第六話「カイトウ」

 当然昼に寝たんだ……起きるに決まっている。俺は前世で言うところの、深夜二時に目が覚めた。なぜ分かるのか。それは前世でよく夜更かししまくっていたから。特に夏休みの期間なんてよく、深夜超えて朝までモンスターをハンティングしていたものだ。

 そのお陰で、だいたい今が何時何分かまで分かるようになっていた。体内時計と言うやつだな。


 前世の俺固有の能力だ。ちなみに前世でこの能力が活きたことは一度もない。時計があるのならそっちを見た方が確実だからな。だがこの世界は時計というものが無い。前世でハンターのランクをカンストになるまでハンティングした甲斐かいがあったな。

 

「フィーレは……寝てるな」

 

 俺は隣で寝ているフィーレを起こさないよう、こっそりと部屋を出る。

 

「深夜の街もいいもんだな」

 

 いつも夜まで賑わっている『アレン王国』だが、流石に深夜となるとみんな寝ているのだろう。ほとんど人が居ない。

 

「まるでこの世界に俺しか居ないみたいだぜっ! ひゃっほ〜う!」

 

 と、年甲斐もなく深夜にはしゃいでいたら普通に人が居た。

 

「……さ、さぁ散歩でもしよーっと。ルンルンル〜ン」

 

 優しそうなおじさんにめちゃくちゃ変な目で見られた……。


 恥ずかしくなって思わず、ルンルンスキップをしながら俺はそそくさとその場を去るのだった。

 

 

 ***

 

 

 やることも無いので街を出た。深夜ともなるとモンスターも入れ替わる。昼はゴブリンやスライム等の雑魚達が活発だが、今回はそれらとは違うモンスターが現れる。

 

「お! お前久しぶりだな!」

 

 深夜の街の外に出た俺の前に居たのはマンティコアさんだ。ライオンのような見た目で巨大な爪を持っている魔獣。俺がゴブリン狩りを日常としていた時に、一度だけ遭遇したことがあった。あの時はビビって杖を振り回していたら、たまたま勝てた……そんな奇跡が起きたものだ。

 

「さぁ、今回は違うぜ! かかってこいライオン野郎!」

 

 俺は深夜テンションになっていた。

 

「…………つまらん」

 

 俺は最近気付いた事がある。それは、だいたいいつもワンパンで終わるということだ。それはいい事だとは思うんだが、こうもワンパンばかりだとせっかくの異世界なのに全然楽しくない。杖のことを考えるとワンパンで終わるのは杖へのダメージが少なく済むからいいんだが……。

 

「……もっと強いやつ居ないかなぁ。レベルも上げたいし」

 

 レベルが四十になったことで、必要経験値が更に増えた。以前の俺ならマンティコア一体で二は上がっていた。しかし、今は一すら上がらない。

 

「あとはなんだー? マンドラゴラに寄生されてない純粋なドラゴンとかか?」

 

 マンドラゴラゴンは森にいる。夜の森は流石に危ない。シンプルに迷いそうだからだ。

 

「仕方ない……この辺にいるモンスターで我慢するか」

 

 ……

 ……

 …………

 

 結局何体かマンティコアを倒したが、一すら上がらなかった。

 

 

 ***

 

 

 冒険者ギルドに飯を食いに来た。冒険者ギルドはクエストの受注だけでなく、飲食もできる。俺が冒険者ギルドに入ると、周りから声が聞こえてくる。

 

「うわ……アイツだ。棍棒こんぼう野郎だ……」

「おいバカやめろ! 聞こえたらどうする! 杖で殴られるぞ!」

「……こんな時間まで起きてるなんてやっぱりヤバイやつだ」

 

 と様々な声が飛び交っていた。一応全部聞こえてるんだけどね。せめて聞こえないように喋ってほしいな。

 あと最後のやつ、お前それブーメランだからな?

