第10話

私の告白を黙って訊いていたご主人様は強張らせていた表情を少しずつ柔和にした。


その優しげな顔を見て熱く胸を高鳴らせた。


「おまえは……俺を選んでくれるのだな」


その言葉に間髪入れずに返した。


「いいえ、ご主人様が私を選んでくれたのです」

「……」

「あの時……一年前の孤児院には私の他にも行くあてのない友だちがいました。でも彼女たちには其々ご主人様がきちんと居場所を与えてくださった」

「……」

「メイドに……ご主人様のメイドとして選んでくださったのは私だけでした」

「……」

「今となってはそれがとても幸せで……だからご主人様、どうか私を生涯お傍に置いてください」

「……亜咲美」


ご主人様が私をギュッと抱きしめてくれた。


その抱擁はメイドに対してするものとは違った温もりを感じさせた。


「亡き奥様には及ばないかもしれませんが……精一杯お勤めさせていただきます」


そんな言葉をご主人様の腕の中で呟くと、ご主人様は少し困ったような顔をして「少しずつでいいから……妻らしく俺と対等な関係に変わって行ってくれ」と呟いた。


(それって……)


ご主人様の言葉を何度も頭の中で反芻する。


つまりそれは──これからはご主人様とメイドという関係ではなく……


(ということ、なの?)


ご主人様からもらった言葉は私に更なる幸せな未来を与えてくれるものとしていつまでも胸の中に深く濃く刻み込まれたのだった。





(終)

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愛と欲望のメイドレイ 烏海香月 @toilo

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