CASE 2 上野 奈々

―12月25日 19時頃―


「よし、1軒目終わり!このままペースアップしてくぞ!」


体があたたまってきたのか、トナカイの足が少し速くなる。自分も火照った体に当たる小雪が心地よい。


(次の家、たしかさっきの資料では――)


上野うえの 奈々なな、中学1年生 13歳


(うん、そんなだったな)


「中学生が欲しい物か………」

「欲しい物………」

「………」


(全然分かんなくね?)


そう、この仕事で一番難しいのは思春期の子どもへのプレゼントである。

理由は簡単、大抵の子どもは大きくなるにつれ、多くの物事に触れ、そして多くを経験する。その過程で趣味嗜好、すなわちプレゼントの選択が増えるのだ。


「もういいや!現地で考えよう」

「それにほら、もう家着いちゃったし」





「よっこらせっと」


少々おじさん臭い掛け声と共に吹谷ふきたにが屋根の上へと着地する。

トナカイをその場に留まらせ、素早い手際で窓を開くと、部屋の中へ侵入した。


(ぱっと見た感じ、The女の子の部屋だ。)


本棚には可愛らしいぬいぐるみと下段へと追いやられた漫画と小説達。

机の上にはやりかけの宿題らしき物がある。


(これだけじゃ何が欲しいかわかんないな)


吹谷ふきたには必死で辺りを見回し、ヒントを探す。

ベッドの下、クローゼットの中、本棚の裏、しかし全てヒントにはなり得ないものばかり。


(あとは――)


そっと開いた机の引き出しには鍵付きの日記帳がしまわれていた。


(こういうの見ていいものか、うーむ…)

(うん、こういう時は先輩の教えだ。何か言っていたはず)



「先輩、もし相手の欲しい物が分からなかったらどうするんです?」


「あぁ、その時はな、その子が一番多く持ってる物を見なさい」


「…そんなの役に立つんスか?」


「もちろんだよ、人は物を集める時、嫌でも本人の趣味嗜好が反映されるものさ」



(ありがとうございます先輩。僕、分かった気がします。)


吹谷ふきたにはおもむろに本棚へ向うと、自身のスマホで本棚の小説を検索し始めた。


(この部屋で一番数が多かった物、それはこの推理小説だ)

(…つまり――)



「それに、君も漫画を集めてるだろ?」


「え?はい」


「じゃあ本棚とか、その漫画の最新刊がほしいわけだ」


「おぉ!よくわかりましたね!」


「だろう?」

「おっと、話が逸てしまったね。とにかく、その人が何を大切にして生きているのかを見る。それで大体なんとかなるよ」


「まぁ、すね」



本棚に並ぶ小説達、それは全て同じ作家の物だ。それに、よく見てみると漫画は小説のコミカライズ作品、上に置かれたぬいぐるみはこの作品に登場するキャラクター。


(つまりだ。この子が欲しい物は――)


「『この作家に関する物』だ!」


咄嗟に出した声で奈々ななの睡眠が乱れる。

吹谷ふきたには気づかれる前にクローゼットの中へ存在を隠す


「………。」


数分間様子を見た後、口を押さえながらプレゼントをその場へ置き、逃げるように屋根の上へと向かった。


「ヘイ、トナカイ!トナカイさん!走って!ほら、早く!バレちゃうから!」


眠りこけているトナカイの背中を叩き、夢の中から連れ戻す。

起こされた彼は、寝ぼけた頭で吹谷ふきたにの脇腹に強めの蹴りをかまし、雪空の奥へと駆けてゆく。


「よ〜し今回も…ま、まぁ、成功。かな?」


汗だくの吹谷ふきたにの戯言をトナカイが鼻で笑う。


「えぇい!次だ次!」



こうして一人、また一人とプレゼントを届けた吹谷ふきたに君。

しかし、彼を待つ子供が残っている限り聖なる夜は開けない

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