぁといった様子で彰の頭を優しく撫でた。恥ずかしそうにしながらも彰はそれを受け入れ、しばらく二人だけの世界で無言の時間が過ぎた。


「あ、そうだ! お姉ちゃんがいいものをあげようー」

「ん、……また今ハマってる何かのグッズか?」

「失礼なっ! ちゃんといいものだよー!」


 撫でるのをやめられたことを名残惜しそうにしていたが、いいものに頭が支配された雅美は気付かない。それを不服に思った彰がどうせいつものだろといった感じで聞いてきたので、ムッとしながらも雅美は肩に掛けた可愛らしいベージュの鞄からクリアファイルを取り出し、それを丸ごと彰へ「はいっ」と言って手渡した。

 

「……これは?」

「聞いて驚けーってやりたいけど、見たまんまー。クリスマスケーキの割引券付きの開星堂お店のチラシだよ!」

「ちょ、――っ!」

「ん~~~? おやおや~?」


 ドヤっと人並みにある胸を突き出し、チラシを雅美は指さす。それを目のやり場に困ったように視線を彷徨わせた彰が最終的に俯いてしまった。


「頭を撫でられるのは良いのにこういうのはまだダメなんだ~。子どもだね~」

「……それとこれとは違う。雅美さんはもっと淑女としての慎みを持つべきだ」

「む~~~ぅ~~~」


 すぐ近くに人がいないのを確認してこっそりとしてやったり顔で胸を当てて揶揄い始めた雅美だったが、彰は冷静を装って肩を押して引き剥がした。


「――はいおわり。で、チラシなんかどうするんだよ」

「クリスマスケーキの割引券付きー! 大事な部分を省かないの!」

「はいはい。で、クリスマスケーキの割引券付きチラシをこんなにどうするんだよ」


 雅美に「こんなにはいらないだろ」と言いつつも、自分の手提げ鞄へとチラシが折れないようにクリアファイルが曲がらないように大切にしまう彰にキュンとした気持ちを抱えながらも雅美は渡した理由を説明し始める。


「みんなに配るんだよ! だってチラシだからね!」

「みんなって……」

「もちろん、彰の会社の人! クリスマスケーキの割引券付きチラシを私からいっぱいもらってどうしていいか困ってるから、誰か欲しい人いませんかーって」

「いや、まあ困ってはいるが……。俺が配るのか?」

「そりゃ当然でしょ。友達大作戦(大人版)だよ! お客さんがいっぱい来てくれたらそれだけ儲かるからね!」


 開星堂のこのチラシは店舗の目立つ場所に置いてあり、全員が例年より10%OFFで購入をすることができるのだが、雅美はそれを伏せて10枚以上のチラシを押し付けたのだった。


「で、やっぱり再開発は止められそうにない?」

「だな。上が意気込んでいて、早いうちに商店街の人を説得しろって煩い」

「そっか……。みんな必死に働いてるのにね」

「だけど、徐々に人がいなくなってるのはわかるからな。同級生の大半はこの町にもういないし」

「私もだよ。――みんな都会に出ていっちゃった。だけど、だからこそ、私はいつまでもそんな人たちが戻った時に思い出に浸れるように商店街は残ってほしいな」


 市役所で働く彰は都市開発課に配属されいつも矢面に立ってこの商店街の人の不満を一身に受けてくれている。そんな彰だってもっとこの町を、商店街を良くしたいと思い市役所で働いている。しかし、並んで歩く商店街は全く人がいないわけでなく、疎らながらも人がいることが二人の葛藤に拍車をかけていた。

 

「そういえば今日、うちは鍋の予定で買い出しに行こうと思ってたんだけど――雅美ちゃん、買い物一緒に行く?」

「おっ、いいねー! 闇鍋でもしちゃう?! 二人で食材は内緒にしてさ!」

「なんでうちの夕飯を闇鍋にするんだよ……。てか、食べに来る気?」

「買い物に誘って置いて別々に自宅で食べましょうなんて彰はつれないこと言わない――よね? もうお母さんには彰の家で食べてくるって送っちゃったし」


 雅美のスマホには母親とのトーク画面が映されており『彰くんの家でご飯をご馳走になってきます』の文字が浮かんでいた。諦めた彰は雑談をしながらもまだ営業をしている近くのスーパーまで一緒に歩くことにした。


