『金の花は空高く、青い瞳は地上に。』
末の妹の訃報が届いたのは、まだうすら寒い、春の早朝だった。
元は乳母だった年老いた侍女が、黒い縁取りをされた電報の紙をがたがた震える手で差し出してきたので、あんまり哀れな気がしてその手を両手で包んでやったほどだった。彼女の方がわたしよりショックを受けていて、哀しんでいた。だって、わたしはっていうと、彼女が来る前に起き出して本を読んでいたのを咎められやしないか不安で、毛布の下に押しこんだ本のことばかり考えていた。
侍女に少し休むように言ってから、ベッドから降りる。自分が寝ていた跡が残ったベッドはそのままに、窓辺に置いたサイドテーブルの蝋燭の火をつける。電報文を記したインクはまだ乾ききっていなくて、てらてらと光っていた。
――取り急ぎ申し上げます。六の姫君アラセリス様が先ほどお隠れになられました。一の姫君コンチェッタ様におかれましては、大至急エストレリャまでお越しください。
わたしたち姉妹が単に中央(セントロ)と呼ぶ城は、他の人々からはエストレリャと呼ばれている。わたしたちが住んでいる島の名前を冠する城は当然、国を司る場所であり、地位の高い人間が暮らす場所である。この島唯一の城。真っ白に輝く城。星の形をしたこの島の、中心にそびえている。
あそこでわたしの末の妹が死んだ。
紙を二つ折りにして、本棚の本の間に挟み込む。侍女や執事は知ってもいいけれど、掃除をしてくれるような、あまり階級の高くない使用人たちには知られてはならない。明日明後日には島中に知らせるようなことであっても。本棚のガラス戸を閉めて錠をかける。サイドテーブルの小さなベルを鳴らす。すぐさま廊下に面したドアからノックの音がした。一際機敏な音だったので、相手はすぐにわかった。
「どうぞ、入って」
「おはようございます。なにかご用でしょうか」
そう言いながら、カルロータの手には湯気の立つ洗面器があった。ベッドのふちに腰かけたわたしの方にすたすた歩いてきて、わたしの洗面を始める。顔を拭いてもらって、ふうと息を吐く。
「アメリタは大丈夫かしら。顔色がずいぶん悪かったわ」
「めまいがすると申しておりました。申し訳ありませんが、身支度はわたし一人でお手伝いさせていただきます」
「わかったわ。朝食の前には、セントロに出発しなければならないの。アメリタとカルロータは一緒に来てもらうつもりだから」
「はい」
「喪服を」
はい、とカルロータの低い体温の返事が部屋に響く。喪服は、隣の部屋に用意してあるはずだ。いつでも着て出発できるように、階下の、侍女が待機する部屋にずっと準備してもらっていた。
化粧台の前に移動して、髪をすいて、一番シンプルなシニヨンにまとめてもらう。眉の形と肌の表面を整えるだけの化粧をして、カルロータが一度退出する。鍵のかかった鏡台の引き出しを開いて、アクセサリーを選ぶ。とはいえ、宝石をあしらったものはほんの一部で、ほとんどが真珠のものだ。連なっているか、形と大きさが違うか、かすかに色合いが違うかの差しかない。
小粒の真珠でできた三連のネックレスと、真珠が一粒だけのピアスを選ぶ。三連のネックレスは華やかすぎて葬式には不向きではあるけれど、先月、末の妹以外の姉妹がそろった席で、もしものことがあれば、なにか全員そろわなければならない日があれば、このネックレスを身に着けると決めていた。わたしたちの末妹の誕生日に、姉妹全員そろいで作ったもので、わたしたち六人が全員がそろいで着けられるものはこれくらいしかなかった。
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