第14話 最近、好きな子が積極的過ぎて困るんだが

       〜2ヶ月後〜


直人「いってきまーす」


母「はーい気をつけていってくるのよ」


団地の前の公園には、いつものように薫が立っていた。


薫「あっ、おにぃ!」


薫は僕に大きく手を振った。僕は右手を少しだけ挙げて答える


薫「おにぃおはよう!今日は呼んでから来るの早かったね!」


直人「まっ、まぁな」


僕らは軽く言葉を交わして歩きだした。


薫「ねぇねぇ!ところで、今日めちゃめちゃドキドキしているでしょ?なんたって、例の彼女さんが登校する日だもんね」


直人「ちょっ、薫!早速茶化すなよ!まぁ…嘘ではないが…」


薫「でしょでしょ?まぁでも、おにぃがあの学校一の美女と付き合うなんて夢にも思わなかった。学校であやか様に会ったら、この男のどこに惚れたのか問いただしてやりたいよ。まぁ、顔ではないことは確かか」


直人「おいコラ」


薫「あはは!でも私は心配だよ。相沢直人の本性を知ったら、彼女尻尾巻いて逃げ出すんじゃないかって。そうなったら…しょうがないから、私が付き合ってあげる!」


直人「まぁ、それは大丈夫かな」


薫「なんでよ!もう!おにぃ、そういうデリカシーのない所、治した方がいいよ」


直人「はは、善処するよ」


いつもの通学路をこうして薫と歩いている。


パッとしないと思えた風景も、今はキラキラして見えた。


なんだ、案外この世界って悪くないじゃん。


そんなことを思いながら学校に到着した。


校門をくぐり、正面玄関の扉を開け、下駄箱で上履きに履き替える。


一度顔を拝ませろ!とせがむ薫を振りほどき、僕は一人、教室へと足を進めた。


直人(ふぅ…緊張するな…しかし、どんな顔であやかさんに会おう…)


僕は胸が高鳴るのを感じながら、教室のドアを開けた。


ガラガラガラガラ


真っ先に僕はあやかさんの姿を探した。


直人(あれ?いない…まだ来ていないのかな?)


と思い、少しがっかりして席に着くと、ニコニコと1人の女の子が駆け寄ってきた。


あやか「あっ、直人君おはよう。待ちくたびれたわ」


直人「えっ…ってもしかしてあやかさん!びっくりした!声かけられるまで気が付かなかったよ」


あれだけ長く艶のある黒髪を貫いていたあやかさんが、少し巻いたショートボブになっていてかなり驚いた。


あやか「うふふ、そうでしょ。どう、似合ってる?」


直人「う…うん、めちゃくちゃ可愛いよ…!」


あやか「ありがとう。でも、みんなの前でそんなストレートに伝えられると少し恥ずかしいわ…」


あっしまった!つい我を忘れて思ったことを口にしてしまった。


近くで見ていた友人達は、僕らのことを盛大に冷やかす。


来栖「ヒューヒュー、お二人とも見せつけてくれるねぇ~」


渡邊「直人が安藤さんと付き合ったって言った時、妄想の話かなと思ったけど、本当だったんだ!とにかく、おめでとう…!!末永く爆発しろ!」


直人「バカッ!お前らやめろよな!」


窓際でこの騒ぎを見ていたあやかさんの友人3人も集まってくる。


佐倉「朝からラブラブしてんね~まっ、男のほうはちょっと頼りないけど…おめでとうとだけ言っておくわ」


伊藤「ちょっと!やめなよ、あやねちゃん!いいなぁ、私もこんな恋愛してみたい…2人ともお幸せにね」


早見「相沢とあやか!いろいろ大変なことあったと思うけど、結ばれてよかったね!心から祝福するよ」


あやか「みんな…ありがとう…」


全員「パチパチパチパチ…」


友人たちだけでなく、クラスにいた全員から拍手喝采を受けた。


僕は恥ずかしくて何も言えなかったけど、少し涙を目に浮かべ、えも言われぬ幸福感に包まれたんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


放課後、僕とあやかさんは二人でいつもの帰り道を帰っていた


あやか「ねっ直人くん!朝、すっごい恥ずかしかったね!」


直人「そうだね、あんな事初めてだったからさすがに照れるよ」


あやか「だよねだよね!でも、直人君がいけないんだよ?あんな…わた、私のこと可愛いだなんて…」


直人「ごめんごめん!つい我を忘れてみんなの前で本音いっちゃったよ」


あやか「もう!直人君たら!」


照れている彼女も可愛いな。ふと僕はそんなことを思った。


直人「あはは!それよりあやかさん、学校にいるときと全く雰囲気違うね」


あやか「あっやっぱ気になる?ごめんね?」


直人「いやいいんだよ、ただ、なんでかなーって」


あやか「それはえっと…あなたの前では素の自分でいたくって…」


直人「あっそうなんだ!それだけあやかさんが心を開いてくれたってことだよね。嬉しいよ!」


あやか「えへへ…当然じゃない!だって私、直人君の彼女だもの」


直人「う…うん」


僕は途端に恥ずかしくなり、目を背けてしまった。


あやか「あっ!今恥ずかしいと思ったでしょ!君そういう癖あるよねー。直人君が学校に復帰した時、私が目を合わそうとしたのにすぐに逸らしちゃって…ちょっと傷ついたんだから!」


