「霧の魔王」

泡沫

プロローグ

ヨハンナ・ゲーテは、崩れ落ちた廃墟に立っていた。漆黒のドレスが夜風に揺れ、その瞳は燃えるように赤い炎の向こうを見つめている。炎の先には、無数の瓦礫と、誰のものかも分からない断末魔の叫びが混じり合っている。その光景を見ながら、彼女はゆっくりと口元を歪ませた。

「もう少しよ。もう少しで____」

地面に転がる瓦礫の中から、少女の姿がふと脳裏に蘇る。名をシャルロッテ。かつて、ヨハンナが唯一「守りたい」と願った存在。彼女は、己の胸に宿るわずかな痛みをかき消すように踵を返す。

一方、同じ空の下、別の街でレフ・トルストイは瓦礫に膝をつき、目の前の傷ついた子供に手を伸ばしていた。血に濡れたその手で、彼は穏やかな声を漏らす。

「大丈夫だ。僕らが必ず君を助ける。」

彼の背後では、仲間たちが準備を整えている。新たな戦いが迫っているのだ。瓦礫の街を覆う炎の影――それが『グレートヒェンの涙』の仕業であることは明白だった。



二人の思想、二つの信念が交錯する時、世界にどんな運命が訪れるのか。

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「霧の魔王」 泡沫 @Utakata_Dm

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