七夕祭

七夕祭当日、俺はリローと祭りを回ることになった。

だが、それはあくまでも監視の為だ。

仮にも魔力の動力源である角が生えたままである以上、コイツは魔術を扱う事が出来る。

今はまだ誰にも危害を加えていないが、いつ本性を表すか分からない以上は勇者である俺が監視する必要が……あるのだ。


「おいビリー」

「なんだよ」

「あんなにも勇ましかった勇者ビリクトが今ではビリーなどと腑抜けた名前だなんて……笑えてくるな」

「そりゃあ、この世界は平和だからな……あっちと違って勇者なんて存在は必要ないんだ」

「……」

「それに、俺よりもお前のがよっぽど変わったよ。こんな暑いのに長袖のキラキラした奴が着いた可愛い服着て……今のお前を見て魔王リローだって分かるやつなんて居ないだろ」

「……これは!私の意思じゃない!」

「はいはい。まぁでも似合ってるよ」

「貴様に褒められても嬉しくない……」

「そうですか。……ちなみにお前なんか食いたい物ってある?」

「ない……何があるか分からないし」

「じゃあ、日本に来て10年のベテランの俺が美味しいもん教えてやるよ」


俺がそういうと、リローはそっぽを向く。

この姿を見ていると、こいつが憎き魔王リローであることを忘れそうになる。

本当に、ただの子供にしか見えない。

……まぁ、ここは七福夫妻からお駄賃を貰っている以上は何かしら美味しいものを食べさせてやるさ。

なんたって今日は七夕祭。

彦星と織姫が会える年に一度のめでたい日を祝う、特別なお祭りで……俺も、再開したい人達の事を想ってこの祭りを楽しむ。



「まぁ、混まないうちに……焼きそばは買うとして……」

「なんだ、ブツクサと……頭でもおかしくなったか?」

「いや、あんまり並びたくないから。待つの苦手なんだよ……」

「そうか……」

「最初はたこ焼きから行くか」

「……たこ焼き?」

「なんか、フワフワしててカリカリしててタコっていう奴が入った食べ物だ」

「フワフワでカリカリって矛盾してるぞ」

「実際そうなんだよ」



「―――あふっ、……おい、熱いぞ」

「そりゃあそうだ。でも熱い方が美味いんだ」

「……食事は、めんどうくさいな」

「でも、美味いだろ?」

「熱くて分からん」



「んっ!この冷たいのはいいぞ」

「かき氷だ」

「……いや、待て!頭が……毒入れたか?」

「入れてない。一気に食うと頭が痛くなるんだよ」

「先に言え」

「舌見てみろ」

「黄色くなって……呪いか?」

「着色料だ」



「これはつるつるしてるな……」

「焼きそば。安定して美味い」

「……不味くは無い」

「それしか言わないからお前は何が好きなのか分かんないな」

「焼きそばが、1番マシだ」

「そうですか」



「これはフワフワして……舌で溶ける。でも甘すぎる……あとベタベタと……これはデロンチュリンの糸玉か?」

「綿あめだよ。あんな猛毒糸玉と一緒にするな」



「次は……射的でもするか」

「射的とはなんだ?」

「えっと、とりあえず打つやつ。見れば分かる」

「……あれは武器ではないか」

「間違ってはない。まぁ、ものは使い用だからな」

「なぁ、当たらないぞ」

「射的って難しいんだよな……」

「あ、当たった!」


熊の人形に弾が当たった……が、倒れな

い。


「おい当たったぞ!」

「いや、倒さないとダメなんだよ」

「……そうなのか?」


少し潤んだ目で射的屋の人を見つめて……これが魔王か。


「あ、いいよいいよ!これあげちゃう!」

「……貰ってやる」

「ありがとうございます、だろ」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」


感謝の言葉、言えるじゃないか。


「次は何処に行くんだ?」

「……リンゴ飴だな」

「リンゴ飴?」

「リンゴっていう果物に飴をコーティングするんだよ」

「リンゴも飴も知らぬ」

「……なら、いつか食えばいいさ」

「そうか」


―――そうして、1つのリンゴ飴を渡す。


「うむ、じゃあこれ持ってくれ」

「え、俺が持つのか?」

「片手が塞がるのだから仕方がないだろう」

「そうすか」


ほんっと、……ただの子供だ。

あっちでは、世界を恐怖に陥れた恐怖の魔王だったのに……何も知らない、普通の、無垢な子供にしか―――


「なぁリロー」

「なんだ」


リローは、俺の事を曇り1つ無いような目で見つめてくる。


「お前って、子供だったのか?」

「……は?」

「お前は魔王である以前に……子供だった」

「馬鹿にしているのか?」

「そうじゃない……お前は、元々この世界を生きる、子供だったんじゃないかって」

「……どうだかな」


リローは、少しとぼけたような顔をする。


「今更だけど……おかしいんだよ。日本語話せるのが、おかしいんだ。俺はさ、この世界にきて日本語話すのに結構時間がかかった。でもお前はそうじゃなかった。それは、お前が日本に生きる子供だった頃があったからじゃないか?」

「……まぁ、そうなのかもしれないな」


こいつは……この平和な国に生きてて、それなのに、俺の元いた世界に……一体、なぜ?


「なぁ、リローお前の事、教えてくれよ」

「そんな大した過去なんてない」

「真剣に、教えてほしい。これは勇者ビリクトとしての頼みだ」

「はぁ……大したことないと言ったのに。それに私もよく分からないんだ」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る