第7話 宇宙宅急便株式会社
「お助けー! ですわー!!」
わたくしは緊急脱出用ポッドに飛び込みながらお優雅に叫んだ。
わたくしは栄えある宇宙宅急便株式会社のエリートサラリマン。
いついかなる時もお優雅にお優美にお煌びやかにですわー。
バズドリゴグィゴワィゴァンゴン!!!
えっと今のは外装バリアーが砕けたバリィィンという音と、内部隔壁が瓦解したズゴゴゴゴという音と、波動エンジンが吹き飛んだドグワァンという音が混ざった音ですわね。
なんて考えてる場合じゃありませんわ!
ポチッとな!
わたくしは命からがら緊急脱出に成功しましたわ。
それにしても前を飛んでいた宇宙トラック野郎協会の貨物船、過積載にもほどがありますわ。
まさか亜空間高速宙路で車線変更中に横転事故を起こすなんて。
あんなのどうやったって避けられませんわ。
でも、同じ調子で
そう、わたくしには前世の記憶がありますの。
日本という国で生きていた、貴族のお嬢様に憧れるアラフォー商社ウーマンでしたのよ。
仕事で高速道路を走っているとき過積載の大型トラックが目の前で横転し、巻き込まれて死んだのですわ。
ですから今回同じような状況になったとき、咄嗟に宇宙船間距離を空けてギリギリ助かったんですの。
このSF未来世界に転生して、いかなる時もお優雅にお優美にお煌びやかにという社訓を掲げた理想の会社を見つけて就職し頑張ってここまで出世したのに、そう簡単に死にたくありませんわ。
さて、事故の様子のドライブレコーダーは自動で本社に送られるし、そのうち救助の人たちが来るのでしょうが……
……ただ、それが何年後になるか分からないのが大問題。
宇宙はとてつもなく大きく広いのですわ。
食料や酸素の残量から考えて救助が来るまで冷凍睡眠で待つのが一般的なのですけど、それだと緊急事態に対応出来なくて生存率がかなり低くなってしまうんですの。
限界まで頑張るしかありませんわね……。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
「奇跡ですわ!」
緊急脱出から僅か数日後、わたくしは人類が生存可能な惑星を発見しましたの。
海があるし、温度も大気の構成成分も問題なし。
こんな星がこんな所にあったなんて……
これでレスキュー隊が到着するまでなんとかなりそうですわ。
でもこれほどの条件が揃っているとなると……
「現地知的生命体との遭遇も考慮するべきですわね」
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
やっぱりこの星、人類型知的生命体が生息していましたわ。
基本的に現地知的生命体がいる惑星には一般人が着陸することも、その生命体と接触することは認められませんの。
その星にどんな未知の病原体がいるかわかりませんし、逆にわたくしが持ち込んだ菌で現地生命体が絶滅する可能性もありますからね。
ただ、今回のような事故では特例として限定的ですが着陸も接触も認められていますわ。
酸素や食料を補給しないと死んじゃいますものね。
とりあえず精密検査でも大気に有害なものはありませんでしたわ。
そうしてこの星を詳しく分析していて、わたくし恐ろしいことに気が付きましたの。
なんだかどこかで見たような地形……
まさかまさかまさか……
わたくしは大陸のそばにある島国の、人里を少し離れた林の中に脱出用ポッドを着陸させ、スパイドローンでさらに詳細に調べましたわ。
この景色、原住民の服装、そして言語。
「こ、ここ、ここって昔の地球……日本……ですわ」
あまりに信じられない情報に混乱するわたくし。
百歩譲って、同じような環境の惑星であれば同じような外見に人類が進化する可能性はありますわ。
でも、大陸の地形や使用している言語がまったく同じになることはありえない。
なのに衛星画像を見れば前世で見慣れた日本列島で、スパイドローンの映像を見れば明らかに喋っているのは昔の日本語。
「ありえない……ですわ」
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どうやらわたくし、未来の世界に転生したと思っていたのですが、過去の世界に転生していたみたいですわ。
時代は平安時代の初めくらいかしら。
言葉はなんとか通じそうで少し安心。
ちなみにわたくしの外見ですが、典型的な宇宙宅急便社員の体型ですわ。
宇宙で長期間輸送業務をするとなったら肉体労働をする必要がないので大きな筋肉は不要。
さらに居住スペースの観点からも身体は小さい方が良いのが当然。
乗務員の身体が小さければ基礎代謝も少なく、当然食料も少なくて済み、それだけ輸送する荷物を増やせますからね。
そういう理由で脳重量を確保するため頭のサイズはそのままで、わたくしの身体は小さく改造されてますわ。
見た感じは四・五歳の子どもという体型ですわね。
と言うか、もともとわたくしは小顔で童顔なため、見た目は完全に幼女なんですの。
まぁもし体型を変える薬を服用しなければ、数ヶ月で大人の体型に戻るのですけど。
そんな外見のわたくしが原住民とどうやって交流すれば良いのかと考えている時、原住民の老人がひとりで近づいてきましたわ。
いささか強引ですが、ファーストコンタクト取ってみましょう。
何か問題が発生したとしても、最悪睡眠薬で眠らせてしまえば夢だと思ってもらえるでしょうし……。
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「うそ……、ここって竹取物語の世界なのですの?」
衝撃の事実!
