CASE 1.5 田中 裕太 その後

―12月26日 朝―


「…た!…うた!…裕太ゆうた!」


「…ん〜?」


母の声で布団から目覚める。


「それ、サンタさんからじゃない?」


「ほんと!?」


よく見ると枕元の靴下が膨らんでいる。

きっとサンタさんが僕にプレゼントを贈ってくれたのだ。

ワクワクしながら靴下の中から箱を取り出し、包装紙をビリビリと破いてゆく。


「ゲームだ!しかも一番新しいの!これでみんなと遊べる!」


「あら、よかったわね」


嬉しそうな裕太ゆうたを見て母も嬉しそうに微笑み返す。





しばらくして、なかなか朝食を取りに来ない事を心配した母が様子を見に来ると、そこには「あーでもない」、「こうでもない」と首を傾げている裕太ゆうたがいた。


「…?お母さん、これ何?」


「え?ゲーム機じゃないの?」


「あ、うん、でも何か変なのもついてる」


そう聞いてくる裕太ゆうたの手には1本のケーブルが握られていた。


「………!あ〜っ!懐かし〜!」


「え?これ何なの?」


「通信ケーブルよ、通信ケーブル」


「なにそれ?これに使えるの?」


「う〜ん、使えないんじゃない?」


「へぇ、じゃあ要らない」

「…あ、そうそう!ゲーム、充電しといてくれない?帰ったら遊ぶから!」


裕太ゆうたは少しがっかりした様子だったが、それよりもゲーム機を貰えた事がが嬉しい様に見える。


「はいはい、分かった。やっとく」


(それにしても、今年は随分とおっちょこちょいなサンタさんが来たわね…)


食卓へと向かう裕太ゆうたを尻目に、母はコンセントに充電器を差し込む。





「――てなわけでして、、」


「…はぁ、まぁでもゲーム機は最新のを渡したんだろう?」


「あぁ、はい!一瞬ゲームボーイにしようかとも思ったんですけど、『最初に思いついた物にしろ』ってのを思いだして」


「これでゲームボーイを渡していたら説教だけでは済まなかったぞ」


サンタの説教をものともせず、吹谷ふきたにがゲーム画面を見せて問いかける。


「そんなことより、この子ってどこで捕まえられるんですか…?」


「そんな事ってな…あぁ、マップの右下にある島をさらに下った海で出てくるぞ」


「えぇ…めんどくさいな、じゃあ交換しましょうよ!ケーブルも見つかった事ですし」


「そうだな!せっかくだ、バトルもしよう」


「いいっスね!」



その後、普通にサンタクロースを打ち負かし、一日だけ吹谷ふきたにが先輩となったのは別のお話。

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