温かい人
(ピンポーン)
『ビリーさん居るかぁ?』
インタホーンが鳴ると、老人男性の低い声が扉越しに発される。
そして今呼ばれたビリーというのは日本での俺の名前だ。
若くして髪色が白いであるのと日本に飛んできたばかりで言葉を上手く扱う事が出来なかった俺は、不法入国した外国人になりかけたのだが色々手を回してもらって遠い親戚の家にホームステイに来たビリーとして生きてきた。まぁ、それは10年前の事で今は正式に日本戸籍のビリーなのだか。
おっと、変な事を考えていないで早く出なければ。
「はい、今行きます」
そうして扉を開け、物腰柔らかい笑顔が特徴の七福家の
「恵比寿さん、いつもお世話になってます。本日はどういった用事でしょうか?」
「おぉ、ビリー。元気そうじゃな。今日はなぁ町内のお祭り事について手伝いをしてもらいたいんだが……」
「町内のお祭り……あぁ、そういえば
「そう七夕祭。……そういえばビリーが来た日も丁度七夕祭の準備をしていたなぁ……もう10年前になる」
「そうですね。もう10年も……時間流れって恐ろしいですね」
本当に、あの世界のこっちでは時間の流れが違うんじゃないかという程にこちらは時間が経つのが早い。
まぁ、実際にこちらの方が早い可能性もあるのだが、それを確かめる方法は無い。
「あー、ほんで今年は七夕祭の準備について―――」
◇
「あぁ、若者の手を借りると作業がサクサクと終わっていいなぁ」
「いえいえ、皆さんが先に細かい作業やってくれたお陰ですよ。俺、細かい作業とかってあまり得意じゃないので」
「ま、ビリちゃんって本当謙虚ねぇ。ここらへのビリーちゃん位の歳の子なんてほとんと都会に行っちゃうから、ビリーちゃんは本当村のお宝よ」
「ははは……」
作業が一通り終わり、恵比寿さんと恵比寿さんの奥さん……
「ね、ビリーちゃんって今何歳だっけ?」
「えぇと……28ですね」
「ウチの子は27なんだけどねぇ、近々ね都会から戻って来るみたいなのよ。良かったらお見合いとかしてみない?」
恵比寿さん所の子供か。そういえば都会に出て今は夫婦2人で暮らしているって昔に聞いたな。
「いえ、俺……心に決めた人がずっと前からいて」
「あら!あらあら!そうなのねぇ」
「ビリーに心に決めた人が!なんだオラも聞いたことねぇぞ!水臭いでねぇか」
「とは言っても、あっちの世界での人なんですけどね……」
「あぁ、そいつァわりぃ事聞いちまったな。なんだ、でも七夕祭で祈れば……いつかな…」
「はい」
―――七福夫妻には、俺の過去を打ち明けてある。
なにせ、俺が日本に転移して初めてあった人達なのだから。
出会ったのは丁度10年前、七夕祭の準備中に俺はどうやら空から落ちて来たらしい。
まぁ、落ちてきたとは言っても空高い所からではなく地面から3m程の所だ。
それでも何も無い所から、いきなり現れたのだから普通の出来事ではない。
まぁ、転移先にたまたまここが選ばれた訳だが、これが功を奏した。
もし転移先が田舎出なく都会であれば大きなニュースとして扱われた可能性も無くはない。それでも多くはデマとして捉えるだろうが。
問題はそこではなく、都会であれば不法入国外国人として捕らえられていたであろう点だ。
ここが田舎で、優しい人ばかりだったからこそ、俺は目覚めた時に恵比寿さん宅で看病されていて、取り乱した俺に寄り添ってくれたんだと思う。
そこからは恵比寿さん宅で寝泊まりをしてテレビで日本語を学び、ご飯食べ、人に触れ合って……
この時間は……長く戦い続けた俺にとってとても幸せな時間だったな。
何より田舎の地域間での絆が俺を守ってくれたんだろう。村の全員が俺を恵比寿さん宅でホームステイしてる学生であることを無闇に疑わなかったのだから。
少なくとも、ここにいるから今のビリーがあるのだ。
「それじゃあ、俺はここらで失礼しますね」
「今日は助かったでなビリー」
「はい」
そうして俺が自宅へと戻ろうとした時だった―――
「ビリー!空から……女の子が!」
俺の時と同じ様に……人が空から舞い降りたのだ。
それも―――頭に角を生やした白髪の女の子が……
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