セントロは今頃葬式の準備に大忙しだろう。わたしたち五人の姉妹も集合するので、客間のもたくさん使われるはずだ。子どものころわたしたちが過ごした離れの屋敷を解放してくれれば勝手に過ごすものを、塔主になったわたしたちには使わせてはくれないのだ。



「ついに冬を越せなかったわね。もう少ししたら暖かくなって、元気に過ごせたでしょうに。……詮無いことだけど」


「そうですね。ずっとお体の調子が悪いとは聞いておりましたが……いつごろ、民に知らせますか」


「明日……明後日かもしれないわね。わたしは今日中でいいと思ってるけど、セントロは反対するでしょうから。セントロに合わせるしかないわ」


「官僚には知らせても?」


「構わないわ。みんなの方が忙しくなるでしょうから。でも、使用人には漏らさないように」


「はい。……またエストレリャが空きますね」



 苦く笑う。わたしの代はずっと、五人の姉妹しかいなかった。わたしたちは六人必要なのにも関わらず。本当は、五つの塔と一つの城を、わたしたち姉妹で埋めなければならないのだ。


 直系がやはり望ましいが、血縁関係があれば良いということにはなっている。先代で北東の海を埋めていたのは、直系の姉妹たちにとっては従姉妹にあたる姫だったし、今代もそうなるかもしれない。三年前に、先代たちの末姫であったわたしたちの母も流行り病で死んでしまったので、もう直系は生まれようがないのだ。脳内に家系図を広げて、血縁関係のある人々の年齢をさらう。わたしたちより年下の女の子はほんの少ししかいない。



「しばらくは、またわたしが代行をしなければならないかしら。みんなに負担をかけるわね」


「一番大変なのはコンチェッタ様ですから」


「わたしは、仕方ないことだわ。でもあなたたちは、仕事がただ増えてしまうでしょう。できるだけ負担はかけたくないけど……」



 いえ、と言いながらロベルトが視線を落とす。膝の上で握りしめられた手の関節が、力が入りすぎて白くなっている。


 ロベルトの孫娘も体が弱いからか、なにかとリリスのことを構ってくれていた。やれ風邪を引いた、皮膚病にかかったとリリスの話しが届くたびに、医者を紹介してくれたり、滋養の付くものを贈ってくれたりしていた。リリスのつたない筆跡で書かれた礼状には、ロベルトの名前があがっていたこともある。わたしよりよっぽど彼の方が、リリスのことを気にかけていたのかもしれなかった。形だけの贈り物をしていたわたしよりも。


 十五歳になるとわたしたち姉妹はセントロの離れから出て、それぞれの入海を望む塔に住むことになる。リリスが生まれたときは、わたしはもう十八歳だった。三の姫であるヴィヴィから下は一緒に暮らしていたので、もう少し気の持ちようが違うだろう。


 リリスが生まれた年は嵐がひどくて、玄界の海から離れることができなかった。かわいい赤ちゃんですと妹たちから手紙は来ていたけど、末の妹と会えたのは、結局母の葬式だった。そこから会えたのは、毎年の年始の挨拶のときくらいだ。この島で最も寒く、北風が吹きすさぶ玄界の海に、あの体の弱い子どもを招くわけにもいかず、わたし自身も仕事の忙しさを言い訳に、あの子を訪ねることはしなかった。

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