物の言い方よ
強欲な貴族は、人気のない庭園の噴水に顔を近づけ、周囲をキョロキョロと見回した。
「ここが噂のいわくつきの噴水か……。」
その噴水の水を飲むと、ものすごく低い確率で神様が現れ、願いを叶えてくれるという伝説がある。しかし、多くの人はその噂を馬鹿げていると笑い飛ばしていた。
貴族は一度ため息をつき、次の瞬間、水をすくい取って一気にゴクゴク飲み始めた。
——ゴクゴク。
「……へへ、まさかな。誰かに見られたら恥もいいとこだ!」
彼は自嘲気味に笑いながら顔を上げる。
その時だった。
——チリーン。
透明な鈴の音のような不思議な音が響き渡った。
「え?」
——ウイイイイン、ガシャン!
突然、噴水の中央から機械音が響き、リフトが上昇してきた。そして、そこに立っていたのはエリシアだった。
「こ、これが……神ッ!?」
貴族は目を見開き、完全に唖然としている。
エリシアは腕を広げ、堂々と宣言した。
「さあ!何を願いますの!?この私が叶えて差し上げますわ!」
貴族はその言葉に興奮し、慌てて叫んだ。
「山のような金を出してくれぇ!」
エリシアは満足げに微笑むと、杖を振り上げ、強大な魔術を発動させた。空中に渦巻く光が集まり、やがて巨大な金貨の山が出現する。
——ゴゴゴゴゴ……!
その金の山はゆっくりと貴族の真上に浮かび上がり——
——ペチャッ!
一瞬で貴族を押し潰した。
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娘が死んだ。まだ幼い娘だった。男は深い悲しみに沈み、嘆き続けた。
神も仏も信じるクチではなかったが、娘を生き返らせるために僧侶になってみたり、禁じられた魔術の研究に没頭したりした。しかし、どれも効果はなく、娘を取り戻すことなどできなかった。
男は諦めかけていた。だが、噂に聞いた「願いが叶う」といういわくつきの噴水を思い出し、ダメもとで向かうことにした。
「本当にこんなことで叶うわけが……。」
そう呟きながら、噴水の水を手ですくい、ゴクリと飲み干した。
その瞬間——。
——チリーン。
「へ?」
不思議な鈴の音が響き、噴水の中央が突然開いた。
——ガシャン!ウイイイイィン!
機械音とともに、リフトがゆっくりと上昇し、その上には眩い光の中から現れたエリシアの姿があった。
「さあ願いを!」
その高らかな声に、男は思わず手を合わせて叫んだ。
「娘を生き返らせてくれぇ〜!」
エリシアは頷き、優雅に微笑むと、一言。
「お任せあれですわ!」
次の瞬間、彼の周囲に光が溢れた。
男が帰宅すると、そこにはいつもの家。そして玄関には娘の姿があった。
「あ、パパ。今日遅かったじゃん。」
「おおおおぉ……!」
男は涙を流しながら娘に近づき、再会を喜んだ。
「おおおおおおぉ!」
娘はにこやかに微笑みながら、キッチンで夕飯の支度を始めた。男はその後ろ姿を見つめ、ただ感動に打ち震えていた。
だが、その時だった。
娘がキッチンで包丁を握りながら背を向ける中、頭の蓋のような部分が突然パカリと開いた。
——グシャッ!
頭の中から不気味な謎の腕が伸び、手に持っていたケーキをグシャリと掴むと、そのまま中へ引き込んだ。
男はそんなことも知らず、ソファに座って思い出の写真を見返していた。
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格闘家の男がいた。
長年鍛えた体と技術を持ち、次の試合では優勝を目指していた彼には、一人の恋人がいた。しかし、その恋人が浮気をしているという噂を耳にし、胸騒ぎを覚えた彼は意を決して確かめに行った。
——そして、現場を押さえた。
「……おい、これはどういうことだ?」
男が静かに詰め寄ると、そこには信じられない光景が広がっていた。恋人の隣にいたのは、次の試合で優勝を争うはずの宿敵、ライバルだったのだ。
ライバルは不敵な笑みを浮かべていた。
「やぁ。こんなところで会うなんてな。」
恋人は二人を見比べながら、堂々と告げる。
「私、勝った方について行くわ。」
その瞬間、場の空気が一変した。
格闘家の男は拳を握りしめ、静かに言葉を吐き出した。
「……いいぜ。やってやるとも!」
ライバルもその言葉に応じ、立ち上がった。
格闘家は意を決して、噂の噴水へ向かった。夜の闇に包まれた庭園で、彼は周囲を確認しながら噴水の水をすくい、ゴクゴクと飲み干す。
「……ま、ただの願掛けだ。」
だがその瞬間——。
——チリーン。
「……あん?」
不思議な鈴の音が響いたかと思うと、噴水の中央が突然開き始めた。
——ゴゴゴゴ……ウイイイイィン!
リフトがゆっくりと上昇し、その上に姿を現したのは、眩い光に包まれたエリシアだった。
「で、願いはなんですの!?早く言いなさいませ!」
格闘家は一瞬呆然としたが、すぐに拳を握りしめ、渾身の叫びを上げた。
「俺を……俺を強くしてくれえええ!」
エリシアは満足げに頷き、杖を掲げて魔術を発動させた。
「お任せあれですわ!これであなたは無敵ですわよ!」
その後、観客席が埋め尽くされた格闘技大会のリングで、司会が勢いよく叫んだ。
「両選手、出場ッ!」
プシュウウとドライアイスの煙が通路の入り口に噴き出す中、まずはライバルが両腕を挙げながら勢いよく歩いてきた。観客席からは歓声が上がる。
そして——
「んんんん゛〜!フゴオオオ!ぐおおお!」
謎の咆哮が会場に響き渡った。
リングのもう一方から現れたのは、もはや格闘家だった者の姿。
頭髪はすべて抜け落ち、口には何故か猿轡が装着されている。全身ツギハギだらけの異常な皮膚。そして、まるで風船のように膨張した筋肉。
その異様な姿に、観客席は凍りつき、ライバルは青ざめた表情で立ち尽くす。
「えっ……なんだよ、これ……!」
「フゴオオオ!フゴォォ!」
もはや言葉を発することもできない異形の存在と化した格闘家が、リングに立つ。
試合開始のゴングが鳴り響く。
——と思われたその瞬間。
——パン!
開始と同時に異形の格闘家が腕を振るった。たったそれだけだった。
リングの上には、かつてライバルだった男の面影はなく、ただ赤いシミだけが残されていた。観客席が静まり返り、誰一人として言葉を発することができない。
異形の格闘家は、何事もなかったかのようにその場を後にした。
試合の後、彼は彼女のもとを訪れた。しかし、彼女は動揺しながら周囲を見回している。
「ねぇ……彼はどこ?あの人は……?」
彼女は元の姿だった男を探してオロオロし続けるばかりで、目の前にいる彼がその男であることに気づいていない。
異形となった彼は、何も言えず、ただその場に立ち尽くした。
——終わり。
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