第1ー3夜 旅路の心構え

 起床。振り向くと、少女がじーぃっと俺を見つめていた。


「なあ、なんで俺はここにいるんだ? 」

「戦闘中、負傷したことにしてある。」

「どういうことだ、できるだけ簡潔に説明してくれ。」


 俺の記憶は敵を3人倒した後、何人か倒したくらいまでしか残っておらず、その後の酷い有様については全く身に覚えのない話だった。蹴飛ばしたこと、銃を向けたことについて謝ったが、なんとも素っ気ない返事を返されてしまった。彼女は怒っているのだろうか……それとも、元々感情のない性格なのだろうか……


「ところで、どうして撃った銃弾は当たらなかったんだ?俺が先に構えてたんだろ? 」

「拳銃の方には反動アシストはつけてなかった。おかげで銃弾は空の彼方へ行ってしまった。あなたがクソエイムで助かった。」


 彼女を殺さずに済んだことに安堵はしているのだが、なんか馬鹿にされているような気がした。大事ではあるが、特に重要でもない予定忘れていいるような気分だった。ていうか、『クソエイム』なんてワード使うのかよ……


「でもこれじゃあ英雄伝説は鳴かず飛ばずで終わりじゃ無いのか……戦場に行って狂乱状態になってまたここに戻ってくるなんて、変な意味で伝説になっちまうぜ……」

「あなたはまだ夢の旅路の心構えが整ってない。」


 心構えってなんだ?防犯の『いかのおすし』とかか?あるいは、社会人の『報連相』ってやつか?


「違う。夢から現実へ無事生還するためのルール。」


 そういうことはもっと速く言ってくれぇー!危うく帰らぬ人となるとこだったぞ、俺!


「大丈夫。最悪の場合は夢を無かったことにして強制的に現世に送り返す。ただ、この夢の旅路にアクセスすることはもう出来なくなる。」


 とんでもなく重要案件であった。事なきを得たのは不幸中の幸いと言える。


「お願いだ……説明してくれ。」

「分かった。」


 すると、いきなりホワイトボードを生成しなんか、同人誌に出てくる女教師のコスに変身した。


「初心者必見!夢の旅路の心構え紹介のコーナー」

「ワーイドンドンパフパフー」

「一つ、絶対に自我を見失わないこと。

 二つ、絶対に夢であることを忘れないこと。

 三つ、絶対に私の側を離れないこと。

 四つ、体がおかしくなったら強制離脱すること。

 五つ、絶対に生きて帰る強い意志を持つこと。」

「おおーーー! 」


 おい待て、全然聞いてないものばかりだし、強制離脱ってどうやればいいんだよ。


「そういえば渡してなかった。」

「もしヤバかったらどうするんだよ...」

「テヘペロ。」


 確信犯かこの野郎……。そうして渡されたのは強制離脱装置。名付けて『脱兎の笛』。この笛を吹けば少女と会ったあのけったいな個室に戻れるらしい。見た目は銀製でカッコイイのだが、息を吹く方の口が兎のケツ側なのがどうもいやらしい。作ったやつの顔が見たい。そして殴りたい。


「製作者は既に亡くなっているので会えない。」


 それは残念だが……違う、そうじゃない!


「まぁ、なんとなく理解した。これで次からは問題無く戦えるな」

「よろしく。私は寝る。おやすみ。」

「夢の中で寝るってのは問題無いのか……」

「無い。」

「そうか、今日はありがとう。おやすみ」


 こうして、英雄(仮)の一日目は終わりを迎えるのであった。

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