第七話「転生者、現る」

 う〜んよく眠れない……暑い。

 

「……うぅ…………ん?」

 

 なんだこの柔らかい感触は……俺はその感触を確かめる為に手を動かす。

 

「あ、あの……」

「……あ」

 

 俺は無意識にフィーレの服の中に手を突っ込んでいた。まじか。こんな漫画みたいな事ほんとにあるのかよ!

 

「いや、悪い! 違う! わざとじゃないから!!」


 やばい。テンプレのようなセリフを吐いてしまった。このセリフの次に来るのは決まって絶対――


「いえ、大丈夫です。一つのベッドで寝ているんですから、こんなこともありますよ」

「お、おう……」

 

 あれ……? 思ってたリアクションと違った。俺はてっきりビンタでもされるかと思っていたのに。


 フィーレのやつえらく冷静だな。俺はこんなにもドキドキしているのに。……にしてもまだ手に感触が残っている。初めて触った。柔らかかったなぁ。

 

「……よ、よし! 今日は強い奴を狩りに行くぞ!」

「あ、はい!」

 

 俺はこの場の空気を変える為、話題を変えギルドへと向かう。

 

 ***

 

「今日はマンドラゴラゴンより強い相手が欲しいんですが、なにか居ませんか?」

「柊さんはいつも抽象的ですね。うーんそうですねぇ……マンドラゴラゴンは上級寄りの中級モンスターなので、それより上となると……上級モンスターになりますよ?」

 

 上級モンスターか……今の俺に倒せるのだろうか? 俺はAGI敏捷には一切ステータスポイントを振っていない。もし俺より強い場合『逃げる』という選択肢は俺には出来ないだろう。……いや、言い方を変えよう。逃げたくても、逃げられない・・・・・・・・・・・・・。だから本来なら慎重に選ぶべきだ。だが、レベルが一切上がらない現状を打破するにはやはり、上級モンスターに挑むべきだろう。危険を承知で。

 

「構いません。上級モンスターのクエスト、紹介して下さい」

「かしこまりました。でしたら、ゴーレムなんていかがでしょうか」

 

 ゴーレムか……ゲームなんかだと、岩で作られた巨大な人形のイメージだが……ゴーレムが上級? とりあえず聞いてみるか。

 

「そのゴーレムとかいうやつの特徴を教えてください」

「ゴーレムは、ゴーレムの洞穴ほらあなという場所に生息しています。なんならこの近くにありますよ? ゴーレムは凶暴性が高く、知恵も高いモンスターです」

 

 ゴーレムって知恵あるモンスターだったか……? そんな俺の疑問を受付のお姉さんが答えてくれた。

 

「ゴーレムがゴーレムを作り出すんです。そうやって増殖しています。恐らく知性の高い一体のゴーレムがゴーレムを作り出しているのでしょう」

「え? ってことは結構な数居るってことですか?」

「はい……それに凶暴性が高い為、その付近には誰も近付きません。それ故、ここの冒険者はまだ誰もゴーレムを倒した人はいません」

 

 その後もお姉さんは丁寧に解説してくれた。お姉さん曰く、元々ゴーレムの洞穴の近くには村があったそうだ。しかし、その洞穴に一体のゴーレムが迷い込んだ。そこからどういう訳か増殖し、今は『ゴーレムの洞穴』となっているらしい。

 

「分かりました。俺が行きます」

「はい、では承認しますね。今の柊さんの実績なら大丈夫だとは思いますが、十分に気を付けてください」

「ええ、ご心配ありがとうございます」

 

 ***

 

「あの……柊さん、ほんとに大丈夫ですか?」

「ああ、多分」

「多分って……」

 

 最悪勝てなければ、俺がおとりになって、フィーレだけでも逃がせばいい。俺も相手の強さがまだ分からない。どうやら俺が知るゴーレムとは随分違うみたいだしな。どうなるかは行ってみないと分からない。万が一相手が俺より強ければ、逃げられない俺がただ死ぬだけだ。

 

 ……

 ………

 ……………

 

