英雄は日本に転移した

ゆずリンゴ

住めば都

『これで長年続いた因縁も終わりだ!魔王リロー!』


男の持つ剣が巨体を貫く。


『グッ、小賢しい人間め!だが……お前だけでも道ずれにしてやろう……勇者ビリクト。

強制転移魔法スペスリウムシャフル!』


『な、何をした!?』


『これでお前は私と共にこの世界を外れた地へと迷い込む!そこは地獄か、冥界か、人間では生きることもままならぬ地か。永遠の苦しみにお前も堕ちるのだ!勇者ビリクト!グハハハハ!』

『身体が消えて……』

『ビリクト、待って!私を置いて行かないで!』

『アリシア……大丈夫だ、また逢え―――』



「……夢、か。なんでだろうな、ここ最近あっちの世界にいた頃の夢をよく見る」


カーテンの隙間から差し込む光で目覚めると俺はそう呟く。

勇者ビリクトとして生き、憎き魔王リローを倒したあの日からもう10年も経つというのに未だに夢に見るのは……きっと、あちらの世界に残してしまった……大切な存在のせいだ。


あっちの世界で過ごした日々は未だに忘れられないし、この世界へと訪れる元凶になったあの日の出来事は記憶に焼き付いている。

魔王リローが最後に放った技によって……地球という星にある日本へと飛ばされたあの日の事は特にだ。


ヤツの放った最後の技は恐ろしいものだった。

実際にヤツが言ったような地獄だとか、生きることもままならない地へと飛ばされた訳ではない。だが、運が悪ければヤツの言う通りになって死んでいた可能性もあるのだから。


まぁ、実際に飛ばされたのは元いた世界であるドルティナよりも平和な世界で……住むところ、食べるところに命をかける必要は無いし、人は親切で文明も異次元に進んでいる。

更に辺りにいる動物は魔獣より可愛いくて弱いときた。

俺たちがあの世界で求めてきた物が、こっちの世界では最初からあった。


この世界の言葉に、『住めば都』ということわざがあるが……こわとわざの通り日本という国に俺にとってすっかりと住み慣れ居心地のいい場所へと変わってしまった。

もし、元の世界へと戻れると聞いても素直に喜べない程までに俺はこの世界に……


正直、こんな自分が憎い。

だって俺は、あの世界に1番大切な仲間達を残してしまったのだから。


王国騎士団の団長であり最年長、頼りがいのあったブレスト。

それこそ最初は「こんな小僧に任せるなんて〜」なんてのが口癖だから印象は悪かったな。でも今では魔王を倒すために人一倍努力してきた彼だからこその言葉だ。

最初に鍛えてくれたのは彼だし、彼が居なければ俺の旅は野宿中に襲ってくる魔物の手で終わっていたかもしれない。

途中から呼び名が勇者に変わった時は嬉しかった。

今は王国騎士団に戻ったのか、それとも旅を続けながら魔獣の脅威から救ってるのか。


野生児でありながら武道家のミーニャ。

出会った頃のインパクトは1番強かったな。

森でさまよっていたら同い年くらいの布1枚の女の子が襲ってくるだなんて……

育て親であるキングオラウ直伝の武術は動きが読めなくて厄介だったなぁ。

でも、それ故に味方になってからは頼もしくて。

それに彼女の野生の勘はトラップまみれの遺跡や魔王城で輝いていたな。

立ったまま寝る癖とウォーグル食い……この世界で言う犬食いはまだ治ってなのかな。


女たらしで吟遊詩人のミリアーテ。

旅の道中で何回も出会してはその度に美しい音色で旅の疲れを癒してくれて……でもいつの間にかパーティメンバーとして当たり前のようにいつも一緒ににいるようになった。

ブレストとは相性が悪かったし、アリシアに擦り寄るし……ミーニャにはよく引っ掻かれていたけど、ムードメーカーで旅に必要な存在だったとは思う。


―――そして幼なじみで、ずっと一緒にいたアリシア。

本当は怖がりの癖して、勇者として選ばれた俺を心配してついてきて……最後には恐怖の象徴である魔王にすら立ち向かった、俺の大好きな人。

俺が消えたあの世界でアリシアはどうしているのか。

……俺を探しているのだろうか。

いや、アリシアは強いから、それよりも残った魔獣を倒したりしてるんだろうな。



……なんて想像してるけど、過去に縋ってないでいい加減俺も進むべきだよな。

10年も経てばアリシアも俺以外に気になった男の人とかできててもおかしくは無いわけで。

むしろ、アリシアの幸せを考えるなら他の男と結ばれることを願うべき、か。

俺が残してしまった『また逢える』という言葉は……きっと叶わないのだから。

















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