第3話 答え

金田さんとの一件があり少し経ち、心配していたような事にはならず一安心する。

 あれ以来僕と金田さんはお互いの事を意識しているのか、話すときも上手く言葉がでずどぎまぎしてそれを見た黒田さんに冷たい視線を浴びる日々を過ごしていた。

 

 そんなある日の休日。

 最新のゲームが発売しそれを買いに本屋に行くと、そこには店のエプロンに袖を通して接客している黒田さんの姿があった。

 この本屋はラノベを買うために何度か寄ったことがあるが、こうして黒田さんの姿を見るのは初めてだった。

 

「あれ、小田じゃん」

「こ、こんにちは」

 この状況にどうしていいか分からずとりあえず挨拶することに。

 

「これ、今日発売のやつ?」

「う、うん」

「これ結構面白いよね」

「やったことあるの!?」

 同士がいることに驚きと嬉しさが混ざりつい大きな声を出してしまう。

 

「ちょ、声大きいよ」

「ご、ごめん」

 黒田さんは左手人差し指を口元にあて静かにするよう促す。

 

「あたしさ、あとちょっとで終わるから待っててくれない?」

「わ、わかった」

 理由をなんとなく察し、しばし待つことに。

 ――――

「おまたせ」

「う、うん」

 そう言い黒田さんは何食わぬ顔で僕の乗ってきた自転車後輪の座席に腰を下ろす。

 

「れっつご~」

 気の抜けた声で言い早く帰るよう促されおまわりさんに見つからない事を願いながら、自転車をこぐ。

 

 途中家の近くのコンビニでアイスを買って帰ろうと言うのでコンビニへ。

「買うの?」

 

 お昼時と言うこともありついでにお腹を満たせる物を買って帰ろうと陳列された品を見ていると不意に声をかけられその品から目を離す。

 結局僕はおにぎり2個とアイスを買い、黒田さんはカップ麺とアイスを買って帰ることに。

 

「なんで買わなかったの」

「い、いや。おにぎりがやっぱり食べたかったから」

「ふーん。そっか」

 気のない返事をするが察しの良い黒田さんならおそらく気づいているだろう、僕が陳列された惣菜パンを見て何を意識していたか。

 ――――

「じゃあ、僕はこれで」

「いやいや、こっちでしょ」

 お互いの住むアパートに着き部屋に入ろうとしたがそれを黒田さんが静止する。

 

「買ったゲームやろうよ」

「え、2人で?」

「そう。対戦」

 ――――

「お、おじゃまします...」

「は~い」

 何が何だか理解出来ないまま黒田さんに案内され、買ったばかりの最新格闘ゲームを対戦することになった。

 

「ダウンロードしといて」

「わ、わかった」

 言われ黒田さんの自室に入り、ソフトをダウンロードすることに。

 

「.......え」

 部屋の電気をつけるとそこには僕がこれまでやってきたゲームや、読んでいるラノベ、観てきたアニメのグッズがなどが整理されていつでも鑑賞できるように並べられていた。

 

 僕は女の子の部屋に入ったのも、初めてで緊張したがそれ以上に驚いてしまった。

 まさか僕と同じ趣味の人がいるなんて。

 

 黒田さんは160cmあるかどうかの身長に黒髪ボブで、あまり発言はせず大人しい性格だが、その整った顔立ちから噂では隠れファンがいるとかいないとか、話を聞いた事がある。

 

 そんなクラスでも人気の黒田さんがという事実に。

「びっくりした?」

「あ...」

 リビングに行っていた黒田さんが戻ってきてそんなことを言う。

 

「驚いたよ。黒田さんも好きなんだ?」

「そうなんだよね。だからほんとはもっと早く小田と話したかったんだ」

 黒田さんは顔を赤くしながら後悔しているかのように言う。

 

「ダウンロード終わるまでもうちょっとかかるし先お昼食べる?」

「そ、そうだね」

 恥ずかしいのかその場を切り替えるように言い2人でリビングへ。

 