「それで今日は俺の当番じゃないんだけど、昨日、飲み会を断ったって言ったら両親に叱られてさ、罰として食事当番を順番無視でさせられるはめになったんだよね」

「あー、それで鍋なんだー。彰って何でもちゃんと準備したい性格だもんね」

「……間違ってないけど、何かバカにされてる感が」

「不貞腐れないの。勢いだけの私からしたら羨ましいんだから! だったらさ、まだ具材は決めてないんだよね? んー、キムチ鍋とかどうかな! 寒い冬にはぴったりだよ。やっぱり寒い夜は体を温めてくれてくれるのがいいよねー。辛さで体がぽかぽかしてね――、野菜もちゃんと取れるし――」


 いつもなら作る料理を決めていて、何を買うのかをはっきりと答えてくれるのに鍋としか今日は返さなかった彰だったので闇鍋とふざけてみた雅美だったが、理由を聞いてとても納得し美味しいお鍋を食べるために色々とキムチ鍋について語り始めるのだった。



 

 当たり前のように雅美は店内で何人かの店員さんと親しそうに話し込んで彰を知らない人には紹介して回った。商店街の再開発を担当している市役所側の人間と知って彰に態度を変える人もいたが、雅美が彰の人柄を自慢げに話してる姿を見て悪い印象を徐々に払拭していった。

 

「ありがとうございましたー! 雅美ちゃーん! また彼氏さんと来てねっ!」

「陽花里ちゃん、違うよー。それはそうと今日はありがとね! またきまーすっ!」

「……ありがとうございました」


 雅美が断ってもお店の人たちが少しづつサービスしていって膨らんだ袋に必要な食材を押し込んで、二人は陽花里に見送られながらスーパーを後にした。


「ほら、私はちゃんと待っててあげるからさ。色々と彰の準備が整ったらちゃんと自分の言葉で言うんだぞ? 私からは絶対に告白しないからね!」

「はいはい。お姉ちゃんぶらなくていいから行くよ。雅美ちゃんが話し込むから遅くなったし、かーさんも待ってる」

「その分いっぱいサービスしてもらったんだからいいじゃんかー!」

「そこは感謝してる。あと、顔繋ぎも。ありがとう」


 少し照れながらもお礼を言う彰に「にっしっし」と雅美は笑った。


 

「ごめんくださーい!」

「雅美ちゃん、久しぶりね。元気してた?」

「はい! 美穂さんもお元気そうで何よりです! 今日は彰くんがキムチ鍋を作ってくれるそうなのでご馳走になりにきました!」

「いや手伝えよ」

「雅美ちゃんには手伝わせないわよ? 罰ゲームにならないじゃない。あんたの調理が終わるまで二人でおしゃべりしてるから美味しいキムチ鍋を作るんだよ? 雅美ちゃんお客さんに下手な料理を出すんじゃないよ? いいね? ――ちょっとお父さんー、彰を見ててもらえるー?」

 

 彰の家に着くと、母親である美穂さんがとても嬉しそうに雅美を出迎えた。夕飯の鍋ができるまで二人はリビングでテレビをかけながらおしゃべりをし、彰は父親に見張られながら買ってきた食材でキムチ鍋を作り始める。


「こら! 白菜は芯までちゃんと使いなさい!」

「あとで別で切って入れようと思ってたんだよ……」

 

 台所では父、輝雄てるおに度々口出しをされながら彰は調理を続け、雅美は隣の部屋からチラチラと様子を見ながらも美穂の話に付き合っていた。


「――それでね。彰ったら慌てて鞄を取りに戻ってきたのに、今度は靴を左右でバラバラのを履いて出て行っちゃったのよ~」

「あははっ♪ 彰くんらしいですね!」

「でしょ~? あっ! そーだ! 雅美ちゃん。私、今ね、手相占いに嵌っててね。ちょっと左手を見せてもらえる?」

「こうですか? ――っ!」


 手のひらを指でなぞられてゾクっと来た雅美は体が反射的に強張ってしまった。

 

「なんでもありません。ちょっとこそばゆかっただけです。続けてください」

「慣れてないものね。ごめんなさいね、ちょっとの間だから我慢してて」

 

 そんな雅美の様子に美穂は可愛いと思いながらもさすがに年齢的に口に出すのは失礼かと思い、心の中だけに留めて手相をみていく。


「そうねー。何かわからないけど……今は辛い時期かもしれない。けどきっと全部上手くいくわ!」

「あははっ! なんですかそれー! 美穂さん、占いになってないですよー」

「そんなことより、雅美ちゃん、ちょっと手が凝り過ぎじゃない? もうちょっとおばさんに付き合いなさい」

「いいですけどー。あっ、そこっ……んっ……」

 

 雅美のなでかわいい艶やかな声がリビングから響いてきて彰は思わず振り向いた。そこには手首から指先までマッサージされている雅美の姿があったが、彰が目にできたのは本当に短い時間で、すぐに輝雄がそれに気付いて叱責を飛ばす。


