第一章 世界の理と選ばれし者

第零話 「魔法使いなのに魔力ゼロってなんだよ……」

生きた心地がしない。まるで体が呪われているかのように俺はその場所へと足を運んだ。たった一人で。


 ――そんな俺は今、魔王と対峙している。


 大切だったハズの仲間を自分の強さと、それ故の身勝手な行動で失い、ただひたすら雑魚上級魔物を狩りまくっていた。

 自分を見失い、仲間を失った。後悔だけが取り残された俺は単独で魔王城に乗り込んでいた。誰のためでもない。強いて言うなら自分のためだ。戒めのつもり……なんてカッコいい事を言うわけじゃない。多分、自暴自棄ってやつになっているだけだと思う。


 こんな俺に残されたのはただ一つ、強さだけだ・・・・・だった。

 

「なぜだ、なぜ我が……こんな人をバカにしているかのような魔法使いごときに手こずっているのだ……ありえない!!」

「知らん。お前が弱いだけだ。あとバカになんてしていないしお前はそもそも人じゃない。これが俺の戦い方だ。文句なら俺に魔法使いなんて職業を与えたヤツに言え。……そん時は俺も協力してやる。こんな力を寄越しやがったふざけた野郎にな」


 魔王は地に膝を着き息が荒い。一方俺は右手に杖を持ち、無傷。どちらが優勢かは一目瞭然いちもくりょうぜん。そのすぐ後ろには恐らく魔王を討伐しに来ていたであろう勇者が倒れていた。

 

「……す、すまない……誰だか分からないが助かった」

 

 勇者は深手を負っている。高そうな白銀の鎧を身に纏っている。相当な値段だ。見ただけで分かる。だがそんな鎧も血に染まり、本来の輝きを失っている。どうやら動けそうにないようだ。勇者の仲間と思われる者も達も皆、勇者同様に倒れている。


 この場で立ってるのは俺と魔王の二人だけだ。

 

「……俺が魔王を倒しても文句言うなよ」

「文句なんて……言うものか………魔王は倒さねば………ならない。それがこの世界を救う僕の役目だった……だが――」

「ああ分かった分かった。長くなりそうだから良い。……魔王なんて俺の敵じゃない。俺の敵はもう既に決まってる」


 勇者は少年の言葉に目を丸くする。


「我が……我が敵じゃないだと?」

「ああ」

「我はこの世界の……魔の王であるぞ! 貴様こそ何者だ! いきなり現れよって!」

「めんどうだな。いまから死ぬのに説明が必要か? ……確かにお前は強いんだろうよ。だが、それはこの世界の中では・・・・・・・・、というそれだけの話だ」

「……な……に……? この世界の中……だと? だから我がこの世界の――」

「もういい。黙れ」


 そして、魔王は杖を持った謎の魔法使いによって倒されることとなる。



「……久しぶりに喋ったなぁ。……結局、魔王なんてものを倒しても何も得られない、何も変わらない。…………なぁお前ら。こんな俺を許してくれるか? ……ああ、許せないよな……分かってる。待っていてくれ。俺が全て終わらせてくるから」


 少年はそう言い残すと黒のローブを翻し、この場を去ろうとしたその時――


「ま、待ってくれ……! 礼を……礼を言わせてくれ! 本来これは僕の役割……だったんだ。でも僕は負けた……君は何者なんだ? 何故それほどまで強いのにそんな……そんなにも絶望した顔をして泣いているんだ……! 教えてくれ! 僕に出来ることなら手伝う! これは助けてくれた礼でもあるが、僕の――」


 少年が杖を軽く振った。


 ――その瞬間、空間が割れるような音とともに波動が起き、城全体がミシミシと悲鳴を上げ揺れる。


「……そこで倒れているお前の仲間も、お前のせいで死んだんだ。お前には何も出来ないし、誰も守れない。お前はただこの世界の勇者を演じていればいい。…………悪い……もう行く。じゃあな勇者」

