第1-4夜 我戦う、故に我あり

 翌朝、俺達を起こしたのはラッパでもなく、沸騰したやかんみたいな上官の怒号でもなく、少女のいたずらでもなく、敵の爆撃であった。

 クソッ、あいつはどこで何してやがんだ……周りを見渡すと、俺は心臓が雑巾のように絞られたような気分になった。なんと、あいつは負傷しながら横たわっているではないか!


「おい、大丈夫か!しっかりしろ、今すぐ救護班に届けるからな!  」


 近づくと、そいつは何事も無かったように寝ているではないか…俺の縮んだ寿命を返して欲しい。呆れていると、枕元に1枚の紙切れが落ちていた。そこには、彼女からのものであろうメッセージが書かれていた。


「おはよう。爆撃アラームで起きれたか? 」


 あれで起きない奴がいるだろうか、お前だけだ。


「私はスリープモードに入った。だから戦闘に参加することは出来ない。代わりに、情報を与えておく。」


 俺はまた自分が狂うんじゃないか、夢の旅から戻れなくなるんじゃないか……と、不安に支配されていた。なんだかんだ言って、この少女に助けて貰ってばかりなのだ。


「爆撃が終了後、相手の攻撃が始まることになっている。ほとんどの味方は爆撃の影響で動けない。ここで勝たなければ全滅の可能性がある。」

『英雄になれ』


 自分がやるべきことは決まった。俺は動ける味方を掻き集めて相手の攻撃に耐えなければいけない。そして、この夢の旅から現世に戻るのだ!

 

 俺は基地内を駆け巡った。被害は甚大であり、特に指揮系統のダメージが大きかった。動ける者を掻き集めて、指揮ができる上官に防衛の準備をするよう頭を下げた。結果、完全では無いものの我が軍は防衛準備を整えることが出来た。


 爆撃から数時間後、少女の言った通り敵軍が突撃して来た。俺は銃を撃てる限り撃ち続けた。銃から手を離すことはできなかった。だが、前日とは違った。血や火薬の匂い、爆発や悲鳴などは全く感じなかった。ただ生きることのみを考えて戦い続けた。眠る彼女の前で約束したからだ。


「絶対に生き残って、帰ってみせる!あいつと一緒に! 」


 夕陽が落ちる頃、敵はほぼ壊滅していた。俺は墨汁バケツ一杯を頭から被ったのかというくらい真っ黒だったらしい。そして、俺は塹壕から飛び出して高らかに宣言した。


「我戦う、故に我あり!!」


 夜には彼女のスリープモードも終了しており、基地内ではお祭り騒ぎであった。上官が言うには、英雄として国から受勲することになったらしい。


「なんでスリープモードなんかになったんだ? 」

「あなたが確実に英雄になるため。」

「そうかい。伝言ありがとな」


 礼を言うと、彼女の頬が僅かに紅潮したように感じた。いつも硬い口調で笑いもしない彼女にも、感情はあるのだろうか……

 

 ドンチャン騒ぎの翌朝、緊張によりロボットの如き動きを見せつつも受勲式を終えた。誇らしく勲章を見つめていると、少女が夢の終了を伝えて来た。


「この世界ともお別れなのか……少し怖かったけど、楽しかったな」

「生還出来てよかった。ではあの部屋に戻る。」


 そして、朝日輝くこの世界の崩壊を見ながら俺は少女と出会った部屋へと戻って来た。

 少女は勲章を本に埋め込み、本棚にしまった。古時計を見ると針は6:59を指していた。そろそろ現世の俺が起きる頃合いだ。

 

「なぁ、またここに来ていいか? 」

「いい。またdボタンを押せばここに来れる。いつでも待っている。」


 俺は安心した。ここならどんなに退屈でも、どんな鬱憤でも何とかなりそうだと思っていたからだ。

あわよくばまた学校に……


「もう時間。心の準備をして。しないと全てを忘れてしまう。」

「わかった」


 もう戻る準備は出来ていた。だが、一つ強烈に頭に引っかかるような心当たりがあった。


「なぁ、君の名は?」


「藤堂 灯」


「いい名前だな……」


―――――――――――――――――――――――

 起床。俺は当分この夢の旅路を忘れられそうに無く、怪しいサイトが映った画面を眺めていた。










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夢の旅 クソエイム @kusoeimu

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