「よそ見するな! 母さんに任せておけ。――お前は鍋だ」

「お前は鍋だ、って息子に言う台詞じゃないよな……」

「いいから鍋だー!」

「あー、もう! はいはい、さっさと鍋作ればいいんだろ!」


 よそ見をして手を休めるなと叱られ彰はその蠱惑的な声の誘惑に耐えながら鍋の具材に火が通っているのを贖罪ごとに時間を変えて確認し続けた。

 

 それからキムチ鍋を囲んで佐田家で和気藹々とした時間を過ごし、心も体も温まった雅美はお礼を言い、今日のお返しに開星堂お店のクリスマスケーキを贈ろうと心に決めて帰宅したのだった。




 クリスマス当日、雅美は予約した商品を取りくる客への対応に追われていた。


「すみません。予約した商品を取りに来たんですけど」

「えっと、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「渡辺です」

「渡辺様ですね! 少々お待ちください。――奈緒さーん! 渡辺さんの予約したケーキをお願いしまーす!」


 ジャケットの似合う背の高い男性が来店し、雅美に予約した商品を受け取りに来たと伝えるとすぐさま大きな声で店の奥にいる奈緒にそれを伝える。

 

「わかったわー。クリスマスケーキが1とモンブランが1、間違いないか聞いてくれるー?」

「はーい! 商品がご用意できる前にご確認させていただきます。予約されたのはクリスマスケーキが一つ、モンブランが一つでお間違いないでしょうか?」

「ええ、合っています。それにしても元気のいいお嬢さんだ。あの佐田が言うだけのことはある」

「えっ!? その佐田さんってもしかして――」

「雅美ちゃーん! 合ってるー?!」

「あっ、合ってまーす!」


 雅美が奈緒とやりとりする姿を渡辺という客は興味深そうな顔をしながら見ていた。


「それにしてもこのお店は活気があっていいね」

「はい! 常連さんも多くてみんないい気さくないい人なんですよ!」

「なるほど。君は元気の源は人との繋がりだと言いたいのだね」

「んー、そうですね! みんなと打ち解けた今だからわかるんですけど、そういう優しさに触れた経験が私も初めてのお客さんでも怖がらずに元気に接することができるんだと思います!」


 活気というものが人との繋がりから生れるという雅美の言葉に少し頭を下げて考えこんだ後、その回答に満足したのか顔を上げた。その渡辺の顔はとても嬉しそうなものに変わっていた。


「はい、これ渡辺さんにお願いね」

「はい! といってもこちらのお客様なんですけどね」

「どうも、渡辺です。初めて訪れましたがとても良い店ですね」

「ありがとうね、そういってもらえると嬉しいわ。……最近は寂しくなってきたけどね、それでも商店街の人たちみんな、個人商店としての誇りを持ってやってるからね。この辺りも初めてなら他の店も見ていってあげてね」

「ええ、ですがそれは後日にじっくり回らさせていただきます。今はこのケーキを早く家の冷蔵庫に入れたいので。――では失礼します」

「あ、はい。ありがとうございましたー! またのお越しをー!」

 

 会計を済ませてケーキの入った袋を手に持った渡辺は頭を下げて店を出ていく。佐田という人物について尋ねるチャンスを窺っていた雅美だったが、もう帰るということで元気な声で渡辺という男を見送った。


「陽花里ちゃん! ありがとね!」

「ううん! ここのケーキクリスマス、凄く美味しいからねー! むしろちょっとおまけしてくれてこちらこそありがとだね!」

「創業30周年記念と、友達特典でさらにドーン! お互い様ってことで気にしないで!」

「あははっ! 雅美ちゃんのそういうノリ大好きだよ!」

「あ、そういえば彰くんだっけ? 雅美ちゃんの彼氏予定の」

「予定って、まあ間違ってないと思いたいけどー」


 少し乙女になってる雅美を堪能したあと、陽花里は彰がスーパーに来ていたことを告げた。


「けっこういっぱい買い物してたねー。この後、楽しみにしてていいんじゃない?」

「もうっ! 期待はしてるけどさー!」

「あはっ♪ それじゃ、またねー!」

「うん! ありがとーございましたー! またのお越しをー!」

 

 陽花里が去った後、雅美は今年は、――今日は、告白してくれるんだろうか? という期待が渦巻き、けれど、結婚するということは家庭を持つということで、ちゃんと社会でやっていけるようになるまで交際もなしで仕事に集中したいという彰の要望を飲んで待ち続けた雅美はあまり過度な期待はしないでおこうと浮足立つ気持ちを押し込んで仕事をし、閉店後の片づけまで終わったあとクリスマスケーキを2つ持って帰路についた。