 着いた。ゴーレムの洞穴ほらあな……確かに大きいな。このサイズの洞穴に入るってことはゴーレムもきっとかなり大きいんだろう。洞穴の大きさはざっと見たところ、五十メートルはありそうだ。

 

「……よし、進むぞ」

「は、はい!」

 

 俺は唾を飲み込んだ。初の上級クエスト。生きるか死ぬかの二択。


(……なんだ、それならいつもと変わらないじゃねぇか)


 俺とフィーレは洞穴に足を踏み入れた。その瞬間何かが起動したような音が聞こえた。

 

「ん? なんの音だ?」

 

 俺は足元を見る。すると何かを踏んだみたいだった。なるほど、罠が作動したのか。そしてまた新たに違う音が聞こえてくる。次は何かが動くような音だ。その不気味な音は段々近付いてくる。

 

 俺とフィーレは岩陰に身を隠し、音の鳴る方を岩陰から注視する。

 

「………あれは」

「土人形……? ですね」

 

 土で出来た巨大な人形が沢山居た。しかし、それだけなら俺の想定していたゴーレムとほとんど同じだ。俺が気になったのは――

 

「あれは機械か……?」

「キカイ? ですか?」

 

 うーん、どう説明すればいいんだろう。某機械で戦う戦闘アニメと言えば良いのだろうか。いや、アニメなんて言っても分からないな。とにかく、自然に出来たものじゃないのは確かだ。これは誰かの人工物だ。

 

「アイツが恐らくリーダーだ。奴を倒す。フィーレは下がってろ」

「え、柊さんあのデカいのと戦う気ですか!? 辞めましょう! 流石に勝てませんよ!」


 フィーレの言う通り逃げたほうが良いのかもしれない。多数のゴーレム達の後ろに明らかに他のゴーレムとは違うものがいた。

 俺は岩陰から身を出し、ゴーレム達の前に姿を現す。

 

「おい、後ろのデカいゴーレム。俺が相手をしてやる」

 

 ゴーレムは立ち止まった。

 

「コロセ」

 

 なに? 今喋ったのか!? ……やっぱりなにかあるなこのゴーレム。この土人形共を倒してからじっくりと観察するとしよう。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「はぁ……数が多いなぁ」

 

 個々は大したことないが、数が多すぎて段々手が疲れてきた。

 

「コロセ! コロセー!!」

 

 くそっ! まだまだ居る……! 分かったよ! 全て片付けてやる。確実にゴーレムの数は減っている。このまま行けば大丈夫だっ!

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……ふぅ。もう終わりか?」

「ナ、ナンダオマエ!」

 

 リーダー格のような者がついに姿を現した。

 

「やっぱり喋れるんだな。お前こそ何だ。ゴーレムじゃないのか?」

「ワタシガゴーレムダト? ワタシヲナメルナヨ」

 

 機械のような見た目をしたゴーレムが俺に巨大な手をかざしてきた。

 

「クラエ!」

「……まずい! フィーレ!! 今すぐここを離れろ!」

 

 俺は岩陰に隠れていたフィーレの手を取り、全速力で洞穴の出口を目指し走る。

 

「ニゲテモムダダ」

 

 ゴーレムの手に光が集まっていく。

 

「くそ……! 俺の足じゃ間に合わないかっ!!」

 

 俺には盾が無い。AGIも上げてないからこのまま逃げきることもできない。……くそ! こんなことならAGIにもステータスポイントを振っておくんだった。今更言ってもしょうがないが。

 

「フィーレ、俺の後ろにいろ」

「え……? は、はい!」

 

 俺は覚悟を決め、杖を両手で持ち、構える。

 

「ムダダ」

「無駄かどうかはやってみなきゃ分かんねーだろ」

 

 ――その姿はまるで野球のバッターのよう。

 

「クラエッ! ロボロボビームッ!」

「だっせぇ名前だ……なっ!!」

 

 俺は杖を思いっきり振りかぶった。それはゴーレムから出たビームを打ち返し、ゴーレムの後ろをすり抜けていき岩壁にぶつかり爆発した。

 

「ナニ!?」

「よし、ホームラン」

 

 自分の攻撃をいとも簡単に打ち返す俺の姿を見て、機械ロボは驚いて腰を抜かしていた。

 

「オマエマホウツカワナイノカ!?」


 それはなんだ? 魔法使いの格好しているのにお前魔法使わないのかと言いたいのか?