「待っ――」


 勇者の声は少年の心には届かなかった。少年が再び杖を振ると、魔王が座っていたであろう玉座もろとも吹き飛び、城に大きな穴が空いた。そして、少年は姿を消した。


「…………あのローブ、初期装備じゃないか……何故彼はあれ程までに強いのに絶望した顔を……彼に何があったんだ……? あの強さは一体……ダメだ……」


 勇者は血反吐を吐きながら、血まみれの手で床に何かを書き始めた。


「……これは……ガハッ……これは僕じゃない……僕の……功績じゃない」


 勇者の後ろには真っ黒に焦げた者や、手足のない達が倒れている。かくいう勇者もまた、左腕を失っていた。


「僕にしか……出来ない…………誰かにこの事を伝え……なければ……誰か…………に…………」



 【これは、魔法を使うことの出来ない少年の、魔法使いとはかけ離れた戦い方をする少年の話である――】

 

 

 ***

 

 

 俺の名前は柊ひいらぎ 奏多かなた。高校三年の春、卒業式当日、下校途中の帰り道に道路で車に轢かれあっさり死んだ。即死だったからなのか痛みを感じる余裕なんてものは無かった。目が覚めたらこの世界に居たのだ。石造りのいかにもファンタジーチックな街。そんな世界に俺は黒いローブを身にまとい、木製の杖を持ってつっ立っていた。ゲームや漫画が好きだった俺は、一瞬でこの不思議な状況を理解した。

 

「……なるほど、これは所謂いわゆる異世界転生ってやつだな……しかも俺の職業は魔法使いか」

 

 魔法使いと言えばやっぱり攻撃魔法や飛行魔法だな。誰もが憧れる空を飛んだり、炎を出したり……最高の職業じゃないか。誰が与えた職業なのか知らないが礼を言う。

 

「ありがとう、神様。……この世界に神様っているんだろうか」

 

 俺はまず自分のステータスを確認することににする。定番のやつだ。

 

「開け……オープン……ステータスオープン…………出てこい……おい。出ろよおいって!」

 

 ステータス画面が出てこない。こういうのは普通出てくるものだろ……まぁ出てこないものは仕方ない。諦めるのも大事だな。

 

 俺は街を見て回ることにした。すると見たことの無い文字が街の至る所にあった。

 

「見たことない文字ばっかだな……でも不思議だ。読めるぞ」

 

 一度も見た事がないのに読める。これは異世界転生の所謂ギフトだろうか?

 翻訳が必要ないのはありがたい。そして俺は気になる店を見つけた。

 

「魔力測定……店? ……まずはここだな」

 

 ここで俺の魔力が測定できれば、自分はどの魔法が得意かどうかが分かるはずだ。


「水……火……もしくは土か?」


 俺はワクワクが止まらない。魔法使いという職業を与えられたのだ。魔法が使えると考えるだけでワクワクするのは当然だろう。


 俺は早速店に入ることにした。

 

「いらっしゃい」

「どうも。あのー、魔力を測定したいんですが」

「あー、魔法使いの方ね。はいはいじゃあそこの水晶に手を置いてください」

 

 このような事は何回もしているかのような手馴れた手さばきだ。

 白髪頭の老婆の案内に従い俺は水晶の上に手を置く。

 

「………フムフム、あんた冒険者かい?」

「……え? えぇまあ」

 

 まだ冒険者登録とかしてないけど、どうせこの後するつもりだしいいか。

 俺は老婆に冒険者と答えた。

 

「あら……残念だねオニイサン。あんた魔力ゼロだよ・・・・・・・・・」

「………………え? 今なんて?」

「いやだから魔力ゼロなの。うちも長いことやってきたけどね、魔力ゼロの魔法使いさんなんて見たことがないの。それだけに今驚いて腰が曲がっちゃったわ」

「それは元々だろう」

「あ?」

「あ。いえなんでも」


 おいおい嘘だろ? 壊れてんじゃねーのかその水晶。魔法使いが魔力ゼロとかそんな訳ないだろ。これ以上話していてもしょうがない。俺は渋々しぶしぶ店を出ることにした。

 