 自宅に一度戻ってクリスマスケーキを母親に渡してから、雅美は身嗜みが崩れていないか確認してからこの間のお返しとしてのクリスマスケーキを持って佐田家を訪れた。

 

「ごめんくださーい!」

「いらっしゃい。ちょっと母さんたちは今日、懸賞で当たった皇帝ホテルに出かけてるけど――」

「ならまたいつもみたいに年末に伺おうかな? クリスマスケーキだけ戻ったら渡してもらっていい?」

「ありがとう。年末はそれでいいけど、今日は雅美がくるのはわかってたから夕飯の準備はできてるし、あがってって」


 彰に促され佐田家へとあがりこむと、この状況は男性と二人きりだなと雅美は今更ながらに思った。


「ねえ、彰。いくら一人だからって電気をこんなに最小限にしなくてもいいんじゃない?」

「――もうリビングに着くから今更だし、着いたらちゃんと点けるよ」


 薄暗い廊下を進み、リビングへと扉を開けて彰が雅美を中に入れると部屋の電気を点けた。


「メリークリスマス! 雅美ちゃん!」

「え、これ、彰が全部用意したの?!」

「そうだよ! もう凄く頑張ったよ。けど、少なくとも家事は料理とかも含めてできるようになったし、仕事も人付き合いも含めてなんとかなりそうだから――」

「それって――」

「雅美ちゃん、……違うな。雅美さん。ずっとずっと好きでした! 俺と付き合ってください」


 彰は年上の雅美と付き合う上で自信がなかった。だから準備とかこつけて雅美と対等に立派に社会人をこなせるまで引っ張ってきたのだ。


「――嬉しい! 返事はもちろん、喜んでオッケーだよ!」


 聖夜、二人は結ばれた。



 

 それから1年半が経過した。


 陽花里が大企業の御曹司と結婚したり、商店街の再開発が大企業の誘致から昔ながらの商店街の良さを売りにした『義理人情』を前面に推し、新たな商店街へ生まれ変える方向へ進んだ。それは都市開発課が再開発課に変わったことも起因し、渡辺誠也せいや課長が率先してお店を閉めた人たちに、再び再開か好条件で貸店舗にしてもらうように掛け合っていた。


「ケーキ入刀でございます! みなさんカメラを準備して一瞬たりとも取り逃さないように!」

「――ねえ彰。このケーキ、和樹さんと奈緒さんからなんだって」

「そうか。あの人たちには本当にお世話になるな。――和樹さん、奈緒さん! ありがとうございます!」

 

 二人は順調に交際を行いついに結婚式を挙げた。新婦は和樹、新郎は誠也に上司のスピーチを頼んだ。商店街と市が手を取り合い、この地元という大切な場所をよりよくしていこうなんて宣言をしたり、陽花里と一緒に出席していた御曹司の旦那が感動して融資を持ち掛けたり、いろいろなことが起こった結婚式だったが二人は事の始まりが全部クリスマスだったなと考えていた。



 その年のクリスマスにも開星堂のクリスマスケーキを食べた。思い出を語り合った。

 

「告白してくれたのってクリスマスだったよね」

「会社の人とちゃんと人付き合いしろっていって渡してきたのはクリスマスケーキの割引券だったろ」


 二人はテーブルに向かい合って座りながら笑い合う。


「そういえば指輪のサイズってどうしてわかったの? 私、一緒に買いに行ってないのにピッタリで驚いたよー」

「あー、それは⋯⋯おかあサンタの仕業だな。手相占いとか言って調べた情報をもらった」

「あ、あの時かー!」


 雅美は手のひらや手首、指先を念入りに触られていた時のことを思い出し、叫んだあとは自分の恥ずかしい姿を見られていたなと顔を真っ赤にした。


「雅美ちゃんは恥ずかしがる姿も含めて全部可愛いよ」

「彰は平気でそういうこと言えるようになったよね」


 幼馴染の友人として長い時間を過ごしてきた二人だから、そんな気安い会話も弾み穏やかな時間が流れた。


「本当にサンタとかいるのかもね」

「俺もいるような気がする」

「じゃあ、サンタさんに届くように――」


「「メリー・クリスマス!!!」」


 聖夜、それは奇跡が起こる夜。けれど、それは二人の起こした行動によるものが人を動かしたから起きた奇跡だと気付かない。

 

 幸せな二人は奇跡に感謝してシャンパンで乾杯し、毎年同じような会話をしながらも楽しく暮らしていく。

 いつまでも、何時何時迄いついつまでも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖夜の奇跡に乾杯を。 たっきゅん @takkyun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画