第9話 神々の気まぐれ

「心の底からすみませんでしたー!!」

俺はもう何度目かわからないドゲザをしている。


 ここは転生者のみが知る秘密の集会所だ。


 目の前には前世で俺が勤めていた会社の上司だった人の生まれ変わり……、の立体映像と、惑星調査官って人の立体映像がある。


 なんでも規程で現地知的生命体がいる惑星に着陸したり、その生命体と直接接触することは基本的に出来ないんだとか。


 んで、立体映像と対面してるんだけど、前世でもおっかない上司だったけど転生してもやっぱりおっかねぇ~!




「それで、あなたは浦島太郎に転生したというのね」


「はい……」


「で、あなたは乙姫と」


「です」


「そしてあなたは元ネコで、今は浦島太郎を運んだ亀だけどネコでもあると」


「そうじゃ」


「さらにあなたは見た目ピノキオだけど、しあわせの王子の像と」


「うん」


「あなたはその時のツバメね」


「そう」


「あなたはマッチ売りの少女」


「そうよ、今ここには来てないけど、他にも大勢いるわ」


「この星は絵本の世界で、皆さん転生して来たと」


 あ、ため息ついてる。



「これ、全部見なかったことに出来ないかしら……」


「無理です、諦めてください」

惑星調査官って人が無慈悲に言ってる。


 こっちもこっちでなんかおっかねぇんだよな~。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「神々の気まぐれ?」


「えぇ、こういう事例ってけっこうあるんですよ」


 なんか惑星調査官の人には心当たりがあるみたい。




「ブラックホールがどうやって出来るのかご存じですか?」


「えっと、大質量の天体が自分自身の重さに耐えられなくなって中心部が極限まで収縮して「光」でさえ逃げ出せなくなって出来る……んじゃなかったっけ」


 惑星調査官の唐突な質問にマッチ売りの少女が答えた。

この人、見た目は幼女だけど元は看護師ですごく頭が良いんだよね。

難しい話は彼女に任せよう。


「そうですね。では、ホワイトホールは?」


「ブラックホールがすべての物質を呑み込む領域としたら、ホワイトホールはその逆で物質を放出する領域。入口と出口と言えるかしら」


「かなり雑ですが、おおむねその認識で良いでしょう」


「それが転生者が大量にいるこの星の現象と何の関係が?」



「最新の研究で、この世界は物質と精神のふたつの要素で構成されていると考えられています」


「物質は分かるけど、精神? 魂みたいなもの?」


「そうですね、そう考えて良いかと」


「ふぅん、つまりブラックホールは『物質』が大量に集まり出来るもの。それと同じように『魂』も大量に集まったら魂のブラックホールが出来ると?」


「はい、戦争や災害等により、同時期に同じ場所で大量の死者が出た場合、高確率で出来るようです」


「なるほど。わたしたちが未曾有の大災害と言われたあの地震があった場所の近くでだいたい同時期に死んだ人ばかりなのは、そういう理由なのね」


「そう考えられています。そしてそうして出来た魂のブラックホールには、それぞれそれに対応する魂のホワイトホールから出てくることになります」


「わたしたちの場合、その魂の出口がこの星なのね」



 ほーん、なるほどなー、完全に理解した。



 理解したって言ってるんだから、乙姫ちゃん、可哀そうな人を見る目を向けるのやめて。




 惑星調査官の詳しい話によると、魂のホワイトホールと言える転生者の星が、宇宙にはいくつか確認されているのだそう。


 そしてそれらの星にはそれぞれ個性があって、この星みたいな絵本の世界だけじゃなく、ある星は剣と魔法の世界でドラゴンと戦ったり、またある星では乙女ゲームの世界で悪役令嬢でざまぁしたりといった具合になってるんだとか。


 で、この転生者の星の個性を『神々の気まぐれ』と呼んでると。


 へー、けっこう解析されてるんだ。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「あの、ちょっと質問良いですか?」

俺は恐る恐る調査官に質問した。


「はい、何でしょう?」


「この星は絵本の世界ってことになってるんだけど、実際に世界を旅して見てみたら、その話の重要キャラがいないことがあったんだ。

 例えばシンデレラだと、お助けキャラの魔法使いが出て来なかった。

 しかたないから俺たちが代役やってシンデレラを助けたけど、この理由ってなんなのか分かります?」


「あー、それはたぶん、ストーリーの不確定要素ですね」


「不確定要素?」



 どうやら転生者の星に共通した事案として、元となる原作が複数・・ある場合、それらに相違があって何が現れるか不確定のキャラは現れないことがあるらしい。



 例えばゲームやアニメが原作の転生者の星の場合、元となるゲームやアニメがひとつしかないなら問題はない。


 しかし、例えば原作漫画ではAというキャラが主人公を助けたのに、アニメではBというキャラが助けているような場合、ストーリーに矛盾が出来てしまう。


 そういう場合はAもBも現れない。


 ということみたい。



 今回のシンデレラの場合、お助けキャラが絵本によって魔法使いだったり妖精だったり仙女様だったりネズミだったりしてたから、何も現れなかったのか。



 エヴァ○ゲリ○ンの世界だったらテレビ版と劇場版で違うキャラは出て来ないのかな。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



