おまけ

―12月26日 昼―


「おお、おかえり吹谷ふきたに君!」

「…どうだった?」


「なんとか許してもらえましたー!」


「おぉー!おめでとう!」

「いやしかし焦ったよ、君持って帰って来ちゃうんだもん。普通どっかで気付くでしょ」


「へへ〜わかんなかったんスよ!マジで」


「褒めてないからね、全く」


「へへ、うっす!」


「ちなみに、他はもう無いよね?」


「……。」


吹谷ふきたにはサッと目をそらし、冷や汗と脂汗が混ざった何かを大量に分泌し始めた。


「え?あるの!?」

「も〜今度は何やらかしたの?」


「……、あのっ、その〜、なんというか。」

「二日前の話なんですけど――」




あの日、先輩僕の事めっちゃ叱ったじゃないですか。それで僕も頭にきちゃって…


―12月24日―


「ちくしょう!先輩め…六法全書嫌いかよ!嫌いすぎだろ!いやいや期か?いやいや期なのかぁ?」


(クソッ!こうなったら六法全書で喜ぶ人を探して先輩に土下座させるしかない!)



「――と、思って外に出たんですよ」


「え?いや何してくれてんの!?」

「てかそんなに傷ついてたの?ごめんね!」


「まぁそれはいいんですけど、問題はここからっス」


「え?これが問題じゃないの?」



これは僕が「とりあえず片っ端から『六法』好きか聞けば一人くらい好きな子見つかるだろ!」と、思って公園に行った時の事です。


「君、六法好きかい?」


「おじさん全裸で何してるの?」


「ん?六法を好きな子を探してるんだよ」


「へ〜そうなんだ」


「で、君は六法好きかい?」


「…おじさん、六法てなぁに?」


「六法ていうのはね――」



「いや、全裸だったんかい」


「なんと全裸だったんですよね…」


「なんで君まで驚くの…自分だろ?え?自分でやったんだろ?」


「でも、子供の夢を守る為にもサンタ服を着ていく訳には行かないじゃないですか!」


「普通の服を普通に着ろよ!!」

「なんで全裸が先に出るんだよ」


「ん"ん"っ!そして…大問題が起きましたよね」


「あぁ、私の後継人が変態だと判明した。」


「それじゃなくって、あの、」


「全裸?」


「でもなくて、」


「でもなくて!?」



「…おじさん、六法ってなぁに?」



「ここ!ここです!そう、そうなんですよ!最近の子は六法知らないんですよ!」


「そりゃ知らないよ!文字通りまだ右も左も分からない子に法を説くな!」


「おぉ、さすが先輩!鋭いですね!」

「この後に僕も六法好きにちびっ子は居ないと気付いて年齢層を20歳以上に絞ったんですよ!」


「……服は着たよね?」


「冬ですよ?この後ちゃんと服屋さんで買いましたよ」


「おいおいおいおい!服屋行ってんじゃねーか!…えぇ?なんで君捕まってないの?」



公園での一件から20分程経ったくらいでしょうか?僕は近くの留置所に居ました。



「え?だよね!?」


「はい、僕とした事が捕まってしまいました…」


「当たり前だよ!法を説いてる奴が法を犯してるんだから」


「今後はこういう事が無いように…」


「…反省はしてるみたいだし、もういいよ」

「さて、それからどうなったの?」



はい、僕は留置所で大柄の警察官から話を聞かれていました。


「どうしてこんな事したの?」


「着る服が無くてですね…」


「なに君、家は?家族は?」


「………。」


「じゃあお金は持ってる?」


「持ってないです」


「困ったなぁ……はぁ。君、ちょっとここで待ってなさい」


という訳で僕はこの冷え切った留置所で1時間も裸にタオル一枚で待つ羽目になりました



「いや、私呼べよ!」

「この前電話番号教えたばっかでしょ?」


「いや、バレたら怒られるので…」


「怒れねぇよ!半分…いや4、3割くらい私のせいみたいな所あるし!」

「……いやでも、この感じだと服屋連れて行って貰えたんでしょ?結果的には良かったじゃない」


「いや、それが…その」



「調べても調べても住所も電話番号も、公園に行く前の行動すら出てこない。それどころか吹谷ふきたに 紅葉もみじなんて奴はこの世に存在していない!一体どういうことだ!!」