「使え……使わない。お前みたいな雑魚相手には使う必要がない」

 

 俺が魔法を使わない姿を見て、後ろで少し残念がっているフィーレ。

 

「さぁ、お前が何者か教えてもらおうか」

「ワタシハテンセイシャダ」

「……なに? 転生者だ?」

「ソウダ。マサカオマエモカ?」

 

 そう言うと機械ロボは目から光を失う。すると機体の真ん中が開き――

 

「お前こそ何者なんだ! 私の研究の邪魔をしよってぇぇぇ!」

「……人間かよ」

 

 機体の中から小さな女の子が出て来た。グルグルの丸メガネを掛け、白衣を着ていた。研究者ごっこか……?

 

「転生者と言ったが、お前どこから来た?」

「日本だよ……まさかお前もなの?」

 

 俺は少女の問いに無言で頷く。

 

「そうだったか! それはすまない! 私はマッドサイエンティストの狂沢くるいざわ 珠希たまきだ! お前はなんて言うんだ?」

「……ひいらぎ 奏多かなただ」

「私はフィーレ……です」

「…………誰だお前は」

「酷いですぅ!」

 

 俺はこの世界に来て初めて同郷の者と接触したのだった。ゴーレムを何十体も倒したが、経験値は得られなかった。恐らく、この少女の召喚物だからだろう。

 

「……はぁ……苦労したのに経験値ゼロか……無駄足だった」

「……経験値なんて得られるわけが無いだろう? このゴーレムは私の創造物なのだから!」

 

 ん……? 経験値のことを知っているのか。てことはこいつも俺と同じくステータスを持っている……?

 

「なぁ狂沢」

「珠希でいいよ?」

「どっちでもいいんだが、お前今レベルいくつだ?」

「私は二十一だ!」

 

 俺より下か。しかし、俺の思った通りだ。恐らく転生者はもれなく皆、この世界の住人には無い独自のステータスを持っている。となると、俺よりレベルの高い転生者が居てもおかしくは無い。……もっとレベルを上げないとな。

 

 この前みたいに対人戦となった時、レベルがものを言うだろう。魔法使いが相手なら、アビリティ【魔法使いの掟破り】がある俺に分があるだろう。なんせダメージを受けないからな。ただ、戦士となると話は別だ。正直、俺よりレベルが上だった場合、勝てる気がしない。俺は魔法が使えない魔法使いだ。転生した時点で既に重いハンデを貰っている。できる限り転生者同士の戦いは避けたい所だ。そのためにも情報が必要だ。

 

「――さて、タマキ。転生者同士、この世界についての情報を交換しようじゃないか」

 

 俺とタマキ、転生者同士の情報交換が始まった――。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.40

 

 HP【4900/4900】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【500】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 アビリティ:【魔法使いの掟破り】

 スキル:【ミスディレクション】

 装備:【戦士のピアス】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 【不器用な魔法使いLv2】

 ・与える物理ダメージ3倍

 【魔法使いのとっておきLv2】

 ・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ

 【魔法使いの最終手段】

 ・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇

 【魔法使いの掟破り】

 ・魔法使いに与える物理ダメージが500%上昇し、魔法使いから受ける魔法ダメージを0にする。

 

 スキル【ミスディレクション】

 ・【MP消費0 相手の視界から一時的に消えることが出来る。

 ※ただし、相手との力量で効果変動

 

 【戦士のピアス】

 ・物理ダメージ5%上昇

 

 

 ◇◇◇

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2024年12月12日 21:58
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魔力ゼロの魔法使い、杖で殴って無双する。 水無月いい人@毎日22時に投稿 @Minazuki_iihito

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