第一話「ふざけたアビリティ」
激安ボロボロの如何にも曰く付きと言わんばかりの宿を出る。金のない俺にはお似合いだ。そして俺は早速ゴブリン狩りへと向かう。もちろん杖は買い直した。
流石のギャル店員も買い直しの早さに最初は引いていたけど、もう何度も同じ杖を買う俺を見て――
「いらっしゃ――あ、はい、いつものやつですね☆」
「……はい、いつもので」
俺はあの店の常連となっていた。たった五百ルピの木製の杖を買い直す。俺は店の裏に目をやった。そこには俺が持っている物と同じ木製の杖が五十本ほどストックしてあった。恐らく俺専用の杖だろう。流石に五十本は………買うか。俺なら買う可能性あるな。
なんて屈辱だ。魔法使いなのに新しい杖を買えず、同じ杖を買う日々……。
「屈辱だ……」
「まいどありー☆」
***
ゴブリン狩りで重要なのはまとめて相手をしないことだ。これはゲームでもそうだが、ギルドのお姉さんにも注意された。
「ゴブリンは個々では弱いですが群れるとめんどくさいですよ」、と。
だから俺はなるべく距離を取り、注意しながら戦うことにする。
「居た……! ゴブリンだ」
五匹か。とはいえ隠れている可能性もある。こういう時魔法があれば遠距離から殺れるんだが……ないものねだりしても仕方ない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺はゴブリンの背後を取り、次々と不意打ちでゴブリンを倒していく。ゴブリンは声を上げる間もなく倒れていく……。
「……ふぅ。杖は……大丈夫だな。まだいける」
杖が折れない限りは大丈夫だ。以前獲得した【不器用な魔法使い】という腹の立つ名前のアビリティだが、これが案外使える。
与える物理ダメージが二倍になるおかげで、軽く振っただけでも敵を倒せる。それは殴る回数が減る事を意味する。つまり、杖へのダメージも軽減できるってことだ。
今までは全力で振りかぶっていたからすぐに壊れていたが、これなら一日で上げれるレベルも増えそうだな。
――俺はその後もゴブリンを狩り続けた。
【レベルが十五に上がりました】
「……ふぅ、杖もそろそろ折れそうだし、この辺にしとくか」
ここ最近で変わったことがある。それは金だ。今まで杖と宿代で全て消えていた金だが、【不器用な魔法使い】というアビリティのおかげで杖が折れにくくなった結果、買い替える回数が減り、クエストに滞在できる時間もだいぶ増え、お金も増えた。
「よし、今日は贅沢するか!」
俺が向かったのはいつもの店。
「いらっしゃ――はい、いつものですね☆」
「いや、今日は違う」
「え……まだ在庫あるのに買わないんですか……」
おいそんな泣きそうな顔で見ないでくれ。俺が買うと思って大量に仕入れたのお前だろ……。俺のせいみたいな顔すんな。
「実は新しい杖を買おうと思ってな」
「新しいの、ですか?」
「えっと、魔力増強とか度外視で、頑丈さがウリの杖とかな――」
「無いです」
即答かよ。
「いや、あるだろ? 耐久力に優れた――」
「ないです」
「…………」
「……というのはまあ冗談です☆」
「は?」
「いやぁ~いつもの杖買って欲しくてつい……実は例のアレ、大量に仕入れたので、これ減らしてくれないと柊さん以外誰も買わないから邪魔なんですよ……」
お前が勝手に仕入れたんだろうが。
「俺の杖を違法薬物みたいな言い方するな」
「でもでも頑丈が売りというより、普通に鉱石で造られた杖ならありますよ?」
「お、おお! 見せてくれ!」
木製より石で出来た方が強いに決まってる(物理)。
そういうとギャル店員は店の奥から話題に上がった杖を持ってきた。
「んしょっと……ふぅ……この杖、魔力上昇数値が低いにも関わらずかなり重いんですよね……ですから魔法使いの皆さんは誰も買わないんです」
「俺も魔法使いなんだが?」
「あっ! そうでしたね☆」
ぶん殴ってやろうかこの店員。
とりあえず俺も一応持ってみる事にした。確かに重いが持てないほどじゃない。
「これいくらだ?」
「十万ルピです」
「高!!」
思わず声に出てしまった。いや、まぁそうだよな。ここは異世界だ。俺の常識は通用しない。
俺の所持金が一万ルピだから……あと十倍か……。これはまたゴブリン狩りの毎日になりそうだな。そろそろゴブリンスレイヤーなんて呼ばれそうだ……。
「でも、柊さんはここの常連なのでマケますよ☆」
「おお! マジか! ありがてぇ!」
「しかもタダです!」
「……お、おお! ありがたい………けどなんか裏がありそうだな」
「う、裏なんてありませんよ!? 一応条件はありますが……」
ギャル店員の目が泳いでいた。
「…………言ってみろ」
俺は一応聞いてみることにした。
「実は……ここに置いてある木製の、もはや柊さん専用と言わざるを得ない木製の杖五十本が全然売れなくて……なので全部買ってくれたらタダにします☆」
「……俺にその杖全部買えってか」
「はい☆」
はぁ……でも仕方ない。いつもの杖は五百ルピだ。それが五十本。二万五千ルピか……まぁ十万の杖がそれで貰えるのなら安いもんか。
「……分かった」
「ありがとうございます☆」
そして俺はいつものようにこう言う――
「じゃあ、いつものくれ」
「毎度あり~☆」
こうして俺はいつもの木製の杖を買い直した。その日からはいつもとなんら変わらない。ゴブリンを殴って殴って殴りまくる。
慣れてきた俺はもう背後からなんて卑怯な手は使わず、真正面から倒すことが出来るようになっていた。
「って誰が卑怯だよ」
***
そんなある日。
【レベルが二十に上がりました】
【アビリティ:『魔法使いのとっておき』を獲得しました】
再び俺の前に画面が現れる。
レベルが十上がる毎にアビリティが貰えるのか。そんなのいいからスキルをくれよ。アビリティばっか寄越しやがって。
俺は一応獲得したアビリティを確認する。
【アビリティ:『魔法使いのとっておき』】
・物理ダメージのクリティカル率百パーセント
おいおいほんとにとっておきじゃねぇか! クリティカル百パーセント!?