 とりあえず俺たちはお咎めなしとなった。


 おっかない元上司にものすごく丁寧な口調ですさまじい文句言われたけど。


 状況報告の為、惑星調査官と帰って行ったけど、あれは絶対また来るな……


 調査官から転生者全員にスマホみたいな通信機が配布されて、何かあったら呼び出されることにもなってるし。



∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴



「それにしても『神々の気まぐれ』かぁ」


「絵本の世界だけじゃなく、剣と魔法でドラゴン倒す世界もあったのね。そういうのも良いわねぇ」


吾輩わがはいはドラゴンというものが分からぬが、八岐大蛇やまたのおろちのようなものかの? 生き延びるだけで大変そうじゃな」


 俺はまた、乙姫と猫亀様との気ままな旅に戻っている。



「あー、剣と魔法の世界ならエルフとかドワーフとか獣人とかいるのかな」


「おじさん、ケモ耳幼女とか好きそうよね」


「正に。隙あらば吾輩のお腹や耳を撫でようとするのは慎むべき」


 ケモ耳幼女は全人類の夢なのでは? タロウは訝しんだ。



☆ピポンッ!☆


「うおっ、びっくりした。通信メールかよ」


「早速、もらった通信機スマホ使いこなしてる人がいるのね」


「誰かと思ったら一寸法師のヤツじゃねーか」


 一寸法師はしあわせの王子の街で合流した俺の悪友転生者のひとりだ。結局あの街には30人以上の転生者がやって来ている。劇作家の人が悪乗りして日本でヒットした漫画・アニメ・ドラマをアレンジした作品を大量に上映してるもんだから、完全に日本人転生者ホイホイになってるんだよなぁ。


――――――――――

From:一寸法師

To:浦島太郎


件名:ねぇねぇ今どんな気持ち?


よぉ浦島太郎、もうすぐ俺様とお姫様の愛の結晶が生まれんだよ。

出産祝い何かよこせや。

時価で100万両以下のモンは受け取り拒否するからな。

――――――――――


 通信機投げ捨てなかった俺エライ!



「助けた姫君と結婚したのであったな、目出度めでたき事よ」


「うううぅうらやまけしからん!」


「おじさん、血の涙流すほど?!」



☆ピポンッ!☆


「今度は何だよっ!」


 続いて届いたメールは、あまのはごろものお話に出てくる若者からだ。こいつ性格最悪なのに、顔だけは良い転生者だ。


――――――――――

From:あまのはごろもの若者

To:浦島太郎


件名:水浴びしてた天女様の服クンカクンカしてたら結婚することになった件


美女の水浴び覗いて、着てた服盗んだら惚れられたw

やっぱイケメンは何しても全て許されるw

いいだろーwww

――――――――――


「なんだかよくわからないけど負けた気がする……」


 ガックリ項垂うなだれる俺。



「何言ってんのよ700年もハーレム生活しといて。おじさんに勝てる人、まずいないでしょ」


 前世姪っ子の乙姫の呆れたような言葉を聞いて復活する俺。



「そうだった!」


 俺は力強く叫んだ。



「勝ったッ! 第1部完!」


「おじさん、なんだか痛い」


「それはお主が言っていたパロディーと言うものかの? それでこれはどこが面白いのじゃ?」


「やめてっ!真面目な顔で聞かないでっ!!」


 ちょうど俺が絶叫した時……



☆ドヴルルルルルルッ!☆


「うおぁっ! マッチ売りの少女ちゃんから緊急連絡?! 何事?」


「この音、トゥルルルとかもう少し優しい音にならないのかしら」


「さて、今度は何が起こったのであろうかの」



 お気楽転生浦島太郎たちの活躍はまだまだ続く!




――――――――――――――――



次回、【第10話 赤ずきん】


冬コミの修羅場に突入しました。コミケ終了まで更新が不定期になります。

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異世界転生したら絵本の世界だった 八志河 蘭 @yatsushigawalan

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