第2話 買い物

土曜日、12時50分。

 ショッピングモール正面入り口。

「まだ金田さんは来てないか」

 

 休日と言うこともあり、幅広い層の利用客であふれている中待ち合わせのため1人ぽつんと指定された場所で待つ。

 しかし待ち合わせの1時間経っても来る気配がない。

 

「どうしたんだろう」

 心配になり携帯に連絡を入れ、しばらく待つ。

 

 そこから20分後、14時10分。

「小田-」

 

 僕の名前を呼びながら走ってくる金田さんが姿を現した。

「おまたせ。それじゃあ行こうか」

「あ、ちょっ」

 

 1時間20分の遅刻だが平然とした様子で店内に足を運ぶ。

 その様子に訝しみながら置いていかれないようについて行く。

 ――――

「これ、あとこれも、それからこれ」

 服や、靴、帽子など店を転々とし、気に入った物を次から次へと買っていきその荷物を全て僕に持たせる。

 

 序盤で気づいたが荷物持ちとして呼ばれたらしい。

「買い物って楽しい!」

 

 心の底から楽しんでいるようで今の軽い足取りでまだまだ買う物はあると次の店に足を運ぶ。

 それを重い足取りでついて行く。

「何やってんの。早く-」

 

 僕の事など全く気にした様子もなくそんなことを言う。

 こんなに買ってお金は大丈夫なのか聞くと、コンビニでバイトしているらしくお金の心配はいらないらしい。

 コンビニでバイトしていることに驚いたが金田さんなら接客に多少問題があっても、迷惑客が来たときは学校で遺憾なく発揮している威圧的なオーラで相手を追い返し、お店から信頼されてそうだ。

 ――――

 両手いっぱいに荷物を持ちこれ以上は持てそうにない僕の様子には目もくれず、すでに3時間以上買い物を続けている。

 そんな様子に我慢の限界が来てついに。

「...ま...てよ」

 

 僕は持っていた荷物を全て投げ捨てる。

 荷物は周辺に散らばり、行き交う人達は何事かと怪訝な表情を浮かべ通り過ぎていく。

 

「あー何やってんの、私の荷物が...」

 金田さんは突然の僕の行動に困惑しながら。

 

「荷物が傷ついたらどうするの」

 ただ荷物の事だけを心配していた。

 

 それを見て金田さんは僕の事をただの荷物持ちだと、ただの便利な道具だとしか見ていないのだと分かり、その瞬間全てがどうでも良くなった。

 

「いい加減にしてよ」

「ど、どうしたの...?」

 

 金田さんは理解出来ないと言った表情で床に散らばった荷物を元に戻しながら僕を見ている。

「自分は荷物の1つも持たないで好きに行動してそれに付き合わされる僕の身にもなってよ」

 

 やめておけ。

 これ以上は言うな。

 取り返しのつかないことになる。

 

 心の中の僕が静止するが一度口から出たものはそう簡単に引っ込まない。

 金田さんは勝ち気で誰にも文句を言わせないいつものオーラはなく、ただ唖然としている。

 

「昨日から人の事暇だと勝手に決めつけて今日だって来るように言ったのは金田さんなのに、1時間以上遅刻して謝罪の1つもない。もう、やめてよ」

 

 そこまで一息に言いこんなに感情的に物事を言ったことが無かったので喉の奥がじんじんと熱をおびているのを感じその勢いのまま散らばった荷物の事など気にすること無く店を後にする。

 

 店を出る際金田さんは何か言いたげな表情をしていたが、そんな事は僕にとってもうどうでもいいことだった。

 恐らく週明けの学校から僕の居場所はないだろう。

 

 金田さんほど影響力のある人がこんな事があったと一言、言えば全員が見方をし僕を排除しようとするだろう。

 けど僕は日頃から溜まっていた鬱憤や今日感じた事思った事を言ってすっきりしたし、僕にはゲームやアニメ、ラノベもあるから平気だ。

 