ますます杖が壊れねぇぞこれは……! 俺は杖が壊れるのを一番気にしていた。もう慣れたもんだが。戦いのたびに買い直すのは正直だるいし金がかかる。それに杖が折れたらその日の戦闘は終了だ。まぁそこは普通の魔法使いと同じだな。
普通の魔法使いは一日で杖を壊すことなんて無いが。
「よし、あともう少し頑張れば鉱石製の杖が手に入る……! あと十本いつもの杖を買うだけだ! ん? ……いやまてよ? 杖が壊れにくくなったということは……つまり鉱石製の杖が手に入るの遅くなるってことじゃねぇかああああああああっ!!」
アビリティのせいで杖が折れにくくなったおかげで、鉱石製の杖を貰うのに一ヶ月もかかった――。
***
「――いやぁおめでとうございます☆」
俺はついに成し遂げた。杖を全て折ったのだ。正直クエストなんかよりも余程難しい戦いだった。
「ほんとだよ……自分で折る訳にも行かないし、折れるまでモンスターと戦いまくったよ。早く折れろと何度思ったことか。おかげレベル二十九まで上がったぞ……」
「良くわかりませんがそれはそれはおめでとうございます! ではどうぞ! 約束通り、こちら鉱石で出来た杖です☆」
ついに手に入れた……! これで壊れる心配はしばらく無さそうだ! あとはレベル上げだな。あと一でレベル三十だ。明日にでもこの杖の耐久力を試しに行ってくるか。
「ちなみにその杖には一応魔力増強がありまして――」
「必要ない。ありがとなー」
俺はウキウキで店を出た。ギャル店員はまだ説明終わってませんよ~と後ろで騒いでいるが、気にしない。魔法が使えないんだから、魔力増強なんてあっても仕方ないしな。それより俺が欲しいのは杖自体の耐久力だ。杖の耐久力があればもう何もいらない。折れない杖なら何でも良い。
***
またある日。
「はああああああああああああっ!」
今回はゴブリンじゃなくトロール狩りだ。今までの木製だと杖の方がダメになっちまってたが、今回は違う。全然折れない。
流石にトロールとなると一撃という訳にはいかなかった。まぁ、一撃で倒せなかったというだけで、結局はゴブリンと同じだ。
俺の敵ではなかった。
「ふぅ……流石だぜ鉱石製の杖。こころなしかダメージも上がってる気がする。木製よりやっぱ鉱石さまさまだな」
【レベルが三十に上がりました】
「お、きたきた! 今回はどんなアビリティかな~?」
【アビリティ:『不器用な魔法使い』のレベルが上がりました】
・物理ダメージが三倍になる。
【アビリティ:『魔法使いのとっておき』のレベルが上がりました】
・物理ダメージのクリティカル率百パーセント、および十パーセントダメージ上乗せ。
【アビリティ:『魔法使いの最終手段』を獲得しました】
魔法使いの最終手段……?
なにやら新しいアビリティを獲得したようである。
・杖を所持している状態から未所持になった場合のみ、十秒間物理ダメージが五千パーセント上昇。
なんだこれ? 未所持になったらって……つまり素手ってことか?
だとしたらこれは助かるな。杖が折れても戦う手段が出来るということだろう。しかし、倍率は高いが気になるのは効果時間だな。十秒とはかなり短い。
やはりなるべく杖は折らない様に心がけよう。
それにせっかく鉱石製にしたんだ。そう簡単に折ってたまるか。
明日は冒険者仲間でも探しにギルドにでも行ってみるか。
◇◇◇
《柊ひいらぎ 奏多かなた》
Lv.30
HP【3000/3000】 MP【0/0】
STR【500】 ATK【50】
VIT【50】 DEF【50】
INT【50】 RES【50】
DEX【50】 AGI【50】
LUK【0】
アビリティ:【不器用な魔法使い】
アビリティ:【魔法使いのとっておき】
アビリティ:【魔法使いの最終手段】
スキル:【無し】
◇◇◇
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