パーティ問題


 エリシアは手元の魔法書を閉じ、険しい顔で吟遊詩人を睨んだ。


「ねえ、ちょっと聞いてくださる?」




「毎回ボス戦のたびに楽器を燃やすの、いい加減にやめてくれませんこと?」




 吟遊詩人は肩をすくめて、にやりと微笑んだ。




「だって、見せ場だろ?派手にいこうぜ、エリシア」




 エリシアはうんざりしたように深いため息をつく。




「覚悟は結構ですけれど、燃えてるんですのよ、私の横で!」

「熱くて集中できないったらありゃしないのですわ!」




「あとね、あのロカビリーとかいう曲、戦闘の最中にやるの、ほんとにやめてくださらない?」


 吟遊詩人は首をかしげて微笑んだ。


「ロカビリーの何がいけないんだ?カッコいいし、ノリもいいじゃないか!」


 エリシアは目を細めて、じっと吟遊詩人を見つめる。


「ここはファンタジーの世界なんですのよ!」




 エリシアは吟遊詩人を一通り叱り終えると、今度は戦士に向き直り、鋭い目で指を指した。




「次は戦士!」

「開始早々、石とか砂とか投げないでくださいまし!」




「みみっちいんですわ!」




 戦士は苦笑しながら頭をかいた。


「いや、奇襲って大事だろ?隙を作るのが俺の役目ってやつだ」


 エリシアはため息をつき、さらに語気を強めた。


「いいえ、それ以前に!」




「あなたの目潰しの砂が、戦闘のたびに私のフードに入ってくるんですの!」




「おかげで呪文に集中できないどころか、視界まで最悪なことになってますわ!」




 戦士は不満げに僧侶を指差し、大きな声で抗議を始めた。




「そんなこと言うんだったら、こいつはどうなんだよ!」




「聖水を高圧ジェットで撒き散らしてるけどよ、水が全部こっちにかかってくんの!」


「しかもただの塩水じゃん!おかげで俺の鎧がサビサビだよ!見ろ、これを!」




 戦士は自分の鎧をガンガン叩き、錆びついた部分を見せつけるようにして抗議した。




 僧侶は眉をひそめながら、少し恐縮しつつも言い返す。


「それは…浄化の効果を高めるための工夫なんです…!」


「きちんと祝福された塩水ですから…多分、聖水としては問題ないかと…」




 エリシアは戦士と僧侶のやり取りに呆れた顔でため息をつき、さらに言葉を付け足した。




「あと、僧侶!」


「邪神の像で敵を殴るの、いい加減やめてくださいまし!」


「どっちが悪役か分からないですわ!」




 僧侶は、困ったように顔を赤らめて視線を逸らし、もじもじと口を開いた。


「だ、だって…普通の杖より重みがあって…振りやすいんです…」




 エリシアは腕を組んで冷たく全員を見渡し、厳しい声で総括した。




「皆さん、次やったら首にしますわよ!」




 しかし、パーティのメンバーは一斉に反論を始めた。


 戦士がまず口火を切った。




「だったらエリシアだってよ!攻撃のたびに『きえええぇええぇ〜!!』とか奇声発するのやめろよ!マジでキモイぞ!」



 吟遊詩人もすかさず声を上げる。

「そうだそうだ!あれは勘弁してくれ!」



 僧侶も小声で続ける。

「その、奇声のせいで集中が乱れてしまうことが…」



 戦士はさらに勢いづいて言った。




「それから魔術師のくせに打撃で戦うのもおかしくね?なんだよ、あのシャイニングウィザードって!?」




 エリシアは顔を真っ赤にしながら怒鳴り返した。


「シャイニングウィザードは魔力の応用ですわ!文句ありますの!?」




 戦士が腕を組み直し、鋭い目でエリシアを見据えた。

「そういうあんたも、次やったらリーダー首だぞ!」



 吟遊詩人も頷きながら口を挟む。

「そうそう、俺たちばっかり責めるのはズルいぜ!」



 僧侶も小さく頷き、遠慮がちに言った。

「リーダーとして、もう少しこう…落ち着いた立ち振る舞いをしていただけると…」



 エリシアは唖然とし、口を開けたまま皆を見渡した。

「私が…リーダー首…ですって!?」




 数日後——




 新たに編成されたパーティの前に、一人の女性が立っていた。彼女は落ち着いた表情で、少し緊張した様子を見せながら、メンバーに自己紹介を始める。




「えっと、初めまして、皆さん。私が新しいリーダーのセリスです」




「前任者の魔術師が…その…えー、奇声を発しながらコブラツイストをかける、という行動によりリーダーを首になりまして…」




 セリスは微妙な顔で少し間を置き、周りの反応をうかがった。




「それで、私がその代わりにリーダーを務めることになりましたので…どうぞ、よろしくお願いします」




 メンバーは一瞬沈黙し、どこか困惑したような空気が漂ったが、やがて一人がぽつりと呟いた。


「奇声と…コブラツイスト…?」


 別のメンバーが苦笑しながらぼそりと答えた。


「前のパーティ、どんな戦い方してたんだよ…」




 その後、新メンバーの歌手が一歩前に出て、やや照れくさそうに自己紹介を始めた。




「ども……えっと、僕が新しい歌担当です」




「なんか、僕の前の人がですね…毎回ピアノに火をつけて、ジェリー・リー・ルイスを歌ってたらしくて…それで首になったってことで」




 メンバーの誰かが驚いたようにぼそっと言った。

「…ピアノに火って…そりゃ派手すぎだろ」



 別のメンバーも苦笑いしながら続けた。

「ここファンタジーだしな、ロックンロールで攻めなくても…」



 歌手は小さく肩をすくめ、軽くため息をつきながら言った。

「なので、僕はもう少し…普通に歌いますんで、よろしく」




 新たに加わった武闘家が、軽く手を挙げて明るい声で自己紹介を始めた。




「ちわっす!えっと、俺が新しく加わった武闘家っす」




「前のメンバーが…なんか、全然前に出ないで、ずーっと後ろから砂投げてたらしくて、それで脱退させられたみたいっすね」




 彼は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。


「で、俺が代わりってことで」


一瞬の沈黙の後、誰かが小声で呟いた。


「砂って…そんなんで戦ってたのかよ…」




 最後に、新たに加わった賢者が一歩前に進み、落ち着いた口調で自己紹介を始めた。




「お初にお目にかかります。私が新しく加わった賢者です」




 彼は一瞬言葉を選ぶようにしてから、慎重に続けた。




「以前の方が…その…僧侶でありながら、なぜか邪神を崇拝していらしたようで…」




「さらに、えっと…『高圧洗浄機』とかいう器具で聖水を敵にぶっかけていたとか…で、その結果、クビになったとのことです」




 一同が呆然としている中、賢者は静かに微笑みながら一礼した。




「それで、私が代わりを務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」


 メンバーの一人がぼそりとつぶやいた。


「高圧洗浄機って…なんなんだ…?」




 全員が自己紹介を終え、なんとも言えない沈黙が流れる中、新リーダーのセリスがふと口を開いた。




「で、これって……なんの集まりでしたっけ?」




 全員が顔を見合わせ、微妙な表情で肩をすくめ合う。

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エリシア! @elicia

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