 

 俺は気にせず、受付へと向かった。


「お姉さん、マンティコアの換金お願いします。あと、マンドラゴラゴンのソテーと……水お願いします」

 

 俺は財布の中身を確認しながら言う。

 

「かしこまりました。では、お席でお待ち下さい。換金後、お食事と一緒にお持ちしますね」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 暫く席で待っていると、お姉さんが俺の席にやって来た。


「では、まずは換金についてですが、マンティコアの牙と爪、皮。合わせて三万ルピになります。そしてこちらがマンドラゴラゴンのソテーと……お水です。どうぞごゆっくり」

「ありがとうございます」

 

 三万か……数体倒してこれだけか。なんだか少ない気もするが……それにレベルも上がらなかったし。仕方ない、食べて忘れよう。

 

「ん〜相変わらず美味い!」

 

 マンドラゴラゴンのソテー。一食千五百ルピもするが、これがとにかく美味い。あの寄生植物にマンドラゴラに寄生されていたとはいえ、元はドラゴンだ。食感はワニの肉に似ている。……ワニ、食ったことないけど。

 

「ん〜! 皮がゼラチンみたいにプルプルしていて、肉はジューシーで少し弾力があるが、これがまた噛みごたえがあって美味い!」

 

 前世でもし出されていたら値段次第では注文したいくらいに美味い。俺は深夜の夜食を堪能たんのうした。深夜に何かを食べるというのはやはり罪悪感があってそれが美味さを倍増させる。カップ麺……美味かったなぁ。

 

「……ラーメン食べたいな」

 

 俺はふと思った。この世界にラーメンって存在するのだろうか? もし無ければ作れないだろうか? 俺は詳しいわけじゃないし、作れても美味さは保証できない。ただ、シェフに適当にレシピ教えればそれなりのものを作ってくれるかもしれないな。

 

「今度受付のお姉さんに適当にレシピ書いて渡してみよう」

 

 素材は代用出来るものがあればそれでしてもらって。多分、前世の調味料はここには無いだろうし。俺は基本その辺は人任せだ。自分でやるよりその道のプロに作ってもらう方が確実だしな。適材適所というやつだ。

 

「……あれ? そういや、このマンドラゴラゴンのソテーって誰が作ってんだろ」

 

 冒険者ギルドを改めて見渡しても、厨房のようなものが無い。あるのはお姉さん達がいる受付とテーブルと椅子。この三つだけ。

 

「……まさかこれ冷凍食品か?」

 

 まさかレンジでチンしたものを出してるんじゃないだろうな……?

 この世界に電子レンジとか存在するのか知らないが、冷凍技術くらいはこの世界にあってもおかしくない。魔法があるし。

 

「異世界に来てまで冷凍食品ってことは無いよな……?」


 俺は水を喉に流し込み、食べ終わった皿を持って受付のお姉さんのとこへ向かう。


「あの……これって冷凍食品じゃないですよね」

「ありがとうございました。また来てくださいね」

「いや、そうじゃなくて、これ冷凍食品――」

「また来てくださいね」

「いやだから話聞いてます? これ――」

「ま・た・来・て・く・だ・さ・い・ね?」

「あ、はい……なんかすみません」

 

 受付のお姉さんはこれ以上言うなという顔をしている。笑顔だが目の奥が笑っていない。なるほど。これは暗黙のルールというやつか。この世界にも存在するのか暗黙のルールってやつが……。


 レンチンとはいえ、美味かったのには変わりない。

 

「ありがとうございました。美味しかったです」

 

 俺は冒険者ギルドを出て宿へと向かう。

 

「食べたら眠くなってきた…… ほぉわぁ……ん〜……寝るかぁ」

 

 冒険者ギルドの闇を垣間見た気がした……そんな深夜だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.40

 

 HP【4900/4900】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【500】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 アビリティ:【魔法使いの掟破り】

 スキル:【ミスディレクション】

 装備:【戦士のピアス】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 【不器用な魔法使いLv2】

 ・与える物理ダメージ3倍

 【魔法使いのとっておきLv2】

 ・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ

 【魔法使いの最終手段】

 ・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇

 【魔法使いの掟破り】

 ・魔法使いに与える物理ダメージが500%上昇し、魔法使いから受ける魔法ダメージを0にする。

 

 スキル【ミスディレクション】

 ・【MP消費0 相手の視界から一時的に消えることが出来る。

 ※ただし、相手との力量で効果変動

 

 【戦士のピアス】

 ・物理ダメージ5%上昇

 

 

 ◇◇◇

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