それでも世界は回っていく

―――生まれた時からある枷が私の自由を奪った。

奇形で生まれた私は口が変に裂けていて、自我が目覚めた頃の食事も液体の物をチューブから摂取する物で。

今思うと家族からおかしかった。

父親なんていないし、母親は何かに取り憑かれたかのように狂っていたんだ。

そんな人生は……いつ終わったのかも覚えていない。

学校……というのに通っていたのは覚えて居るが……通っていた事だけで、そこで何があったのかは何も。

私の記憶はツギハギだ。

人間の頃の名前も覚えて居ないのだから。


次に覚えているのは魔王リローとしての記憶。

今度は見た目は整った女の子だ。それなのに今度の私は魔獣だった。

人型の魔獣。だけど、魔獣は実力主義で。

弱い私は直ぐに命の危機に陥った。

とちらの世界でも弱い私は、世界を憎んで、恨んで。

悪い感情に満たされた頃に、私の顔は前よりも、もっともっと醜く変わっていた。こんなに醜いのに女の子。

その事実を隠すように、また何かで覆って、それを繰り返して、生まれたのが魔王リローだ。



―――世界を恨み、人間を恨み、全てを巻き込んで自殺しようとした魔王リローの正体は……世界に愛されなかった、1人の少女だった。

これが、真実だった。


「どうだ、同情するか?」

「……してほしいか?」

「さぁな。私には、分からない」

「俺は、しない。お前が俺とアリシアを引き離した事には変わらないからな」

「……そうか」

「というか、結局平和ってのは……絶対じゃなかったんだな。こっちもこっちで平和じゃないやつはいる。あぁ、俺は決めたよ」

「なにを……?」

「あっちで俺らは散々争った。ならこっちでは平和にいこうって提案だ。っていうか命令だ」

「……身勝手だな」

「世界って、そういうもんだろ?」

「……たしかにな」



―――七夕祭を終えて、俺は今家に戻ってきたのだが……


「おいビリー、七夕ってなんだ」


なぜこいつは俺の家に居るんだ?いや、七福さん宅に戻ったらまた着替え地獄が始まるからって言ってたけど……というか、娘さんが帰るまでは当分こいつと2人暮らしになりそうだ。


「七夕ってのは……まぁ、年に一度だけ会える織姫と彦星って奴らの為のイベントだ」

「そうか」

「俺だってアリシアと会いたいから毎年願ってるんだけどな……10年も会えてないんだ」

「可哀想だな」

「お前のせいだぞ」

「ふん」


そっぽ向いて……はぁ、子供だ。魔王の時のコイツって何処から来てたのか……


「そういえば七夕と言えば天の川ってのがあって……それを渡って合うんだよな」

「……天の川?」

「そ、今日とか雲もほぼ無いし綺麗に見える」

「……確かに、凄いな」

「あれだけ綺麗に橋が出来てたら今頃織姫と彦星はラブラブだろうな」


はぁ……アリシアは今あっちの世界で何してることやら。


――――ツー、ツー、


「おい、今の音はなんだ?」

「……え」


―――ツー、ツー、


よく分からない音と共に、何か、胸のざわめきを感じる。


「ビリクトーーーー!!!」


部屋の中に、星が……落ちてきた。

そしてその星の中から声が……え?

なんでアリシアの声が?


「アリシア……なのか?」


すると、星が割れて―――


「ビリクト会いたかったよぉぉぉ!!!」

「え、待って!なんで……え?」

「あのね!10年間ね頑張ってたらなんかよく分かんないけどこれが前に現れね!乗ったらここにきた!」

「……アリシア!俺も……会いたかった!」


奇跡だ。もう、会えないと思ってのに……また会えるなんて。


「えへ、えへへ……照れる」

「あ、ごめん」

「ううん、いいの」

「確かに……ラブラブだな」


え、あ、……リローのこと忘れてた。


「え!?誰この子……まさかビリクトの」

「いや、違うから!こいつは……その、あれだ!弟子!」

「弟子?」

「そう、なんかこの世界で仲良くなった人の子供で、弟子になりたいって言うから!」

「……良かったぁ」


ややこしいことになる位なら、今は誤魔化す。こいつが魔王リローとか言えるわけが無い……


「ところでさ、アリシアの世界のこと……聞かせて欲しいんだ。俺のいなかった10年間のこと―――」


(終)














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