CASE 2.5 上野 奈々 その後

―12月26日 朝―


上野家にはかん高い声が響いていた。


「ねぇ!誰か私の部屋入ったでしょ!?」


「どうした?」

「どうしたの?」


娘の大声を聞いた両親が心配そうに駆けつけると、そこには取り乱した様子の娘と散らかった部屋があった。


「もう最悪!最悪!最悪!無くなってるんだけど!」


「いったいどうしたって言うの?」





「いやー終わった終わった!今年も頑張った〜!そうだ吹谷ふきたに君、何か頼もうか」


「いいっスね〜!寿司で良いですか?」


「ああ頼むよ!…って、吹谷ふきたに君、どうしたの?」


「なんの事ですか?」


「いや、だからそのノートみたいなの」


「……あっ!」

「いやっ?あの、これは、ですね…」



「―で、日記を戻し忘れたあげく、そのまま持って帰ったと。」

「………吹谷ふきたに君?」


「はい、ごめんなさい」


「もうほら、過ぎた事はいいから、どうするの?その日記」


「はい、責任持って返してきます」


「よろしい」





「まぁまぁ、落ち着いて。ね?一緒に探そう?」


「時間やばいな…悪い、俺仕事いってくる」


「あぁはい、行ってらっしゃい」


父がツカツカと音を立てながら、玄関の扉を開け、車に乗り込みエンジンをかける。

少しづつ、ほんの少しづつ自分が迷惑をかけてる事に対する罪悪感が増えていく。


「もういいよ、母さん自分で探すから」


「あら、そう?」

「じゃ、朝ご飯置いとくから、早く食べなさいよ?」


「はいはい、わかった」





「……もぉ、どこぉ?」


半泣きで部屋を探し回る奈々なな

部屋には重い空気がただよっている。

――コンコン!

そんな空気を逃がすためか、音の方角では閉めていたはずの窓が開けられていた。


「なんなの…。」


小言を言いつつ、窓を閉めて振り返ると、机の上にはさっきまで探していた日記と正方形の袋が置かれていた。


「え?これって私の…」


試しに鍵を差し込むとぴったりとはまり、見覚えのある内容が書かれている。

不気味に感じる奈々ななだが、それ以上に気味が悪いのは日記の一番最後のページだ。

自身のものとは似ても似つかない筆跡で、ただ一言「ごめんなさい。」と書かれていた。


「…いやなにこれキモ。」

「あ、そういやこっちは?」


恐る恐る袋を手に取り、中を見る。

ひらひらと舞い落ちるリボンと包装紙の奥には奈々ななが愛してやまない小説家、その本人が書いたであろうサインが入っていた。


「え?うそ!」

「やった!え?!」


喜んでいる様子を見た吹谷ふきたにはそっと胸を撫でおろすと、バレない内に窓を開け直し、身を乗り出す。


「……。」


ふわっと吹いた冬の風を気にもせず、後ろを向いたまま、出て行く吹谷ふきたにに気づいているのかいないのか、少女は一言


「まぁ、今回だけ…許したげるよ」


と返事をした。

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