第3話 真実の瞬間



研究所の地下で見つけたものは、全てを変えた。


「これは...」


麻衣の手が震える。暗号化された研究データの中に、想像を絶する内容が記されていた。


被験者の失踪。意識の強制的な分離実験。そして、その成功例。全て、渡辺教授の署名入りで。


「やはり、気付いていたんですね」


突然の声に、麻衣は振り返った。


「渡辺先生...」


教授は、いつもの温厚な表情ではなかった。その目には、狂気に近い興奮が浮かんでいた。


「人類の意識進化に必要な犠牲です」


「犠牲? これは明らかな人権侵害です!」


「麻衣君」


教授の声が低く響く。


「君には分かるはずだ。意識の量子的性質。それは人類に与えられた、次なる進化への鍵なんだよ」


麻衣は、密かにデータコピーを自分のタブレットに転送し終えていた。


「意識を分離し、再構築する。その過程で、人類は新たな存在へと生まれ変わる」


「でも、それは...」


「私たちには準備ができている」


教授は実験室の奥を指さした。そこには見覚えのある装置。しかし、研究所の標準的な実験機器とは、明らかに異なる改造が施されていた。


「今夜、最終段階に入る。そして君には、特別な役割がある」


その時、麻衣の視界に、またあの歪みが現れた。しかし今度は、その意味が分かった。


それは警告だった。未来からの。


「誠さんには話しましたか?」


「彼はまだ...だが、すぐに理解するはずだ」


麻衣は、決断を下していた。


「申し訳ありません」


素早い動きで、非常警報を起動する。けたたましい音が響き渡る。


「止めなさい!」


教授が制御パネルに駆け寄る。しかし遅かった。麻衣は既にデータを外部に送信し終えていた。


「全てを台無しに...」


その瞬間、予期せぬことが起きた。


実験装置が、突如として起動を始めたのだ。


「どうして...」


制御不能な量子反応が、空間を歪ませていく。


「これは...」


教授の表情が変わった。


「まさか、意図的に...」


「先生!」


麻衣は叫ぶ。実験室全体が、青白い光に包まれ始めていた。


「私が、私たちの研究を...守らなければ」


教授の言葉が、狂気めいていく。


麻衣は直感的に理解した。このまま放置すれば、取り返しのつかない事態に。施設全体が、制御不能な量子状態に陥る。


「申し訳ありません」


麻衣は、最後の手段を取った。緊急シャットダウンシステム。しかし、それは同時に...。


強烈な光が実験室を満たす。


その瞬間、麻衣は見た。無数の可能性が交差する空間を。そして、その先にある未来を。


「誠さん...」


意識が遠のいていく中、彼女は確信していた。


これは終わりではない。

始まりなのだ。


光の中で、麻衣の意識は拡散していった。しかし、完全には消え去らない。


量子もつれによって繋がれた意識は、永遠に共鳴し続ける。


そして今、その共鳴が新たな物語を紡ぎ出そうとしていた。完



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量子の記憶 -Quantum Memories- 量子意識研究所が隠した真実 ソコニ @mi33x

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