「いや、あのそれは…偽名を名乗れと今の職業で言われてまして…」


「職業…?なんだ言ってみろ!!粉か!?」



「やばいじゃん!」


「はい、完全に不法入国者か何かだと思われてます。このままじゃお縄です」

「警察の人もガチ犯罪者用の口調に変わってます」


「え?結構マジで君どうやってここまで帰ってきたの?」


「秘密です。」

「…で、あの後何やかんやありまして、すこし時間が経った時の話です」



「へへへ、吹谷ふきたにさん冗談じゃないっすか〜!」

「勘弁してくださいよ〜もう」


「じゃ、服だけよろしくお願いします」


「もちろんですよ…へへへ」



「おい待て本当に何があった」


「………なにも?」


「いや絶対なんかあった奴の間だろ」

「…吹谷ふきたに君、ちゃんと言いなさい、今言った方が罪も軽くなるから」


「いや、本当に何もなかったんで、腕つかむのをやめてください…!」


「いいや、やめない…!君の為にもやめる訳にはいかない…!」


「「――…ゼェ、ゼェ」」


「…今正直に話せば不問にしよう。」


「話しましょうとも」



あの警察官に成すすべの無い僕は奥の手としてプレゼントで乗り切る事にしました。

プレゼントはサンタクロース達に与えられる『相手が欲しい物を創り出す』力です。

故に悪用厳禁。


しかし、僕は――



「…賄賂か」


「はい、賄賂ですね。完全にやりました」

「反省してますごめんなさい」


「いや、仕方ないよ!正直に話してくれたし、不問にするさ」


「…ありがとうございます!」

「それでですね――」


「あぁこの話まだ続くんだ」



プレゼントの能力は悪用厳禁。しかし、背に腹は代えられない。


悩みに悩んだ末、仕方なく僕はこの人に六法全書をプレゼントしました。



「居たぁー!六法好きな奴存在してた!!」

「え?良かったね?吹谷ふきたに君!」


「はい、六法全書好きな人は存在しました」


「いやぁ〜おめでとう!」


「ありがとうございます先輩」

「でも、話はここでは終わらないんですよ」


「確かに、ここ飛ばして話そうとしてたもんね」


「はい、ですので『この部分を話さないで先輩に土下座させる。』これを目標に僕達は服屋さんへと向かいます」


「そうだこの話、最終的に私を土下座させる為の話だ」



留置所を出て、車で数分間走った後、僕は警察官と共に服屋へ行き、適当な物を見繕って貰います



「で、そこで買った服が今僕が着てるやつです」


ふと吹谷ふきたにの服を見てみると、真っ白な生地に薄茶色が入ったタイダイ柄の服を着ていた。


「あーそのオシャレなやつ?」


「…そすね、これを買ってもらいました」


「いいじゃん、似合ってるよ!」


「……ありがとうございます」


吹谷ふきたには肩を震わせ強く拳を握る


「…すいません」



…さて、服を手に入れた僕は

「さっさとこの『六法好き警察官』との出会いをやり直し、先輩を話して土下座させよう」 と、考えました。


「あのぉ〜、事情は話せないんですけど、偶然、"偶然"僕にもう一回出会って、『僕は六法が大好き』と言って貰えませんか?」


「…はい?」


「だから、その、"偶然"僕に出会って、『僕は六法が大好き』と――」


「普通に嫌、ですけど」


「……六法全書二冊でどうですか?」


「三冊なら考えます」



「おいおい、賄賂じゃん」


「はい、賄賂ですね」


「『はい、賄賂ですね』じゃねぇよ!前回のは許したけど、こっちのは許した覚えがないよ!?」


「え?駄目なんですか?」


「いや駄目だろ」


「………先輩、いや、サンタクロース大先生!そこを何とか…!何卒、何卒!」


「私を土下座させる為に送った賄賂だぞ?許せる訳ないだろう」


「これでも駄目ですか?本当に反省してるんです!」


「やめろ!私の顔に六法全書を押し付けるな!!」



…いやでも待って下さい、まだ僕この賄賂渡してないですよね??

ちょっとちゃんと思い出して話すんで、お説教はそれ聞いてから決めませんか…?


そう、あれは12月14日の夕方頃――


「はい、きっちり一、二、三冊!これでいいですね?」


「へへへ、吹谷ふきたにさん、お主も悪よのぉ」


「では、手筈通りお願いしますね?」


「勿論ですよ…へへ」



「やってんじゃん」


「はい、やってますね。嘘つきました」


「この話のどこに粘れる要素があると思ったの?無理でしょ」


「…でもしょうがなかったんです!僕も、もうなんか後に引けない感じになってて」


「わかった、わかったよ、今回は『保留』って事にしよう。私も後で考えたい」


「……!ありがとうございます!!」



それでですね…


僕は警察官と別れた後、小腹が空いたので近くにあったひときわ目立つファミリーレストランに入ります

……ぶっちゃけるとここで警察官と話を捏造する予定で入りました。


え〜そして、僕はここで警察を待っていたんですけど、もう全っ然来ないんですよ。

でももう店に居るのは店員さんの目が怖い。

なんならこの辺りから店員さんは僕を睨んでました


(もうドリンクバーで待つのは限界だな…)


そう直感した僕は苦し紛れの策として、限定商品の『特製カレーうどん』を頼みました

これが意外と美味しい!

