第二話「本物の魔法使い」

 俺は仲間を探しに冒険者ギルドへとやってきた。やっぱり異世界で冒険と言えば仲間だろう。ということで早速掲示板へと向かう。そこで俺は気になる募集用紙を見つけた。

 

「……強力な魔法使い募集中? これは……うん?」

 

 強力な魔法使い募集中という貼り紙を俺は注意深く見る。すると、ただし中級魔法を扱える者のみで。と書いてあった。

 

「……中級どころか魔法を使えない俺は論外だな」

 

 他も同じようなものばかりだった。初級魔法以上だったり中級魔法以上だったり。確かに考えてみれば魔法使いなら魔法が使えて当たり前だもんな。ここは最低ラインってことか。

 

「俺はその最低ラインにすら立ててないってことか……」

 

 俺は貼ってあるものではなく、自分で募集することに決めた。そうだよ。自分で募集すればいいんだよな。来るもの拒まずでいこう。俺は仲間募集と書いて掲示板に貼ってみた。

 

『仲間募集中ー! 誰でも歓迎!』

 ・主 魔法は使わない物理型魔法使いです。

 ・募 誰でも構いません。変な人以外は大体歓迎します。

 ※ただし、出来れば女の子がいいです。

 

 

 よし、こんな所だろう。最後は私情が入ってしまったが、むさ苦しい男よりか、なるべく女の子がいた方が冒険にも華やかさが出るってもんだ。それに空気が和やかになるだろう、うん。男はその後でいいだろう。……もしくは要らないかも?

 

 ……

 …………

 ……………………………

 

「おいどういうことだ。全然来ないぞ……」

 

 募集してから三時間。ひたすら待ち続けた。


「そろそろ水のおかわりも無理だぞ……うっぷ」


 何度も水を注文する痛い客になりかけている。


 女の子がいいとか少し欲張り過ぎたか? あれ消した方がいいかな? でもなぁ……。

 

 俺は冒険者ギルドの椅子に座っていた。なにやら周りから視線が感じる。掲示板へ向かう冒険者達。俺の募集用紙を見たのか、俺を見て「あいつか?」と周りがザワザワしている。だが、俺のもとに来る様子はない。

 

 やっぱり女の子が良いは消しに行くか。と俺が席を立った時――

 

「あの!」

 

 念願の女の子が声をかけてきた。銀髪のエルフさんだ。

 

「はい、なんでしょう?」

「貼り紙を見ました! 良ければ私、ご一緒いいですか?」

 

 俺の募集用紙を見て来てくれたみたいだ。……自分で言うのもなんだが本当に来るとは思わなかったな。にしても銀髪のエルフかぁ。これはまた想像してたより、随分可愛い子が来たな。見た目からして俺と同じ魔法使いのようだ。

 彼女は俺の黒とは正反対のその綺麗な銀髪に似合う白のローブだ。

 

「……俺魔法使いだけど、大丈夫?」

 

 ……魔法は使えないけどな。

 

「はい! 大丈夫です! ……実は私もまだまだなので、一緒に頑張りましょう!」

 

 そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ。前衛が居ないけど大丈夫か、という意味だったんだけど。まぁいいか。実質俺が前衛みたいなもんだし。

 

「分かった。俺はひいらぎ 奏多かなただ。よろしくな」

「はい! 私はフィーレ・フェルレンシアと言います! よろしくお願いしますっ!」

 

 俺はフィーレに手を差し出した。なんか随分と張り切ってるなこの子。俺のあの募集用紙のどこに惹かれて来たんだろうか。

 

「そんなにかしこまらなくていいぞ。歳も近そうだし、気楽にいこう」

「…………あ、はい!」

 

 なんか謎の間があったな。そういえばエルフって長寿な種族ってのが定番だよな。なるほど、この子俺よりかなり歳上なのか。

 フィーレはかなり気品のある子だった。まるで良いとこのお嬢様のような。それもかなり緊張気味である。

 

 ま、こればかりは時間の問題だな。ゆっくり仲良くなっていこう。俺たちは握手を交わししばらく雑談をした。特に何の変哲もない話だ。俺の杖は何本目だ、とかそんな話。俺の杖の本数にフィーレはすごく驚いていたが。雑談をしながら他に来ないか待ってみたが、これ以上人が来る気配がない。

 

「……仕方ない、俺達二人で行くか」

「え? あ、分かりました。よろしくお願いします」

 

 よし、雑談で随分と緊張がほぐれたようだな。二人だと少しクエストは選んだ方が良さそうだな。なるべく弱いのを……。

 

「うーんそうだなぁ……トロールでもいくか?」

「トロールですかっ!?」

「……ん? 何か問題があるのか?」

「トロールといえば、中級モンスターですよ! 二人で……ましてや魔法使い二人ではきついのでは!?」

 

 え? そうなの? 俺ずっと一人で狩りまくってたんだけど。

 

「……じゃあ他のにするか?」

「い、いえ! 大丈夫です! …………行きましょうトロール!」

「お、おう?」

 

 よく分からん子だな……。

 

 俺とフィーレはトロールの討伐クエストを受注した。

 

 ***

 

「トロール三体ですか……大丈夫でしょうか」

「大丈夫だろ」

 

 心配そうな顔をするフィーレとは対照的に、俺は余裕って感じだった。実際トロールなんて何体狩ったか覚えてないしな。そんなことを話していると話題の相手が出てきた。鼻を垂らした豚のような顔をした巨大なモンスター。

 

