望まぬ再開
「久しぶりだなビリクト!私こそが―――」
何故だろうか。なぜ俺の住むアパートに昨夜、七福夫妻に保護されたはずの少女がいるのか。
そしてなぜ……
「魔王リローの生まれ変わりだ!」
それが因縁の魔王リローを名乗っているのか。
「すまねぇビリー。この子がなぁビリーに会いだいって言っで聞かねぇんで連れて来たんだ」
「あぁ……そうなんですね」
「おい!ビリクト!この私を前に呑気に会話だなんて勇者ともあろう物が腑抜けたなぁ」
正直に、少女の姿になってるコイツには言われたくは無い。
それもピンクのフリルを沢山つけた可愛らしい服を身にまとっているのだから恐ろしいだなんて思いようがない。
まぁ頭にある角を見る限り普通の少女で無いことは間違いなくて……魔王リロー本人であることも事実なのだろう。
「あらあらリロちゃん、難しい言葉を沢山知ってるのねぇ」
「舐めた口調を聞くな!!それにこの私をリロちゃんなどと!」
「怒った顔も可愛いでちゅねぇ」
「子供扱いするな!」
あぁ、これは一体どういうことなのか。
「なぁビリー、やっぱりこの子はおめぇのいた世界こら来たのか?」
「恐らく……ですが容姿が似ても似つかないんですよね」
「おい忘れたのか?道ずれにすると!私とお前は同じ技でこの世界に来たのだ!」
「ところでビリーちゃん、羊羹持ってきたんだけど食べる?」
「あぁ、頂きます。……お茶入れるので、お湯沸かしてきますね」
「おいビリクト!話を聞けー!」
◇
魔王リローとちゃぶ台を前にお茶を交わす日が来るなんて、誰が思っただろうか。
特に、素直に蟹江さんの膝の上に素直に乗っているのは理解できない。
「なんだ、何を見ている」
「いや……人間嫌いのお前が膝の上に乗っているものだから……」
「勘違いするな。あくまでお前に上から見られたくないから乗ってやってるだけだ」
「リローちゃん、アーン」
魔王リローが爪楊枝に刺された丁寧に1口大に切られた羊羹を食べさせて貰っている。
「美味しい?」
「うむ、不味くは無い」
「なぁリロー、そこは素直に美味いと……」
「不味くはない……」
魔獣が食べるのは基本的に人間だ。
そして人間が食べるのは野菜と、魔獣だ。
しかし魔王リローはそのどちらでもないと……俺達に言った。過度な人間嫌いであるリローは何も食べない。それ故に寿命が長くなかったリローだが、最強であった。
そんなリローが考えたのが―――世界を巻き込んだ自殺。
自分が死ぬ前に人間を滅ぼし、仲間であるはずの魔獣すらも……
魔獣は食わないくせに自殺には巻き込む。
仲間だと思っているのかそうじゃないのか、よく分からないやつだ。
まぁ、そんなリローが初めて何かを食した訳だが……羊羹を美味そうに食べている。
本人は仏頂面を貫いてるつもりだろうが、今にも頬が落ちるんじゃないかという位に緩んでいる。
「ところでリロー、さっきの言葉はどういう意味なんだ」
「そのまんまだ……美味くはないが不味くも無い」
「違う、この世界に来た方法についてだ」
「……そのまんまだ。お前と私は同じ方法でこの世界に来た。だが……私は1度命を落とした事で、魂を再形成することになった」
どうやら10年分のタイムラグの原因はそれのせいらしいが……
「その見た目はなんなんだよ」
「あぁ、それはだなぁオラの娘がなぁ可愛い子だ!って着せ替え人形しちまってな……」
「あ、えっとそうなんですね」
……服装の方じゃないんだけどなぁ。
「私は……元から……いや、なんでもない」
そうして言い淀んだ後、魔王リローは再び羊羹と茶へ手を伸ばした―――
◇
ゆっくりとした時間も流れ、七福夫妻がリローを連れて帰ることになった。
「ほらリロちゃん、お家に帰りましょうね」
「嫌だ!帰ったらまた着替えさせられる!」
リローがまるで普通の子供のように暴れている。
「あぁ、そうだビリー。七夕祭にリローちゃんと一緒に行ってくれねぇか?」
「え……?」
なんで恵比寿さんがそんな申し出を……
「いや、オメェらが前の世界でどんなことあったかわかんねぇけんど……ちゃんと2人で話せば分かることってのもあるとおもんうだ」
「……考えときます」
それは例え恵比寿さんからの言うことであろうと……俺にはこいつと分かり合える気なんて到底しない。
俺とアリシアを引き離したコイツとなんて。
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