直人「ごめん!そう思ってたんだね!じゃあ、これからは恥ずかしくてもじっとあやかさんのこと見つめるよ。それでいい?」


僕はジーっとあやかさんのことを見た。


あやか「…ごめんごめん!そんなことしなくていいから!やっぱり恥ずかしいよぉ」


直人「あっそう?」


しばらく黙って通学路を歩く。


しかしこの沈黙の時間も愛おしく感じる。


直人「ねぇ、そういえば、一緒に入院しているとき、なんで【かのん】っていう名前を使ったの?」


あやか「あぁ~それはね、あの時、手に持っていたマンガの作者の名前から取ったの!咄嗟に考えたけどいい名前でしょ?」


直人「あぁなるほど!たしかに可愛い名前だね!でも、実はその作者の名前、観音と書いてみねって読むよ。」


あやか「えぇー!!そうなの!?あはは、初めて知ったよー!」


そんなたわいのない話をしていると、分かれ道に差し掛かった。


直人「じゃあ、僕、こっちだから」


あやか「あっうん!…なんかちょっと名残惜しいね」


直人「う、うん。そうだね…」


あやか「……あっ!そうだ直人君に渡したいものがあるんだった!」


直人「えっ?なになに?」


あやか「はい、これ」


直人「えっ…これもしかして手紙?」


あやか「うん!感謝の気持ちを口頭じゃ伝えきれないな~と思って、文章にしてみたんだ!ぜひ受け取ってほしいな」


直人「もちろん!家に帰ったら読ませてもらうね!」


あやか「ありがとう!」


直人「じゃあまた明日学校で!」


あやか「うん!また明日!」


僕とあやかさんは別々の方向に歩いて行った。


直人(ふぅ…なんか今日はめちゃくちゃ緊張したー。でもあやかさんに会えて嬉しかったな)


そんなことを思いながら軽い足取りで家まで帰った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


寝る準備をして一息ついた頃、僕はあやかさんからの手紙を読んでみることにした。


直人(さて、どんなことが書かれているのか楽しみだな)


封筒を開封し、3つ折りにしている便箋を開いた。


『直人君へ 直人君こんにちは!元気?今回は君に伝えたいことがあって、こうして手紙を書きます。


まず最初に、私は直人くんのおかげで何度も救われたんだ。学校で再発した時、真っ先に駆け寄ってくれて嬉しかったし、お見舞いに来てくれた時も嬉しかった。でも何より嬉しかったのは、あの時、君と偶然病棟で出会ったことかな。それまで同じ教室だったのに接点がなかったから、どう仲良くなろうかすごい考えたよ。でも勇気出して話しかけてよかった。


それまで君は、明るくて社交的な人なのかと思ってた。でも実は内向的で、ほかの人にはない感性を持っていることを知ったとたん一気に好きになっちゃったんだ!これがギャップ萌えってやつかな?


amazarashi、私に紹介してくれてありがとう。辛い時でもこのバンドの曲聴いて励まされてるよ。たまにボーカルの秋田ひろむさんじゃなく、直人くん自身が私に向かって歌ってる気がするんだ。なんでだろうね!とにかく、また君の歌声、聴かせてほしいな!


あと、カラオケだけじゃなくていっぱい君と行きたいところがあるの!最近、駅前に大きなショッピングモールできたでしょ?あそこも行きたいし、映画も見に行きたいな!夏になったら海とか花火大会にも行ってみたい!だからそれまでお互い元気でいなきゃね。


病気になって私の人生これで終わりなんだと失望していたけど、直人くんがそばにいてくれたから、きっと大丈夫だって思えたんだ。本当にありがとう!


最後に、私が今、君に伝えたいメッセージを書いて終わりにするね。最初に病棟で声をかけたとき、直人くんが聴かせてくれた『僕が死のうと思ったのは』って曲、あなたの前で泣いちゃうくらい心に響いたよ。


思えばあの時から私の人生は大きく変化したんだと思う。病気がひどい時は辛くて苦しくて何度も死のうと思った。でも、あなたと出会ってから絶対に生き延びるんだって強く思うようになったの。『あなたのような人が生まれた 世界を少し好きになったよ』


『あなたのような人が生きてる 世界に少し期待するよ』


この曲の歌詞の中で一番好きなフレーズなんだ。


いつか君と一緒にamarazashiのライブ行けたら嬉しいよ。そしたら私、感極まって泣いちゃうかもね!


・・・手紙書いていたらまた君に会いたくなっちゃった。


もっと書きたいことがあるけど、次会った時にとっておくね!


ここまで読んでくれてありがとう!


じゃあまた学校で会おうね!バイバイ!』


短い手紙の中に、あやかさんから無数の愛を受けとった感じがした。


初めて女の子から手紙をもらい、実のところ気恥ずかしさがあった。


しかし読んでみて、それに勝るほどの喜びを感じ、全身が温かい気持ちにつつまれた。


こんな感情がずっと続けばいいのに。


そんな考えは、もしかしたら愚かなのかもしれない。


でも本気でそう願うほど、僕は幸せな気持ちになっていたんだ。


思えばこれまでいろいろなことがあった。


きっと、これからも楽しいことばかりじゃないと思う。


でも今この瞬間だけは、これまでの辛い日々を生き抜いたご褒美を無条件に受け取ってもいいんじゃないかな、とも思った。


直人(あぁ…明日もいい日になればいいなぁ)


そんなことを考えながら、僕は部屋の電気を消した。


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最近、好きな子が積極的過ぎて困るんだが 無我無常 @gamuniki

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