 それなのに。

 心の中が空っぽになった感覚があり、目から浮かんできたそれを拭いながら帰路につく。

 ――――

「小田...」

 アパートがもうすぐ見えるという距離まで帰ってきた所で不意に名前を呼ばれた気がして顔をあげる。

 

「黒田さん」

「ちょっといい」

 

 付いてこいと促し、何事かと思いながらついて行くと。

「ファミレス?」

 

 そこから30分ほど歩いてやってきた場所に困惑しながらも黒田さんの後ろについて行く形で店内へ。

「...金田さん」

 

 そこにいたのはつい1時間ほど前に僕が感情をぶちまけた相手が表情を沈ませて遠慮気味に座っていた。

「まあ。座って」

 そう言い黒田さんは金田さんの隣に座り状況が読めないながらも、2人の対面に座る。

 

「で、何があったの」

 優しく諭すように問う黒田さん。

 

「私が...」

「僕が全部悪いんだ」

 金田さんの言葉を遮るように僕が口を挟む。

 

「僕が感情的になって思ってる事全部言って、持っていた荷物も床にぶちまけてせっかく買った服や靴をだめにした。」

 そこで言葉をくぎり続きを言おうとしたが。

 

「で、あんたは」

 黒田さんに静止され、急かすように金田さんに問う。

 

「私は自分の事ばっかりで全然小田の事考えてなかった」

 顔を沈めたまま力なく言う金田さん。

 

「そっか、まあ大体分かった。後は2人で話し合って解決しな」

「え、ちょ...」

 

 言って黒田さんはそそくさと店を出てしまった。

 どうしよう、気まずい。

 

 感情的になっていたとはいえ、一方的に今まで感じていた事、思っていた事を言った僕とそれを聞いてかは、分からないがずっと俯いたままの金田さん。

 

「ごめ-」

「ごめん!小田の言う通りだよ。全然小田の事考えてなかった、怒るのも当然だよ」

 先に謝罪され困惑したがよく見たら目の下が赤くなっているのが分かった。

 

「僕の方こそごめん。感情的になって一方的にあんな風に言って僕の方こそ金田さんの事考えれてなかった」

 お互いに謝罪し気持ちの整理が付いた所で店を出て解散する流れとなった。

 

「今日はごめんね。でも、ありがとう」

 帰路につく直前、謝罪と感謝と入り混じった事を言われ僕もそれに言葉を返そうとしたとき。

 

「でさ、」

 そこで言葉をくぎり。

 


「私。小田の事好きなんだよね」

「.......え」

 


 一瞬何を言われたのか分からず時が止まったような錯覚に陥る。

 それでも金田さんは続ける。

 

「突然こんなこと言われても意味分かんないと思うけど。さ...私の事考えてほしい」

 突然伝えられ困惑したが金田さんの目は真剣そのもので、僕が何か言おうとして金田さんは顔を赤くしたまま「じゃね」と小走りで帰ってしまった。

 

 ――――

「どうしたら...」

 歩きながら考えいつの間にかアパートにつき部屋の前まで行くと先に帰っていた黒田さんが玄関前に立っていた。

 

「話は終わった?」

「うん...」

「そっか」

「あの、黒田さん」

「知ってる」

 相談しようとしたが黒田さんは、全てを知っているかのような口調と表情で僕を見て。

 

「あの子は自己中で好きな事になると前が見えなくなって1人で突っ走る事もあるかも知れないけど、ちゃんと考えてあげてほしい」

「うん、ありがとう」

「実はファミレスに行く前あの子から電話があったんだよ」

「電話?」

「そ。小田に嫌われたかも、どうしようって。しかも泣きながら」

「そう...なんだ」

 その事実に驚きながら何か言おうとして。

 

「全く世話が焼けるよ」

 はぁと小さくため息をついて。

 

「まあそれはいいとしてさっきも言ったけどちゃんと考えてあげて」

「...うん」

 

 言って「じゃっ」と右手をひらひらさせ、言葉少なく部屋に入っていく黒田さんを横目に僕も部屋に入って金田さんの事を考えるのだった。 

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