「……いや、そんなはずはない。魔法使いだぞ? 魔力ゼロってなんだよ。魔法が使えないってことか? 魔法使いなのに魔法が使えないなんて聞いたことないぞ……よし次だ」

 

 運がいいのか悪いのか、この街を見て回ると至る所に魔力測定店がある。なぜこんなにあるのかは分からないが、恐らく俺のような間違った結果が出る時があるからだろうな。……多分。そうだと思う。

 

「……ゼロだネ」

「うむ、ゼロじゃ」

「ゼェェェェェェロオォォォォォォォッ!」

 

 俺は視界に入った魔力測定店に次々と入る……が、結果は全て同じだった。

 

 え? そんな嘘だろ……ほんとにゼロなのか? じゃあどうやって戦えって言うんだよ。魔法使いだぞ? あと最後の店だけやけに腹が立つ言い方で思わず、持っていた杖で殴りそうになった。

 

「……仕方ない。武器屋に寄って、剣士にでもなるか」

 

 魔法使いから剣士にジョブチェンジか。まぁ魔法が撃てないのは残念だが、剣士としてやって行くしかない。そう思って街を散策していると、武器屋を見つけた。

 

「いらっしゃい! お客さん! なんでも揃ってるよ☆」

「……あ、うん」

 

 何だこの獣人ギャルは。猫耳にギザギザの歯。褐色の肌に露出がやたらと多い服装。


 クラブ帰りか? ほんとにこの店の店員かよ。まぁいい、とりあえず武器だ。武器が手に入れば何でもいい。

 

「えっと、武器欲しいんだけど」

「はいだよー! 何が欲しいの? ショートソード? 杖? 盾? なんでもあるよ☆」

 

 杖もあるのかこの店。確かになんでもを謳うたっているだけの事はあるな。まぁ杖なんてもう俺には必要無いんだが。

 

「じゃあショートソードで」

「ショートソードだね! だったらこれがオススメだよ☆」

 

 ギャル店員が薦めてきた銀色のショートソード。特に何か特別なわけでもない至って普通のショートソード。

 

「お兄さん見たところ、見習い魔法使いっぽいし、剣士になりたいならまず最初はこんな所だね☆」

「なるほど……まあこれくらいでいいか。あんまり高いのは買えな――」

 

 俺がショートソードを手に取ろうとした瞬間――

 

 俺の手に稲妻が走るのが見えた。

 

「――んがっ!?」

 

 なんだ!? 今雷が出たぞ。おいおいまさか……

 

「どうしたのお兄さん?」

「いや、どうしたも何もこのショートソードを持とうとしたらビリッって来たんだが?」

「なにそれチョーウケる! あはははは!」


 こっちは全然笑えないんだが。


「え……ってことは俺魔法使いのままってこと?」

「……うーん、まぁそうだね☆」


 おいおいまじかよ。

 

「ウチもこんな現象は初めて見たよ。なんならお兄さん、他のも試してみる?」

「ああ、頼む」

「あいよー!」


 嘘だろ……魔法使いなのに魔法使えないとかシャレにならんぞまじで。


 俺はその後色んな武器に触れ、試して見た。結果はと言うと……全て惨敗に終わった。触ろうとすれば稲妻が走る。なんとか痛みに耐え、無理にでも持とうと試してみたが、ダメだった。触れた手のひらをみると焦げていた。恐らくあのまま触れていたら死んでいたかも知れないだろう。


 魔法使いのまま進めってことか。難易度高すぎるだろ……せめて一回でいいから魔法使わせてくれよ……。

 

「また来てくださいね~☆」

 

 多分もう来ない。

 

「はぁ……とりあえず冒険者登録でも済ますか」

 

 俺は溜め息を着きながら冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドの受付のお姉さんに言われる通りに登録を済ませる。名前を記入する欄がある。俺は日本語以外知らないので日本語で書いた。すると、瞬く間にこの世界の文字に変わった。