「今日家族の人は?」

「母親は仕事で、弟は外で遊んでると思う」

「そう、なんだ...」

「あ、今。2人っきりって思ったでしょ」

 黒田さんは僕の気持ちを見透かしたように言い、どこか人を挑発するような表情を浮かべていた。

 

「そ、そんなことないよ」

「ふ~ん」

 そう言う黒田さんはにやにやしながら僕を見ていた。

 

「もう、終わったんじゃない?」

 その空気に耐えきれず逃げるようにその場を離れ、確認しに行く。

 ――――

「あ、ずるいそれっ!」

「あたしの勝ち!」

 

 ベットを背にして何度か対戦を繰り返している内に、疲れてきたのか黒田さんは僕の肩に身体を預けてきたり、ベットに身体を移し自分が楽な体勢でプレイしていると。

 

「ん~どうした。さっきより操作が鈍くなってるぞ~」

 僕の操作が鈍くなったのを分かっていてそんなことを言っているのだろう。

 

 黒田さんがベットの上から体重をかけたときに、僕の背には2つの柔らかな温もりを感じ。

 その温もりからなんとか意識を逸らそうと、黒田さんって着痩せすんだーとかそんな事に意識を回す。

 

 画面を前に後ろにいる黒田さんの表情は確認できないがきっと口角をあげ、挑発的な表情を浮かべているに間違いない。


 学校にいるときとはだいぶ印象が違う黒田さんを前に困惑しながら、何度か格闘ゲームを対戦しお互い読んでいるラノベや、アニメなどの話で盛り上がり、あっという間に時間は過ぎていき。

 

「もうそろそろ帰らないと」

「そっか...」

「うん...」

 言葉にはしないが2人ともまだ一緒にいたいというのがなんとなく伝わってくる。

 

「あのさ、小田」

 玄関前まで来たところで黒田さんが僕の足を止める。

 

 何かを言おうとしてそれを言って良いのか悩んでいるような黒田さん。

 そして意を決したように。

 


「あたし小田の事好き...なんだ...」

 


 

 伝えられその瞬間僕は何も言うことが出来なかった。

 

「1年の時から気にはなってたんだけど、この気持ちがなんなのか最近までわからなかったんだ」

「...最近」

「うん。あの子が小田に伝えるまで」

「......」

「ううん。ほんとは気づいてた。でも気持ちに蓋をして、あの子を応援するんだって」

「......」

 黒田さんは自分の気持ちを確かめるようにゆっくりと。

 

「でも、伝えないまま終わるのは嫌だって気づいて」

「...うん」

「あの子の事考えてあげてって言ったのにこんなこと言うのはおかしいけど...さ」

 そこで言葉くぎり真剣な表情で。

 

「あたしのことも考えてほしい」

 黒田さんが伝えてくれた言葉をないがしろにしないように。

 いま僕が言える言葉に気持ちをこめて。

 

「伝えてくれてありがとう。ちゃんと考えて答えをだすよ」

「うん...」

 ――――

 それから僕たちは体育祭、文化祭、修学旅行などそれ以外にも多くの時間を共に過ごし、同じ大学に進学したいと、遊ぶのを我慢しその文勉強に時間を費やし、何とか同じ大学に進学し3年生の時に同棲を開始、仕事は別々の会社に就職し、社会の波に呑まれてお互いの時間が合わずすれ違う時や喧嘩をすることもあるけど、それでもなんとかやっていけてる。

 ――――

「コンビニ行くなら、あれ、買ってきて」

「また!?ほんとに好きだよね」

「いいじゃん。別にっ!」

「分かった。利久、行こう」

「うん!ママ行ってきます」

「いってらっしゃい。パパの言うことちゃんと聞いてね」

「は~い」

 こうして子供にも恵まれ、二人目の子供も授かり裕福とまではいかずとも、幸せな生活を送っている。

 ~完~。

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金田さんと黒田さんと僕 はっしー @hasshi_0404

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