第8話 惑星調査官

「地球よ、わたくしは帰ってきましたわー!」

わたくしは宇宙宅急便株式会社のエリートサラリマンらしく宣言しましたの。


 モニターに映る地球を見ながら颯爽と声高らかに叫んだのに、横にいる惑星調査官の目が冷たいですわ。


 もう少し、いかなる時もお優雅にお優美にお煌びやかにのわが社の精神を理解して欲しいものですわ。



 これまで未発見だった知的生命体が生息する星の第一発見者ということで、わたくしは事情説明の為、調査官と一緒にまたこの星にやって来ましたの。



「あなたが前世で住んでいた日本という国の昔話の世界に転生ですか……」

調査官はわたくしの話を聞きながら、淡々とモニターの映像を解析してますわ。


 出会ってまだ数日ですけど、この方なにを考えているのか分かりませんわ。


 わたくしの言葉をまったく信じてないという訳でもないようですけど。


 まぁわたくし自身も信じがたいくらい突拍子もない話ではあるのですが、本当なのでしかたありませんわ。



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 調査船を衛星軌道に乗せ、わたくしたちは地上の様子を調べ始めましたわ。


 前回の時のような事故なら特例として認められますが、基本的に現地知的生命体がいる惑星に着陸し、その生命体と接触することは認められません。


 その星にどんな未知の病原体がいるかわかりませんし、逆にわたくしたちが持ち込んだ菌で現地生命体が絶滅する可能性もありますからね。


 スパイドローンからのモニター映像を解析していたのですが……


 惑星調査官は気付きませんでしたが、わたくしは呆然となりましたの。



 まず、ものすごく派手なお城を見つけて観察していると、お城の前の大通りでパレードが始まり、はだかの王さま・・・・・・・が歩いてましたわ。


 ご丁寧に城の裏口から詐欺師の二人が金貨を抱えて逃げ出してますの。



 さらに別のお城を見ていると、お城を抜けだした男が森の中で穴を掘り「王様の耳はロバの耳ー・・・・・・・・・・!」と叫んでますわ。


 わたくし、また頭痛が痛くなってきましたわ。



 さらにさらにわたくしはとあるお城に目を奪われましたの。


 だってそのお城って、前世のネズミの国にあったお城とそっくりなんですもの。


 しかも近々王子さまが、おきさきをさがすために舞踏会を開催するんですって!


 すぐさまスパイドローンを使って周りにある家を片っ端から捜索。


 見つけましたわ!!


 義理の母と姉たちにいじめられてる女の子!


 名前は『シンデレラ』!



 ビンゴですわ!!



「いったいどういうことです?」

惑星調査官が意味が分からないという顔をしてますわ。


「わたくしこれまでここは日本昔話の竹取物語の世界だと考えてましたけど、違いましたわ!

この星は、理由は分かりませんがわたくしの前世にあった絵本の世界を再現・・・・・・・・してますの!」



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「それでこの娘を観察すると、何がわかるというのです?」

惑星調査官が不思議そうな顔をしながら聞いてきましたわ。



 わたくしたちは今、シンデレラの家を気付かれないように観察してますの。



「わたくしの前世の絵本では、この後王子さまの婚活パーティーが開かれるんですけど、シンデレラはドレスがなくて行けないんですの。でも超常的な存在が現れて助けてくれるのですわ」


「超常的な存在? 何ですそれ?」


「少なくともカボチャを馬車に変える程度の超常的な力を持った存在ですわね。ただその姿は絵本によって違うんですの。魔法使いだったり妖精だったり仙女様だったり、ネズミだったこともありますわ」


「なんかすごいね」


「少なくとも科学とは違う体系の力を持った存在が現れますの。それはこの星の謎を解く鍵になるはずですわ」



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 舞踏会開催の日、原作の通りシンデレラの義理の母と姉たちはお城に行き、シンデレラはひとり残されて泣いていましたわ。


 わたくしたちはそれを油断なく観察していたのだけど……




 お か し い ですわ!


 いつまで待っても誰も助けに来ませんわ?!


 何かわたくし見落としてる?……と不安になった時のことですわ!




「やっぱり魔法使いも妖精も仙女様もネズミも現れない。しかたないプランBに移行する」


 どこからともなくシンデレラに聞こえない程度の小さな声がしたかと思ったら、突然天井に黒装束の……


 アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?


 どこからどう見ても忍者の格好をした男が変なポーズしながら突然現れましたわ!



「了解した、プランB開始する」


 今度は猫が突然現れた! てかキェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!



「こっちも了解、準備は出来てるわ」


 という小声が聞こえた瞬間、シンデレラの前に魔法使いの格好をした東洋美女が!



 情報量が多すぎて天地魔闘の構えで目を閉じそうになりましたわ!



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 わたくしが呆気あっけにとられているうちに、シンデレラのボロボロだった服は綺麗なドレスに変わり、魔法使いがカボチャの馬車でシンデレラをお城に連れて行きましたわ。


 ……シンデレラは気が付いていなかったようですが、実際に魔法を使っていたのは魔法使いのコスプレした女性ではなく、そばで隠れていた猫がやっているみたいでしたわ。


 あ、変身シーンの途中で粉雪が舞ったけど、その雪だけは魔女コスの女性がやったっぽい?


 何の意味があったのかしら。


 ひょっとして魔女コスの人、冷凍魔法以外使えない?



 そしてそのまま原作通りストーリーが進行。



 シンデレラはガラスの靴を落とし、王子はその靴が合う女性を探すといういつもの展開。


 通常なら同じサイズの人なんて何人もいるハズなんだけど、近くをうろついている猫が魔法を使ってるみたいで、人によって靴のサイズを変えてピッタリの人が出ないように調整してますわ。


 あ、少し離れて忍者と魔女コスの女性が猫を陰ながら見守ってますわね。


 これっていったいどういうこと……?



 それにしてもこの忍者、毎回毎回喋る度に変なポーズして。


 これって……



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 原作ストーリーがすべて終了し、シンデレラは王子に見出されてお妃として迎えられましたわ。


 その結婚式が行われてるお城の屋根の上で、忍者と猫と魔法使いコスの東洋美人が何か相談していますの。


 なんというシュールな光景!


 わたくしはその会話の内容が知りたくてスパイドローンを接近させたのですが……




「きさま!見ているなッ!」

突然忍者が顔を隠しつつ左手を出す妙なポーズをしながら叫びましたわ。


 なんて懐かしい・・・・



『忘年会で忍者コスでそのネタやった時ビールひっくり返して、二度とやらないようにってわたくし言いましたよね?!』

ドローン越しで思わず絶叫するわたくし。



「げぇっ! 前世での俺の縁者だった人物が見てる気配がするって猫亀様が言うから誰かと思ったら……」


『あれだけ病院行けって言ったのに無理して仕事して突然過労死して! わたくしがあの後どれだけ……!!』


「すみませんでしたー!!」



 忍者が見事なドゲザを披露しましたわ。



 あ、横で一緒にモニターを見ている惑星調査官の頭の上に『?』マークがいくつも出てますわ。




――――――――――――――――



次回、【第9話 神々の気まぐれ】


明日19時更新予定です。

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