 

「すげぇ……」

「……ご記入頂きありがとうございました。こちらがあなたの冒険者カードになります」

 

 ……これが俺の冒険者カードか。どれどれ……

 

 ◇◇◇

 

 《柊ひいらぎ 奏多かなた》

 Lv.1

 

 HP【500/500】 MP【0/0】

 

 STR【50】 ATK【50】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 やはり魔力はゼロなのか……INT知力あっても魔法使えないんじゃ意味がないな。あとはSTR物理攻撃とATK攻撃力か。魔法使いなのにMAT魔法攻撃のステータスがないのはやはり俺が魔法を使えないからなのか……?


「お姉さん、クエストってもう出れますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

 

 俺は紙が張り出された掲示板を見る。


「難度一か。これにするか」


 俺はとりあえずクエストに出ることにした。


 魔法が使えないなんてやってみないと分からんものだしな。もしかしたら、使えるかも知れない。

 

 ***

 


「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 【レベルが五に上がりました】

 

「……ふぅ。ここら辺の魔物は全員倒したか。にしても案外杖振り回すのもいいもんだな。杖折れちまったけど……仕方ない今日はこの辺にして、またギャルの店で買い直すかぁ」

 

 俺が今回倒したのは犬型の魔物だ。漆黒の体に白い角を生やしている。大して強いわけではない。どこにでも居る、スライムのような感覚で居る雑魚魔物。


「結局魔法は使えなかったか……」


 いや、レベルが足りないのかもしれない。俺の異世界生活は始まったばかりだ。こんな所で立ち止まっててたまるか。

 

 俺は早速倒したモンスターの戦利品を集め冒険者ギルドで換金する。

 

「ありがとうございました~」

「……たったの千ルピかよ。宿が一泊五百ルピで杖が五百ルピだから………おいおいプラマイゼロじゃねーかよ」

 

 レベルが上がるのはいい。だが、杖はその都度つど買い直し。

 これは安定した生活まで道のりが長そうだ。俺はその日から何度も杖を振るい、モンスター達を狩り続けた。杖を折り、買う、寝る。この繰り返しだ。

 

 

 【レベルが十に上がりました】

 

 【アビリティ:『不器用な魔法使い』を獲得しました】

 

 俺の視界に何やら薄く透明な画面が現れた。


「ステータス画面かなにかか?」


 レベルが十に上がった事でどうやらなにか獲得したらしい。


「どれどれ……『不器用な魔法使い』だと? なめてんのか!!

 杖振り回すしか戦う手段ねぇから仕方なくこうやって戦ってんだろうが! それを不器用だと? ふざけんなっ!」


「ひぃ!?」


 俺の心の声がつい言葉に出てしまったようだ。


「あ、すみません」

「……い、いえ」

 

 俺は再び画面に目をやる。


 【『不器用な魔法使い:与える物理ダメージが二倍になる』】

 

 なんだよこのアビリティ。まるで杖で戦う前提のもんじゃねぇか。……だが、悪くないな。これでモンスター達が狩りやすくなる……んだよな? 今まではスライムやら犬型の魔獣やらを相手にしていたが、次はゴブリンにでも行ってみるか。

 

 おっとその前にレベルアップで得たステータスポイントを割り振らなければ。俺はポケットから冒険者カードを取り出し、ポイントを割り振っていく。

 

「もちろんSTR一択なんだが……」

 

 俺は全てのステータスポイントをSTR物理攻撃に割り振った。

 

「じゃあ次はゴブリン狩りだな。……っとその前に杖買い直しにいくか。おいおいまさかこんな日々がずっと続くってのか……?」

 

 ふざけんなよ……。

 

 ◇◇◇

 

 

 《柊ひいらぎ 奏多かなた》

 Lv.10

 

 HP【1500/1500】 MP【0/0】

 

 STR【200】 ATK【50】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 スキル:【無し】

 

 ◇◇◇

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