一口、もう一口と止まらなくなりまして、一気に三杯も食べちゃいましたよ



「……待って、じゃあそれカレーうどんかい!!服の模様じゃないよね?それ」


「そですね、カレーのシミですね」


「だから謝ってたのかクソ、褒めてしまった…恥ずかし」

「あれっ?そういや、お金持ってたの?」


「…やっぱそれですよね」

「ほんとは警察に払ってもらおうと思ってたんですけど、来ないし」


「え?は?え?その警察官が来ないからカレーうどん頼んだんだよね?」


「ドリンクバー頼んじゃったし、なんかもういいかな?って…」


「は?ちょっと待って、じゃあお代は…?」


「それは、まぁ大丈夫です」



カレーうどんを食べ終わった僕は汚れた服を見て、やらかした事を再認識しました。


「やってしまった…僕はなんて事を…」


くよくよしてても仕方がないので、とりあえず会計へと向かい、そのまま後ろポケットに入ってた財布で支払いを済ませました。



「持ってんじゃん!財布!」

「警察の時もそれ出しときなよ!」


「持ってなかったですよ、最初は」


「???」

「どういうこと?」


「いや、それがですね――」



僕は会計する直前にお尻辺りに違和感を感じて触ってみたんですよ。

そしたらビックリ!財布が入ってたんですよ


「え、気味悪…」


そう思いつつ中を見てみると、何故か一万円札と一枚のメモが入ってました。

そのメモは恐らくあの警察官が書いたもので、内容は確か―― 


吹谷ふきたにさんへ

さっきあなたの住所や電話番号を調べた時、偶然一つだけ同じ苗字のご家庭があってので、連絡してみてもらったんです。

するとその子、あなたの兄弟だと言うじゃないですか!よくは分かっていませんが、きっとあなたは記憶喪失か何かなのでしょう。

それで服も着てない状態が不安で、怖くて本を何冊も盗んでしまった。

大丈夫ですよ、盗んだ本は僕がこっそり返しておきます。この一万円でおいしい物でも食べて、早くお家に帰っておやりなさい


とか書かれてましたね。



「あいつ良い奴なんかい!」

吹谷ふきたに君〜!善良な一般市民を振り回しちゃ駄目だよ〜」


「僕も反省してます」

「しかし、こんな変な奴に見られてたとは…正直ショックでしたね。」


「…え?…フッ、いゃ…、、大丈夫っ、だよ!いつもそんなだし」


「今笑いませんでした?ねぇ、笑いましたよね!?」


「あ?いや?その、ごめんね!」


「いいや!こればっかりは僕も許せません!今度こそ土下座です!ここで土下座してください!」


「いやほら、あれだ!さっき『保留』にした賄賂さ、許すからさ、ほら!許してよこの通りだよ」


「……!」

「いやでも!でも、うぅ…、わか、分かり…分かりました。」





「ねぇ〜!ごめんてば!そんな怒んないでよ吹谷ふきたに君〜!」


「いや、別にもう怒ってないですケド」

「本当に『あ、先輩いつも僕の事変な奴だと思って接してくれてたんだな〜…』程度にしか思ってませんから」


「めちゃくちゃ根に持ってるじゃん」

「ごめんって!謝るよ!あぁそうだ!前言ってたケーブル、見つかったんだよ!これで遊ぼう、ね?」


そう言った先輩の両手には通信ケーブルと携帯ゲーム機2台があった。


「おっ、ゲームっスか!」


「いいでしょ?この前君に言われて思い出しんだよね〜」


「へぇ〜!懐かしいな〜!そういや今年は通信ケーブルあげたっけなぁ〜」


「そうなんだ、今時そんな子が…って、ん?ちょっと待って吹谷ふきたに君、キミ今なんて?」


「え、だから『通信ケーブルあげたなぁ〜』って」


「………吹谷ふきたに君。」


「はい、なんでしょう?」


「それも今ここで話せ。」


「あれ?どうしたんスか先輩、急になんか怒っちゃったり…」


「おい、吹谷ふきたに。話せ」


「……はい。」

「あれは12月25日、僕が田中たなか 裕太ゆうた君の家へ行った時の事です――」



結局、吹谷ふきたには今まで隠してきた秘密を洗いざらいぶちまける事で事なきを得たのだった


おまけ①―完―

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見習いサンタクロース 鈴鹿 葦人 @hituki-nozomi

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