死んで未来の世界に転生したと思ったら過去の世界で、それも日本昔話の世界でしたわ!
何を言っているのかわたくしにも良く分かりませんが、そうとしか考えられませんわ。
やって来た老人の名前は、さぬきの
わたくしが着陸したこの林の近くに住む竹職人で、この林の竹を使って色々な物を作って暮らしている老人。
通称、竹取の
これを聞いたとき、気付くべきでしたわ。
その竹取の翁の前にわたくし、脱出用ポッドから出て姿を見せたのですの。
まず脱出用ポッドですけど、本船が爆発した時の破片や流星雨などからの被弾面積を減らすため細長ーい形をしていますわ。
それが薄暗い林の中、金属光沢でキラキラ光ってましたの。
見方によっては、光る竹に見えてしまいますわ。
そしてその中央にあるハッチを開いて現れたわたくし。
宇宙服で出るわけにもいかず、適当にこの時代の
見方によっては、光る竹が割れて、中から貴族の女の子が出てきた状態ですわ。
せめてこの段階で気付いていれば……
竹取の翁に崇め奉られるように連れられて彼の家に行きましたわ。
そこで彼の妻の
その対価として、船にあった金を渡しましたわ。
金って熱伝導率・電気伝導率が高いし加工がしやすいんで宇宙船にたくさんありましたし、
そうこうするうち、宇宙で長期間輸送業務をするために身体を小さく改造していた薬の効果が切れ、わたくしは本来の大人の姿に戻りましたわ。
そうしたら大人になったお祝いとして、竹取の翁がわたくしに名前をつけてくれたのですわ。
『かぐや姫』と。
この時になって、わたくしはやっと理解したのですわ。
この世界は過去でも未来でもなく、日本昔話の世界なのだと。
頭痛が痛いですわー。
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村中の男たちからプロポーズされましたわ。
お金持ちのお姫様と思われているのですから当然と言えば当然ですが、うざいですわ。
当然すべてお断りしていたら、今度は都の貴族たちからプロポーズされましたわ。
うざいので無理難題を言って絶対手に入らない物を要求してたら、今度は
うざいにもほどがありますの。
そんなこんなで数年時間を潰していたら、宇宙宅急便株式会社のレスキュー部門から連絡が届きましたわ。
そこでわたくしは現在の状況を説明。
未発見の知的生命体が生息する星を発見したこと、穏便にこの星から脱出したいことを伝え、了承されましたの。
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竹取物語のストーリーの通り、次の満月の夜に月の世界からお迎えが来ると竹取の翁と嫗に言うと、大騒ぎになりましたわ。
村中の男たちはもちろん、帝や貴族たちが
本人たちは一生懸命なのでしょうけど、恒星間航行用宇宙船に竹槍で立ち向かおうとする姿はなんとも言えないものがありますわ……
満月の夜となり、予定通り迎えの宇宙船が到着し、着陸艇がやって来ましたわ。
予想通り何もしなくても空を飛ぶ船のサーチライトを見ただけで帝や貴族の軍はパニックを起こして総崩れ。
そんな中、わたくしはあくまでお優雅にお優美にお煌びやかに着陸艇に乗り込みましたわ。
わたくしは栄えある宇宙宅急便株式会社のエリートサラリマンなのですから。
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それにしても、死んで未来の世界に転生したと思ったら実は過去の世界だったと思ったら実は日本昔話の世界とか……
もうこれ以上『実は』な展開は勘弁して欲しいですわ。
ふ、フリじゃないですわよ!
もう本当にやめて欲しいですわ……
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次回、【第8話 惑星調査官】
明日19時更新予定です。
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