嫌いではない

―――七夕祭翌日、隣で眠っていたはずのアリシアが消えていた。

だからと言って、昨日の出来事が夢だったわけではない。だって、アパートの床には星が入ってきた時の衝撃で出来た傷が残ってるから……これ、賃貸アパートなんだけどなぁ。


まぁ、アリシアと会えただけでプラスなのだけど。


それにしても昨日はあちらの世界のでの話を沢山聞くことが出来た。

まさかミーニャとミリアーテが結婚するなんてなぁ……以外にも程がある。

ブレストは、居なくなった俺の事をあまり心配して居ないらしい。……俺なら大丈夫だって、信用してるとかなんとか。


それにしても七夕って凄いな。本当に願いが叶うなんて彦星と織姫に感謝しないと……いや、天の川に感謝すべきなのか?


そして多分、きっと、間違いなく、これからと七夕になればアリシアと会える。

そしていつか……七夕とか関係なく、会える日が来る。


俺はその日が来るのを信じている。

魔獣関係の問題も最近じゃ落ち着いて来てるらしいし。

……本当に安心した。



七夕祭から数日が経ち、俺が仕事から家に戻るとリローに足を踏まれる形で話が始まる。


「おいビリー、私に名前をつけろ」

「……は?」


こいつは、一体何を言っているのだろうか。夏の暑さに気でも狂ったか……?

エアコンの設定温度は27℃である程度は冷えているのだけど。


「新しい世界で、お前はビリクトからビリーになった。なら私も新しく名前が欲しい」

「え、めんどくさい」

「いいから、つけろ」

「普通にリロとか?」

「それは呼び方は既に居るだろ」

「蟹江さんと被ったらダメなのか?」

「ダメだ」

「じゃあ……ロリ」

「ダメだ」

「マロ」

「それはわたあめに似たやつの名前!」

「じゃあ何がいい?」

「……」


ノーコメントか。


「やっぱりリローでいい。お前、センスないよ」

「リロー」

「リローだ」


本当に、平和だ。これが日本の勇者と魔王……前の世界でこうだったら良かったな。


「なぁリロー、この世界のこと、どう思う?」

「前の世界よりは……嫌いではない」


ただ、今はこの平和を、かみ締める。

そしてこの平和が、続きますように―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

英雄は日本に転移した ゆずリンゴ @katuhimemisawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画