 俺は思った。ここで俺が倒すのは簡単だ。だが、フィーレの実力が見てみたい。


 ということで、俺はフィーレに任せてみることにする。

 

「フィーレ! あいつの相手一人でやってみてくれないか?」

「え!?」

「大丈夫だ。難しそうなら俺が出るから」

 

 不安そうなフィーレだが、俺の言葉を聞いて承諾してくれた。

 

「わ、分かりました……やってみます!」

 

 フィーレは杖を握り直し、トロールと向かい合う。

 

 よし、これでいい。仲間の実力は把握しておかないといけない。これでフィーレがどれくらいの実力なのか観察しよう。これからやっていく仲間になるなら大事だろう。……大丈夫、難しそうなら俺が助ける。フィーレは杖をトロールに向け唱える。

 

「炎の精霊の加護よ、私に力を――」

「お! おお! そういうのだよ! 俺はそういうのが使いたかったんだよ!」

 

 俺は一人、初めて見る魔法に興奮していた。本来は俺も使えるべき魔法。

 

「『ファイアーボール』!」

 

 そう唱えた彼女の杖からは小さなバスケットボール程の大きさの炎の玉が勢いよく発射された。

 

 ……ん?

 

 その炎の玉は、トロールのお腹に当たると一瞬で消滅した。


「あ、あれぇ? やっぱり効かなーい!! 柊さん助けてくださ〜い!」

 

 フィーレがトロールに追いかけられていた。

 

「あれ……? 今当たったよな?」

 

 恐らく初級魔法だと思うが、あんなに効かないものなのか?

 フィーレが放った炎の玉はトロールのお腹に飲み込まれ一瞬で消えた。

 

「……仕方ない、出るか」

 

 俺は腰を下ろしていた丸太から立ち、トロールに向かって杖を振る。

 

「ほいっ」


 俺は軽く杖を振った。トロールは真っ二つになった。打撃なのに真っ二つ。

 

「……柊さん……すごいですね……まさか魔法を使うまでもないなんて……」

「……あ、ああ。魔法ね。こんな相手に勿体ない……だろ?」

「トロールをこんな相手扱い……! 流石私の目に狂いはありませんでした!」

 

 俺は使えないとは言えなかった……。魔法使いなのに魔法が使えないとか、恥ずかしくて言えない。

 

 しかし、アビリティがかなり活きているな。物理ダメージ三倍にクリティカル率百パーセントに十パーセントのダメージ上乗せのお陰か。軽く殴っただけでトロールを倒せた。これなら杖が折れる心配は無さそうだ。木製から鉱石になったとはいえ、なるべく大切に扱いたいしな。……何と言っても高いし。

 

「じゃあ残り二体もサクッとやるか」

「は、はい!」

 

 残りの二体のトロールは俺がやった。どうやらフィーレは『ファイアーボール』以外使えないらしい。だから、俺が殺ることにしたのだが……。

 

 ……

 ………

 ……………


「ふぅ……よし、帰るか」

「柊さん本当に凄いですね……魔法を使わずにあのトロールを簡単に倒しちゃうなんて」

「相性の問題じゃないか?」

「……それで言うと、トロールは物理攻撃に高い耐性を持っていますよ? 本来なら魔法使いが相手にするのが普通なんですけど、私が弱いばかりに……すみません」

「気にするな。これから頑張ればいいことだ」

 

 俺は不安そうなフィーレの頭を撫で、慰めた。だが内心は――

 

(まじかよ! 物理耐性があるようには思えないくらい脆かったんだけど!?)

 

 内心めちゃくちゃ驚いていた。


「ま、まぁ経験だな!」

「流石ですね! 柊さん!」

 

 とおだててくれるフィーレ。と、俺はここでフィーレに気になっていた事を聞いてみることにした。

 

「……なぁフィーレ。なんで俺の募集用紙を見て一緒に来たいと思ったんだ? ……俺が言うのもなんだが、あの募集用紙は興味がそそられるようなもんじゃないと思うんだが」

 

 本当に自分で言ってて嫌になる。でも、女の子がいいとか書いてある募集用紙に本当に来るのが疑問だった。明らかに、欲望丸出しだし。そんな俺の疑問にフィーレは立ち止まり答える。

 

「……強い魔法使いだな、と。私はそう感じました。私のカンは昔から結構当たるんです」

 

 と笑いかけるフィーレ。

 

「……ふーん。強い魔法……ね」

「どうかしましたか?」

「俺はまだ魔法を使ってないけどいいのか?」

「それもまた強さの一つですから。むしろ、魔法を使うまでもないとかめちゃくちゃカッコイイじゃないですか!!」

 

 目を輝かせ、鼻息を荒くしながら答えるフィーレ。……なるほどこいつはただの物好きってやつか。

 

「カッコイイならいいか……」

「はい! カッコイイです!」

 

 そうして俺たちは冒険者ギルドへと帰るのだった。その道中俺はフィーレから隠れて試しに『ファイアーボール』と唱えてみたが、もちろん撃てなかった。……恥ずかしくなって、もう諦めようと心に誓った。

 

「……レベルも三十になってから上がりにくくなって来たしなぁ。もっと強いの倒すかぁ」

 

 俺は一人呟いた……。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.30

 

 HP【3000/3000】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【50】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 スキル:【無し】

 

 

 ◇◇◇

 

 【不器用な魔法使いLv2】

 ・与える物理ダメージ3倍

 【魔法使いのとっておきLv2】

 ・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ

 【魔法使いの最終手段】

 ・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇

 

 

 

 

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